【スバル クロスオーバー7 800km試乗】よく出来た3列シートのツーリングギア…井元康一郎

試乗記 国産車
エクシーガ・クロスオーバー7。南知多町にて。
エクシーガ・クロスオーバー7。南知多町にて。 全 14 枚 拡大写真

スバルの7人乗りステーションワゴン『エクシーガ クロスオーバー7』で800kmあまりツーリングする機会があったのでリポートする。

クロスオーバー7は『エクシーガ』のビッグチェンジに位置づけられる多人数乗車モデル。スバルは伝統的に3列シートのラインナップは薄く、自社製モデルとしては過去に軽自動車ベースの小型ワンボックスワゴン『ドミンゴ』が売られていた程度。エクシーガはそのドミンゴが生産中止になってから10年のブランクを経た2008年に登場。そのシャシーは03年にデビューした、スバルのエンジニアが「BL系」と称している4代目『レガシィ』にまでさかのぼれるという、旧世代の技術でまとめ上げられたモデルだ。ただ、クロスオーバー7に装いを変えるにあたり、スバルは最低地上高アップをはじめサスペンションのジオメトリを全面変更するなど、大幅なアップデートを実施している。

試乗ルートは東京・葛飾を出発し、静岡および愛知のバイパスルートを走って知多半島を周遊。帰路もバイパスメインで走行して東京・葛飾に戻るというルート。総走行距離は880km。うち燃費計測区間は738.9km。試乗コンディションは行程の約半分がウェットないしヘビーウェット、2名乗車、エアコンAUTO。

◆かなりのコストパフォーマンスを発揮

まずはドライブを通じた総合的印象から。クロスオーバー7は基本設計は古いものの、良心的にまとめ上げられた良い3列シートワゴンだった。シートやトリムにオレンジ色の不織布を使うといったカジュアルな演出が随所に盛り込まれているが、それらのセンスも悪くなく、車両価格300万円以下のモデルとしてはかなりのコストパフォーマンスの良さであった。また、試乗時はたまたま天候が悪かったのだが、ヘビーウェットのワインディングロードなどでも安定性を失わないなど、全輪駆動のメリットもオンロードで実際に感じることができた。半面、パワートレインが旧式なことから燃費性能でライバルに後れを取るなど、改善すべきポイントも見受けられた。

では、項目別に見ていこう。まずはシャシー性能から。クロスオーバー7のサスペンションは前ストラット、後ダブルウィッシュボーンという、車両重量1.6トン級のモデルとしては標準的なレイアウトを持つ。セットアップされるタイヤは横浜ゴムのOEM装着専用モデル「ADVAN A10」で、タイヤサイズは215/50R17。

このシャシーの傑出したポイントは、スムーズで長いストロークを生かしたフラット感だ。とくに高速道路やバイパスなどをクルーズするときのフィールは、クロスオーバーSUVのライバルを置き去りにするくらいの良さであった。たとえば国道1号線由比バイパスの下り線。老朽化によって路面が大きくうねり、高架部分の段差もきつい。さらに舗装の補修跡だらけと、快適性の面では厳しいコンディションだが、クロスオーバー7はそんな道路でも水平移動するように走る。他のクルマと乗り比べているわけではないので、クルマのほうが頑張ってくれているのだという意識は薄いのだが、ふとまわりのクルマを見るとボディが大きく上下に揺すられており、「そういえばここは悪い道だったんだな」と気づかされる。高速直進性も非常に良い。

最低地上高170mmと、ベースとなった『エクシーガ』の2.5リットル自然吸気モデルに比べて20mm引き上げられたぶん重心高も上がっているはずなのだが、ワインディングロードでの動きも悪くはなかった。高性能というわけではないのだが、ロールはスムーズで、コーナーに減速しながら入るときにも素直な前傾姿勢となる。別に攻めた走りをしたわけではないが、少なくとも常識的な速度域ではかなりきついコーナーも含めてオンザレール感覚で運転できる。

帰りの箱根峠は路面のあちこちに水の流れができるほどのヘビーウェットコンディションだったが、そこではスバルのAWDシステムがとてもいい働きをした。クロスオーバー7のAWDはアクティブトルクスプリット式で、前50:後50を基本としながら、トラクションの変化によってトルク配分を連続可変させる機能を持っているのだが、冠水気味で路面ミューがかなり小さい状態でもコーナリングでのトルク配分は適切で、クルマを変に動かすのではなく、常に的確に安定方向にコントロールしていた。2.5リットル自然吸気の単なる実用車にこれだけの性能を与えるというのは、なかなか気前のよろしいところだ。

これだけの操縦安定性とフラット感を持つ一方で、乗り心地を左右するもうひとつの要素、すなわちハーシュネス(突き上げ感、ざらざら感)の処理については平凡な感触だった。前述の由比バイパスでも、せっかくボディの水平は保たれているのに、細かいアンジュレーション(うねり)や段差の通過時にはそれなりの突き上げ感や振動が発生し、走りの質感を少なからず損なっていた。

筆者は昨年6月に一度、白いクロスオーバー7を1時間半ほどテストドライブしたことがある。そのときも成田周辺の比較的荒れた道を走って乗り味を確かめてみたのだが、果たして不整路面からのランダムな入力の吸収については非凡なものがあると感じられた。そのときの印象と今回のテストドライブの感触があまりに違うのでスバルに確認したところ、今回の試乗車は冬に雪上ドライブを行ったのをはじめ、ハードな使われ方をしてきたという。それがあってか、クロスオーバー7の広報車を3台保有しているなか、他の2車に比べて味が悪いという認識はスバルサイドも持っているとのことだった。ハードな走りをすると1万kmもしないうちに味が落ちるというのであれば、それはそれで耐久性マニアの多いスバリストの反発を買いそうだが、クルマには個体差というものもあるので真相は不明だ。とりあえず今回のクロスオーバー7はこういう感触だったということをお伝えしておく。

◆高い長距離ドライブ耐性

ドライブ中、スバルご自慢の先進安全システム「アイサイト」によるクルーズも試してみた。クロスオーバー7のアイサイトは現行『アウトバック』や『レヴォーグ』より1世代古い第2世代のシステムで、ステアリングアシストなど今どきの半自動運転のような機能は持たない。また、渋滞で停止したときも停止状態を保持することはできない。実際に乗ってみると、ステアリングアシストつきとの落差は思った以上に大きいと思われた半面、先行車両や歩行者、自転車などの検出能力は今日でも十分に一線級と言えるレベルを保っていた。アイサイトの弱点は悪天候だが、天気予報を見て事前にフロントウインドウに撥水剤を塗ってみたところ、豪雨の中でも機能は停止しなかった。これが200万円台後半のモデルに車両価格込みでついてくるのだから、あるだけで御の字と言えるだろう。

水平対向4気筒2.5リットル+チェーンドライブ式CVT「リニアトロニック」のパワートレインは、1.6トン級のボディに対し、必要十分な能力を持っている。驚くような速さや静粛性があるわけではないが、箱根越えの急勾配区間でもスロットルペダルには常に余裕があった。スポーツドライビングよりヴァカンスの道具として使われることが圧倒的に多いであろうこのクルマのキャラクターには似合っている。

パワートレインの欠点は現代のクルマとしては燃費が少々悪いことだ。燃費計測区間は738.9kmで給油量は57.6リットル、すりきり満タン法による燃費は12.8km/リットル。行程の半分が雨天で走行抵抗的に不利なコンディションではあったのだが、市街地走行の比率が低かったこと、燃費が伸び悩んだことでガソリン代が気になり、途中から普段はやらない省エネ走法を試みたことなどを考えるともう少し伸びてほしいところ。3列シートクロスオーバーのライバル、三菱『アウトランダー』や3列シートの2リットル級ミニバンのスコアを勘案すると、ロングランで14km/リットルくらいの数字はマークしてほしい。

長距離ドライブ耐性は基本的には悪くない。視界の良さやドライブフィールのナチュラルさなどが関係する運転のストレスは非常に小さく、いかにもスバル車という感じであった。一方で、シートの出来は悪いというほどではないが、延々と長時間運転を続けても身体に違和感を覚えないような良さもなかった。良いシート作りは思いのほかお金がかかるもので、車両価格の安さにより、コスト制約が相当きつかったであろうことがうかがえる。定期的に休息を取って体を伸ばすなどして疲れをためない工夫をしたほうがいいだろう。

◆知多半島へドライブ

今回のドライブの目的地のひとつは、知多半島にある新美南吉記念館。新美南吉は多くの人がご存知であろう、「手袋を買いに」や「ごんぎつね」など、詩情豊かな童話を続々と生み出しながら夭逝した昭和初期の童話作家である。その記念館が故地、知多半島の半田市にあるというので立ち寄ってみたのだ。

半島という場所は地の果て、その先は海原という地形からか、どことなく感傷的な空気が漂うものだが、知多半島もその例に漏れない。半田市界隈は最果ての羽豆岬にはまだ遠く、工業地帯からほど近いところにあるのだが、それでも雰囲気はどことなく静かだ。記念館は現代建築そのものといった面白い形をしており、内部の展示も凝ったものだ。牧歌的な土地ながら多くの優良企業が集積する半田市の財政力の高さがうかがえるところだ。

享年わずか29歳。同じく夭逝したことで知られる宮沢賢治よりさらに短命だったのだが、展示室に掲げられた文言を見ると、学生の頃から相当に早熟であったことがうかがわれた。たとえば15歳の時に書いたとされるメモ。「やはり、ストーリィには、悲哀がなくてはならない。悲哀は愛に変る。けれどその愛は、芸術に関係があるかどうか。よし関係はなくても好い。(愛が芸術なら好いけれど)俺は、悲哀、即ち愛を含めるストーリィをかこう」。

このほか館内には心温まる物語、手袋を買いにをはじめとした童話のジオラマ、遺品、初版本など多くの展示物が並び、童話好きの人ならたっぷり半日以上いても飽きないであろう。多くの地元の人々の“新美南吉愛”が肌身で感じられるスペースだった。

◆所有満足度は高い

まとめに入る。クロスオーバー7は、燃費がやや悪いという難点はあるものの、3列シートのツーリングギアとしてはよく出来たクルマだった。今回の個体について言えば、ハーシュネスカットの性能は凡庸だったが、それでもクラスのアベレージくらいには達していた。昨年乗ったものが本調子だとするならば、防振性能についても現行アウトバックよりもいいくらいの性能を持っているはずだ。カジュアルで洒落た内装も乗る人を楽しい気分にさせるもので、ツールとしての所有満足度は高かろう。

ライバルは、3列シート車のメインストリームがミニバンになっていることもあって多くない。筆頭格は同じ2.4リットルの3列シートSUV、三菱『アウトランダー』。排気量は2リットルとやや小さいが、3列シート+AWDというパッケージを持っているSUV、日産『エクストレイル』も比較対象になるだろう。その中でクロスオーバー7はもっとも乗用車ライクな味付け。ツーリングが好きで、時には悪い道も走るが、仰々しいオフロード的スタイルはいらないという顧客にとってはとても良い選択肢であるように思われた。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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