【トヨタ シエンタ ハイブリッド 470km試乗】予想を裏切る乗り味の良さに「お父さん運転うまいね」…井元康一郎

試乗記 国産車
トヨタ シエンタ ハイブリッド
トヨタ シエンタ ハイブリッド 全 19 枚 拡大写真

トヨタ自動車の小型3列シートミニバン『シエンタ』のハイブリッド版で北関東をツーリングする機会があった。総走行距離約470kmという比較的短い距離のドライブではあるが、市街地、高速道路、郊外路、山岳路といろいろな道でパフォーマンスを試すことができたので、リポートをお届けする。

シエンタは現行『ヴィッツ』、『アクア』、『カローラ』など、トヨタのBセグメントモデルと共通のコンポーネントを使って作られたコンパクトミニバン。初代はホンダ『モビリオ』の対抗馬として2003年に投入された。短期間で急遽開発されたためか完成度は高くなかったが、豊田章男社長が就任前年、初めて新車発表会の席に臨んだ後継モデルの『パッソセッテ』が大コケしたこともあって、12年間にわたるロングライフモデルとなっていた。

2代目となる現行型の登場は昨年7月。丸目ヘッドランプやオーバルなフォルムなど、“可愛い路線”の初代から一転、スポーツバッグをモチーフとした非自動車的デザインをまとった前衛的なモデルへと変貌を遂げた。また、初代にはなかったハイブリッドパワートレイン搭載グレードも新設されるなど、大幅なアップデートがなされた。月販目標は7000台だったが、デビューから1年以上、一度も販売目標を割らずに推移。それまでマーケットリーダーだったホンダ『フリード』を完全に組み伏せる強烈なスマッシュヒットとなった。

試乗車は最上級グレードの「ハイブリッドG」で、さらに先進安全システム「トヨタセーフティセンスC」や195/50R16タイヤ+アルミホイール、カーナビなどのオプションが装備され、お値段はゆうに200万円台後半というなかなか立派なものであった。試乗ルートは東京・葛飾を出発し、那須や大田原など栃木北方を周遊するというもので、道路のおおまかな内訳は高速1割、市街地2割、山岳路1割、郊外路6割。試乗コンディションは全区間ドライ、2名乗車、エアコンAUTO。

◆商品性向上への並々ならぬ気合

まずはトータルな印象から。旧態化が進んでいるトヨタのBセグメント用プラットフォームを使って1.4トン近いモデルを作らざるを得ないという制約から、乗り味はあまり良くないのではないかと事前に予想していたが、実車のフィールはその予想を裏切る良さであった。出色なのはサスペンションチューニングで、ハンドリングと乗り心地のバランスが取れたきわめて丁寧なものだった。燃費もミニバンとしては良好。また、素材の質感は大衆車レベルながら、細部までみっちりとデザインされた造形でユーザーの満足度を上げるインテリアなど、商品性向上への並々ならぬ気合が随所にうかがえた。

では、項目ごとに性能を見ていこう。ハードウェア面で最も素晴らしいと思えたのは、シャシーチューニングだった。前述のように、シエンタのプラットフォームは旧世代のもので、最新のライバルに比べるとサスペンションストロークが不足している。が、シエンタの開発陣は、その制約の中で新型を章男社長の標榜する“もっといいクルマ”にすべく、おそらくこれ以上はないというくらいに良い仕事をした。

市街地での乗り心地は多少上下方向の揺動が大きいものの、まずまずスムーズ。速度がやや上がる郊外路や高速道路ではしっとり感が増し、なかなか良いテイストになっていた。直進性もまずまずで、長距離を走っても大きな不満はなさそうに思えた。

ここまでは短いストロークのサスペンションであってもサスペンション部品の接合部のゴムや衝撃を受け止めるアッパーマウントラバーをしっかり工夫すれば誤魔化せるのだが、山岳路ではそうはいかない――と思っていたのだが、驚くことにシエンタが最も生き生きとした走りを見せたのは、その山岳路だった。

短いストロークの中でボディの傾きをしっかりコントロールすることと、細かい路面の凹凸への追従をうまく両立させており、気持ちよく走る程度の速度域でそれほど道が悪くない那須界隈くらいのワインディングを走るのであれば、クルマの動きを体で感じながらミズスマシのようにスイスイとワインディングロードを駆け抜けることができた。ばねレートやショックアブゾーバーのフリクションバランス、バンプストップラバーの硬度などをよほどしっかり煮詰めたとみえて、クルマの姿勢もミニバンらしからぬ良さだった。これならファミリーで乗っていても「お父さん恐い」ではなく、「お父さん運転うまいね」と言ってもらえることうけあいだろう。

道路状況がもっと悪い、速度レンジがもっと高いなど、安定性の面でより厳しい条件になれば、平時との落差はシャシー性能に余裕があるクルマに比べて大きなものになることが予想される。が、シエンタはスポーティカーではなくミニバンなのである。そういう道ではゆっくり走ればすむことだし、そもそもそんな条件でかっ飛ばそうものなら家族からクレームの嵐を食らうのは確実だ。少なくともシエンタのシャシーは、想定される使用目的の中では屈指のウェルバランスぶりだった。

◆市街地運転なら必要十分のパワー

次にハイブリッドパワートレイン。アクアと同じ1.5リットル直4ミラーサイクル+2モーターで、システム統合出力も100psと変わらない。最終減速比のみ、アクアより格段に重いボディに合わせて大幅にローギアードに変更されている。

市街地や郊外路など、出力をあまり上げないですむような環境では、この100psユニットで何の不満もない。今回は終始2名乗車だったが、4名+貨物でも過不足はないだろう。燃費も周囲のクルマの動きや信号など交通環境をちゃんと見て走れば、極端なエコランをしなくてもロングランでは20km/リットル台前半、混雑した市街地でも17km/リットルくらいは十分に走りそうだった。

パワー不足がネガティブに作用するのは、エンジン負荷が高まる高速道路や山岳路。郊外路の巡航や市街地走行などエンジンの負荷が低いときはミラーサイクルエンジンのパワーを走行と発電の両方に使い、とくに熱効率の高い領域を積極活用するというハイブリッドの特質を存分に使えるが、連続出力が要求されるシーンではミラーサイクルのメリットがない高負荷領域でエンジンをぶん回すことになる。

シエンタの場合、重いボディに対してエンジン出力の絶対値が74psに過ぎないため、ちょっと負荷が高まるとあっという間に効率の悪い領域に入ってしまう。また、エンジン回転数も上がりやすく、室内はにわかにうるさくなる。山岳路で燃費を落とすのはある程度致し方がないとして、高速道路でも巡航速度100km/hですでに効率の良い領域を外れてしまう傾向があったのはいただけない。ただし瞬間燃費計の推移を観察すると、同じ高速でも試しに80km/hクルーズなら高効率運転が維持されるようで、燃費も大幅に上がるであろうことが伺えた。

◆ライバル「フリード」との対決が楽しみに

今回のドライブでの燃費計測区間はトータルで430.7kmで給油量は22.5リットル。すり切り満タン法での実燃費は19.1km/リットル。平均燃費計の数値は20.1km/リットルで、誤差は約5%。区間燃費は高速、ワインディングを含む324km区間が18.1km/リットル(平均燃費計表示19.0km/リットル)、なお、宇都宮北部から国道4号線経由で東京・葛飾まで106.7kmを大人しめに走ったときの実燃費は23.2km/リットル(平均燃費計表示24.8km/リットル)だった。シエンタのインパネにはヴィッツのマイナーチェンジモデルと同様、小さなカラー液晶モニターが設置されており、そこにさまざまな燃費情報を表示させることができるようになっている。燃費マニアにとっては興味深いことだろう。

今回のドライブでは長距離連続走行は行っておらず、もっともインターバルが長い時で2時間だったのだが、その感触からみて、フロントシートはロングツーリングにはあまり向いていないように思われた。ドライブ姿勢などはそれほど悪くなさそうだったのだが、座面がちゃんとしたシートにカー用品店で市販されている座布団を敷いたような風合いで、体重の支持、体とシートが接しているところの感触ともあまり良くなかった。ここが良くなればいいのになとも思ったが、これがネガになりそうなのは行動半径300km超のロングドライブの話であって、遠乗りしない顧客にとっては大した問題ではないだろう。ロングランの時には1時間ごとに休憩を取れば疲れを溜め込まないですむ。ちなみにシートバックの形状や摩擦感は悪くなく、ワインディングでの身体の安定性はそれほど悪くなかった。

まとめに入る。シエンタは子供をあちこちに連れて行きたいというファミリー層にとってはよく出来たコンパクトミニバンであった。学校や塾、スポーツ少年団の活動の送り迎えなどにはうってつけ。運動性能が良いため、都会に住むファミリーが休日に比較的近場の海や山に出かけて自然を楽しむといった用途への適性も高い。最大のライバルであるホンダの2代目『フリード』は9月16日にデビューを果たすが、こちらはシエンタとは反対にシンプルデザインでまとめ上げられる。そのライバル対決も興味深いところだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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