【ホンダ フリードプラス & トヨタ シエンタ 比較試乗】パワーで選ぶか、バランスの良さか…ガソリン車で比べてみた

試乗記 国産車
ホンダ フリードプラス(左)とトヨタ シエンタ(右)
ホンダ フリードプラス(左)とトヨタ シエンタ(右) 全 16 枚 拡大写真

ホンダが9月に発売した小型トールワゴン『フリードプラス』をテストドライブする機会があった。試乗距離は合計100kmにも満たず、ルートも市街路と有料道路程度と限られていたため、さわり程度ではあるが、インプレッションをお届けしたい。

フリードプラスは『フリード』をベースに車体後部のフロアを低床化して積載力を高めた、リゾートギア的な性格が与えられたミニワゴンで、パッケージングは2列シート、5名乗車。後部シート背面にはハードボードが装着され、シートバックを倒すと全面が固い床となって重量物の積載や車中泊などに使える多目的スペースとなる。この点は先発の『シャトル』と同様だが、ホイールベースはシャトルの2530mmに対して2740mmと20cm以上長く、積載力はシャトルを大幅に上回り、コンパクトワゴンとしてはトップである。

テストドライブしてみたのはこのフリードプラスのガソリン車およびハイブリッド車で、どちらも新世代安全システム「ホンダセンシング」つき。比較対象として、トヨタの3列シートトールワゴン『シエンタ』のガソリン車を持ち込んでみた。また筆者は夏にシエンタのハイブリッド車で470kmほどツーリングをしており、十分ではないがそこそこ乗り込んでいる。それらとの比較を含めて論じてみたい。

◆パワートレイン比較

まずはガソリン車から。室内に乗り込んでまず印象的なのは前方視界。フロントウインドシールドの面積が広大なうえ、Aピラーの小窓の配置、フロントドアガラスへと向かう視界の連続性も良いため、ちょっとしたグラスキャノピー気分である。試乗当日は横浜の港町のイチョウが色づき始めていたが、そういう外界の風景が自然と目に入ってくるのがとても心地良かった。また、室内全体も明るい。この点は開放感に乏しいシエンタに対して明確なアドバンテージがあった。

動力性能は、1360kgというBセグメントとしては非常に重いボディであるわりには敏捷性が高い。1.5リットル直噴DOHCは最高出力131馬力と、実用車向けにはちょっともったいないくらいのパワーを持つ。同じエンジンを積むクロスオーバーSUV『ヴェゼル』をドライブしたときは1.8リットルと言っても誤魔化せそうな気がしたくらいだった。フリードプラスはそれより170kgも重いのだが、同じように軽々と走った。

このゆとりは電子制御スロットルとCVTの協調制御で達成されている部分が大であるように感じられた。たとえばスロットルを深めに踏み込んだときの変速比の落ち方は普通のATが2速にキックダウンするのと変わらないくらい素早かった。また、エンジン音から察するに、スロットルペダルの操作量に対するスロットルボディの開度も大きめに設定されているようだった。

ライバルであるシエンタの1.5リットルガソリンはパワーで17%、トルクで12%ほどフリードプラスよりも低いが、スロットルレスポンスのチューニングが穏やかであるため、パワー感の差は実力以上に大きく感じられた。ただ、トールワゴンにはその穏やかなチューニングのほうが似合うという側面もあるため、あながちシエンタが悪いとは言い切れないようにも思えた。また、同じコースを2車併走させてみたところ、燃費はシエンタがフリードを上回った。

◆バランスの良さで選ぶなら…

シャシーチューニング、なかでもトールワゴンにとっては特に重要項目となる快適性の部分については、パワートレインとは逆にシエンタのほうにかなりのアドバンテージがあった。試乗車がまっさらの新車でショックアブゾーバーやブッシュの動き、たわみがまだ渋かった可能性もあるが、フリードプラスは路面のアンジュレーションやざらつきによる微振動が結構強めに出る。同じフィットベースで車両重量がずっと軽いセダンの『グレイス』がはるかにすっきりとした乗り味を実現できていたことを考えると、もうちょっと何とかできるだろうにというのが率直な感想だった。

それでもフリードプラス単体でみれば、欠点としてあげつらうほどでもないのだが、間の悪いことに、相手となるシエンタがよりによってトヨタ車のラインナップの中でもトップクラスのまとまりの良さで、非常に落ち着いた乗り味を持っているため、比較するとどうしても見劣りしてしまう。フリードプラスが距離を走り込んで当たりが出てきたときにどう変化するか見ものだが、5000kmないし1万km走行後もあまり変わらないようであるならば、今後のランニングチェンジでサスチューニングの熟成を進めてほしいところだ。

まとめとしては、室内の開放感と動力性能ではフリードプラス、乗り心地と通常走行時のスタビリティではシエンタにアドバンテージがあると言える。トールワゴンの性格を考えると、バランスの良さではシエンタに軍配が上がりそうに思えたが、長く走ってみればフリードプラスのほうにも愛着を持てるようなポイントが見つかるかもしれない。このあたりはいずれ、長距離試乗で再検証してみたいと思う。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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