【F1】「カメラと一体になる」そして新しいスキルへの挑戦…GPフォトグラファーという芸術家:後編

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(c) Mark Thompson / Getty Images
(c) Mark Thompson / Getty Images 全 47 枚 拡大写真

「写真」という芸術を通じて、F1の魅力を我々に伝えてくれるグランプリ・フォトグラファー。彼らは時代の進化への対応に不断の努力を続けながら、多くの素晴らしい作品を生み出している。

[写真47点]

10月7~9日に鈴鹿で開催されるF1日本GP直前、Getty images のGPフォトグラファー3人がその世界観を教えてくれた。マーク・トンプソン(Mark Thompson)氏を中心に、クライブ・メイソン(Clive Mason)氏、クライブ・ローズ(Clive Rose)氏といった面々である。芸術家でありつつ、報道というスピード重視の面も併せ持つ彼らの仕事には、時代への対応という部分で我々の想像以上の変化が要求されているようだ。
 >前編 「その瞬間にクギを打つ
◆「カメラと一体になる」

GPフォトグラファーは重い機材とも“戦う”職業といえる。トンプソン氏にその道具の一部を見せてもらった。

----:普段、レンズはどれくらいの長さのものを携行してコースに出るのですか。

トンプソン氏:通常はこれが一番長いもので、600mm望遠です。コンバーターをかませて840mmとして使うこともありますね。他に300mmとかも持ち歩きます。

----:重量はどれくらいあるのでしょうか?

トンプソン氏:これ(600mm)だけで8~9kgあると思いますよ。ただ、技術が進歩して、以前に比べればずいぶん軽量化されてきています。

メイソン氏:防水関係の装備も必要ですし、F1の場合、他のスポーツよりも道具は多く(持ち歩くことが)必要といえるでしょうね。

----:機材の“細部”というものはフォトグラファーによって異なる、と聞いたこともあります。

トンプソン氏:そうです。ボタン位置の好みとかは個人によって異なりますからね。(F1ドライバーが)マシンを運転するのと一緒で、我々もカメラと一体になる必要があるんです。


トンプソンと愛機+600mm

◆時代の変化に必要な「新しいスキル」

道具の進化という意味では、トンプソン氏がプロとして活動を始めた四半世紀前と今とで、決定的な変化はデジタル化である。かつて“フィルム”の時代には「チームでGPウイークエンドに70~100本」、36枚撮り換算で2520~3600枚だった撮影点数は今、「明らかに増えている」とトンプソン氏ら3人は頷き合う。そして日進月歩のデジタル化は、彼らの仕事の有り様にも如実に変化を要求し続けている。

----:デジタル時代ならでは、という要素も多くなってきていることと思います。

ローズ氏:そうですね。たとえば先週のマレーシアGP、1周目のターン1で上位にアクシデント(フェラーリのセバスチャン・ベッテルとメルセデスのニコ・ロズベルグが接触)がありましたが、あの瞬間の写真はカメラからWi-Fiで直接送信されて、2周目が終わる頃には世界中にGetty Imagesからニュース配信されていました。

----:今はもう、そこまでのスピードですか。

ローズ氏:もちろん場所によって通信環境が異なりますので、それによる多少の違いはありますけど、そういう時代ですね。これは(同じデジタル時代でも)5年前にはなかった状況です。

----:そういったケースでも、写真セレクトはフォトグラファー自身が行なっているのですか?

ローズ氏:そうです。次の周までの間に、我々が選んで送ります。とにかく、そういった新しいプレッシャーにも打ち勝っていかなければならない時代になったということなんですよ。現代社会全体が「待てない」生き方になっていますから。レース後の月曜まで現像をワクワクして待っていたようなフィルム時代のロマンチックさはなくなりました。でも、こういうかたちで舞台が広がるのはウェルカムです。それに対する新しいスキルを習得することはなによりの挑戦ですしね。

ベストショットと、その背景

常に精進を続けるGPフォトグラファーたち。最後にトンプソン氏の作品から、自薦で数点、特に印象的なものを紹介してもらった。まずは2010年、初のチャンピオンに輝いたセバスチャン・ベッテルがチームスタッフと歓喜のシャンパンファイトをレース後に行なっているシーン。


2010年、初のチャンピオンに輝いたベッテル
(c) Mark Thompson / Getty Images

トンプソン氏:彼は当時レッドブル所属で(現在はフェラーリ)、私にとってもチームフォトグラファーとしての初タイトルだったんです。ちなみにこの写真を撮ったあと、この時のカメラは使えなくなってしまいましたよ。かかったシャンパンの量がすごかったですからね。馴染みの顔なので、セバスチャンはわざと派手にスプレーしたみたいですけど。

素晴らしい瞬間を得るとともに、随分と高い額の代償も要したわけだが、その喜びはなににも変えがたいものだろう。続いては、F1の支配者とも呼ばれるバーニー・エクレストン、その表情を撮った一枚。


F1界の“リングマスター”としてのバーニーの存在感
(c) Mark Thompson / Getty Images

トンプソン氏:まわりにはスペイン国王やバーレーンの王子らがいます。彼(エクレストン)はその中心にいて、常に全てを見渡している。目線が彼だけは他の人とは違うんです。F1界の“リングマスター”としてのバーニーの存在感を象徴していると思います。

なるほど、バーニーの立ち位置を一枚で語り尽くしている作品といえそうだ。F1の世界観も理解している人でなければ、こういう写真は撮れない。そして最後に紹介してもらったのが今季ここまでのベストショット、モナコGPでレッドブルのダニエル・リカルドがポールポジション獲得を決めたアタックラップでの、火花散るマシンの後姿だ。


モナコGPでレッドブルのリカルドがポールポジションを決めたアタックラップ
(c) Mark Thompson / Getty Images

トンプソン氏:トンネルの中から出口方向にカメラを向けて撮ったものです。こちらの耳栓が振動するくらいの場所ですね。コンクリートバリアに包まれたコースであり、ミスが許されないモナコではドライバーの腕が本当の意味で試されます。モナコでのポールポジション、それはスペシャルなものなんです。

今季ここまで(鈴鹿前)の時点で、最強チームのメルセデスが唯一ポールポジションを逃したのがモナコ。リカルドのF1初ポール獲得ともなったアタックの迫力を伝える一枚には今後、歴史的な価値も付随してきそうだ。

F1の興奮と感動を伝える数々の写真。それらはグランプリ・フォトグラファーの努力と献身のもとに生まれる芸術であり、日々進化を心がける彼らもまたアスリートと言って過言ではないだろう。

F1日本GPは10月9日決勝。トンプソン氏らの素晴らしい作品が、鈴鹿サーキットのコースサイドから瞬時に世界へと発信されていくことになる。

《遠藤俊幸》

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