【VW ゴルフGTE 4000km試乗 後編】電費&燃費検証、プラグインHVのメリットを改めて考える…井元康一郎

試乗記 輸入車
ゴルフGTEの給電口はフロントのロゴ部にある。単相200Vの普通充電のみで、急速充電には非対応だ。
ゴルフGTEの給電口はフロントのロゴ部にある。単相200Vの普通充電のみで、急速充電には非対応だ。 全 21 枚 拡大写真

フォルクスワーゲンが昨年9月に発売したプラグインハイブリッドモデル『ゴルフGTE』で東京、鹿児島間を4000kmあまり周遊した。昨今話題のプラグインハイブリッドということで、その間、ノーマルモード、パワードライブのためのGTEモード、ピュアEV走行のEモード、充電しながら走るチャージモードを試し、それぞれのデータをとってみた。

まずはプラグインハイブリッドの最大の特徴であるEV走行から。ゴルフGTEの特徴のひとつ、Eモードに入れるとエンジンが起動せず、トップエンドまで80kW(109ps)の電気モーターだけで走る100%EVになること。フォルクスワーゲングループジャパンによれば、エンジンがかかるのは速度が130km/hを超えたときだけだそうだ。

品川で広報車を受領したとき、完全ではないものの満充電に近いレベルとのことだったので、さっそくEV走行時の実航続距離を測ってみた。

◆EV実航続距離は

ゴルフGTEはメーター内に平均燃費と平均電費を並んで表示させることができる。エンジンを使用しない状態では、平均燃費計表示は上限の300km/リットルのまま。それに対して平均電費計のほうは数字が結構目まぐるしく推移する。

加速すると数値がスルスルと落ちていく。クルマを加速させるにはすごいエネルギーを必要とするのだなという実感がこみ上げる。ブレーキ時に発電の抗力でクルマの速度を下げる回生ブレーキが働くと、その数値が加速時ほどではないが結構いい感じで上がっていく。そのエネルギー収支を観察するのはなかなか面白かった。

ドライブ当日の夕刻の国道1号線下り方向はガチガチの渋滞で、平均車速は15km/h弱。EVは低速走行を得意とするのが特徴だが、あまりに渋滞がひどいと今度はエアコンや車両システムなどに電力を食われる割合が大きくなり、電費はそれなりに落ちる。

出発から1時間53分後、神奈川の戸塚界隈で、バッテリーがEV走行可能範囲の下限に達してEモードからハイブリッドモードに切り替わった。走行距離は28kmで、ディスプレイ上の平均電力消費率は5.0km/kWh。単純計算ではそこまで5.6kWhのバッテリー電力を消費したことになる。

ゴルフGTEはバッテリー残量の下限からフル充電するのに7.7kWhの電力を消費するという。充電時の損失を10%と仮定すると、SOC(ステートオンチャージ=バッテリーの使用範囲)は約7kWhと推算される。完全フル充電であった場合、渋滞時の航続距離は35kmほどになるだろう。

自宅に充電設備があるならEVとして使える

次に5.6kWhという消費電力量をベースに換算燃費を考えてみよう。電力量1kWhのエネルギーは3.6メガジュールで、5.6kWhだと20.16メガジュール。ハイオクガソリン1リットルのエネルギーは35.1メガジュールなので、熱量を単純比較するとガソリン0.6リットル弱に相当する。換算燃費はおよそ48.8km/リットルだ。もちろん電力は無から生まれるわけではないので、発電所における熱損失、送電、変電、充電などのロスを掛け合わせなければならない。燃料は異なるが石油火力だけを使ったとすると、20km/リットル近辺ということになろう。

走行コストは1kWhあたりの電気料金を24円、充電損失を10%と仮定すると約150円。ハイオクガソリンが130円/リットルの場合、燃料1リットルで23km走るのに相当する。渋滞状況からみて、市街地走行ではこのあたりが下限値であろう。帰路、鹿児島出発時にも電費を測ってみたところ、混雑の少ない市街地での平均電費は6.6km/kWhと、渋滞路に比べて3割ほど良かった。バッテリーの使用可能電力が7kWhであるならば、45kmくらいはEV走行ができることになる。

帰路、箱根峠から箱根口までの、標高差800mあまりの区間で、エネルギー回生を試してみた。ほぼ回生ブレーキだけで速度調節を行いながら下りきったときの航続距離残の伸びは10kmで、回生電力量の推定値は1.5ないし1.6kWh。筆者は車両重量1740kgのアコードハイブリッドで山梨の柳沢峠から東京の奥多摩駅まで標高差約1100mを回生ブレーキのみで下ったことがあるが、そのときの推定回生電力量は3kWh弱。両者の車両重量差を考慮しても、回生効率にはかなりの差があるものと思われた。

総容量8.7kWh、ステートオンチャージ7kWhという大型バッテリーを積んでいることから、EV走行時間は1時間半程度が期待できる。フルスロットルでもEVドライブができるという特性とあいまって、充電設備のある自宅を拠点にEVを運用したいという顧客にとっては、ゴルフGTEは選択肢に十分入り得るモデルと言えよう。半面、電力消費率が5~6km/kWhというのは日本勢のプラグインハイブリッドに比べると悪く、エコ性能の高さを第一に考える顧客がゴルフGTEを購入すると、がっかりすることになるだろう。

◆ハイブリッド燃費はもう一歩

EV走行の航続残を使い果たした後は、ゴルフGTEは普通のハイブリッドとして走行する。長い下り坂での回生などによってバッテリーの電力量が回復した時には外部電源からの充電がなくとも再びEV走行できるようになるが、あくまでハイブリッド走行が基本だ。

スタート後、最初に給油したのは京都・福知山。京都北方の天橋立、丹後半島を経由するという大回りルートであったため、その時点で走行730km。高速道路と一般道の比率1:2で実燃費は17.8km/リットル。最初のEV走行ぶんを差し引くと、702kmを17.1km/リットルで走ったことになる。

その後、険しい山岳路を含む九州山地ルート、平坦路が中心の山陽、東海道ルートなど、道路状況や交通密度が大きく異なるさまざまなステージを走破したが、区間燃費の変動はほとんどなく、17~18km/リットル台を推移した。負荷が少々高くても燃費の落ち込みは少ないかわりに、負荷が小さくても大して燃費は伸びないという印象だ。ちなみにスペックは若干異なるが基本的に同じエンジンを積むゴルフ「ハイライン」はロングラン燃費がとても良く、簡単に20km/リットルを超えてくる。プラグインハイブリッド化で車両重量が260kg重くなったことと、前述の電気駆動部の効率の悪さがみすみす足を引っ張っているように感じられた。

前編でお伝えしたように、ゴルフGTEは平地でスロットルを全閉にするとエンジンが停止して動力伝達系から切断され、モーターも発電せず、車両の走行抵抗だけが速度低下要因になるという滑走状態になる。その滑走をうまく利用すれば20km/リットル以上で走ることも可能で、ドライブの最後に静岡から東京・世田谷までその方法を多用して走ってみたときは一応22.1km/リットルまで伸ばすことができた。ただ、同じような走り方をした場合、『アコードプラグインハイブリッド』は25km/リットルを超えてきていたので、自慢にはならないという感じであった。また、厳密に測ったわけではないが100km/h巡航時の燃費は20km/リットルは上回っており、高速巡航は相対的に得意といえる。

郊外路、高速における燃費はCセグメントのエコカーとしてみれば良くない。が、ゴルフGTEは混合出力200ps超級のハイパフォーマンスハイブリッドである。出力特性を考えればわりと満足できる数値とも言える。これで市街地燃費が悪くなければ、ゴルフGTEはエコスポーツとしての価値を存分に主張できたところだが、残念ながら市街地燃費は期待外れに終わった。

鹿児島市街地は都市デザインが劣悪で平均車速が低い。その鹿児島の街地を中心に走り回った時は、実燃費で12km/リットルどまり。エンジンで積極的に発電してバッテリーの電力残を増やすチャージモードでは、EV走行を加味してもさらに燃費を落とした。流れの良い市街地でもエコランに血道を上げるような運転をしないかぎり、15km/リットルどまりであった。

ゴルフGTEはスポーツハッチではあれど、まがりなりにもエコカーだ。ヨーロッパのように大都市であっても数十分も走れば広々とした郊外道路になるような環境では大した問題にならないだろうが、大都市圏の面の広がりが大きく、また小都市でも都市部を幹線道路が縦貫して渋滞が頻発するという日本の交通環境への適合性はお世辞にも高いとは言えない。都市部はEV走行すればいいという理屈なのであろうが、それでも市街地におけるハイブリッド燃費ももっと頑張ってほしいところだ。

ツーリングの途中、パフォーマンスが欲しい局面ではフルパワーを常時出せるGTEモードを適宜使ったが、純粋にGTEモードだけで走ったらどうなるか試すため、水俣から鹿児島までGTEモードに固定したまま走ってみた。全域でモーターがフルアシストするため走りのパフォーマンスは素晴らしいものがあったが、その代償として燃費の低下も招く。郊外路、山岳路、高速道路の混合ルートを107km走り、実測燃費は14.2km/リットルどまりであった。

この燃費低下にはカラクリもある。GTEモードでは高出力を連続して発揮させる準備のためなのか、低負荷走行のときもエンジンに余分に仕事をさせて発電し、バッテリーに蓄電するのだ。水俣を出発するときには0kmだった航続残は最高値で16kmまで回復、鹿児島到着時は12kmとなっていた。ここからEV走行で10km余計に走れたと仮定すると、燃費は15.5km/リットルという計算になる。

◆プラグインハイブリッドのメリットを考える

さて、ゴルフGTEは単なるハイブリッドではなく、充電可能なプラグインハイブリッドである。外部電源からの充電でドーピングすれば、とくに市街地走行においてはエコパフォーマンス面で相当メリットがありそうである。が、実際にドライブしてみると普通充電のインフラと価格は想像以上に使いにくく、実家もEVを使うようにできていなかったため、プラグインであることのメリットはほとんど享受できなかった。

今日、充電拠点の多くは自動車メーカーが共同で設立した日本充電サービス(NCS)という合同会社のネットワークに組み入れられている。月ぎめ会員になっていない場合、ビジター料金は消費税抜きで15分120円と、きわめて高額。3時間フルに充電したとして、税込み1555円だ。それで30kmや40kmそこらしか走れないというのでは、ガソリンを馬鹿食いする初代シボレー『コルベット』やAC『コブラ』のようなアメリカンマッスルカーよりも非経済的で、そもそも充電するメリットはゼロだ。

かりにNCSのカードを持ったとすると、充電料金は税抜きで1分2.5円。3時間で税込み486円と、ややマシになる。が、これでもハイオクガソリン3リットル以上に相当するお値段で、やはりコストメリットはない。加えてNCSの普通充電会員の会費は税込みで1512円。1か月に10回出先で充電するとしても、1回あたり151円が上乗せされるのだ。早い話が、今の日本では日産のようにメーカーがNCSから使用権を買い取って使い放題などのサービスを提供するというのでもない限り、ガソリンで走ったほうがはるかにおトクなのである。

ゴルフGTEに限った話ではないが、普通充電を前提とするとインフラも使いにくい。あちこちを漫遊しながらロングツーリングをするにしても、2、3時間滞在したいような場所にうまい具合にパブリックなチャージスポットがそうそう都合よくあるわけではない。少なくとも4000kmドライブのなかで、立ち寄りたいと思った場所の近くに充電器があるというケースは一度もなかった。

それでも、せっかくのプラグインハイブリッドなのに一度も充電しないのは何とも残念なので、4000kmのツーリングの中で一度だけ充電をやってみた。場所は関門海峡を望むいにしえのムードを残した観光地区、門司港レトロにあるコインパーキング。ここは1時間200円の駐車料金を払えば普通充電設備を追加費用なしで使えるというシステムで、非会員がNCSのチャージポイントを利用するよりははるかに安い。充電を54分行ったところ、航続距離残は充電前の2kmから12kmになった。が、純増10kmというのはロングランにおいてはせいぜいハイオク0.6リットル、80円分程度にしかならない計算で、わざわざ充電する必要性は感じられなかった。

アウトランダーPHEVや次期プリウスプラグインのように急速充電ポートを備えていれば、物理的にはツーリング途中での充電ももう少しやりやすくなるはずだ。が、急速充電を巡ってはEVユーザーが優先権を主張してプラグインハイブリッドユーザーとの間で摩擦が発生するなど、殺伐としたムードが漂っている。かりに急速充電ポートがあったとしても、実際には使えないシーンが多かろう。このインフラの使いにくさが改善されることがないかぎり、プラグインハイブリッドをEVとして運用できるのは、充電設備を備えた住宅や事業所の周辺に限られてしまうだろう。電動化技術の普及を本気で図りたいのであれば、政府や自動車業界はインフラ整備や運用のポリシーを根本から見直す必要があると思われた。

◆目指す走りは「GTI」か「ハイライン」か

まとめに入る。ゴルフGTEはEVらしさを満喫できるという点では合格点をつけられる。フル充電しておきさえすれば、買い物や送り迎えなど、ドライブ時間が短いシーンではほぼ完全なEVとして押し通せるだろう。一方、ハイブリッドとして見た場合、動力性能面は申し分ない。市街地燃費はハイブリッドとしてはかなり悪いが、長距離燃費は200ps級としてはそこそこ良いため、シャシーのダイナミック性能が抜群に良いこととあいまって、ツーリング用途がメインの顧客には向いているといえる。

ただし、絶対的なパフォーマンスは同等でも、エンジンの切れ味やエキゾーストノートなどの官能評価では純ガソリンのゴルフ「GTI」に劣る。ここが同等であるか、もしくはロングラン燃費や市街地燃費が非ハイブリッドのゴルフハイラインをしのぐものであったなら、ゴルフGTEの存在価値はぐっと上がったことだろう。その意味では、性格付けがちょっと中途半端だ。

それでなくとも日本はドイツのように一般道の速度制限が100km/hというわけではないので、パワードライブを楽しめるシーンは少ない。その日本で“らしさ”を楽しむなら、エンジンはそのままにシャシーだけGTIのようになる「Rライン」を日本に投入してもらうのが、コストパフォーマンスを考えれば断然いい。もっとも、フォルクスワーゲンが電動化技術に取り組み始めたのは日本勢よりはるかに後で、これからどんどんキャッチアップしてくる段階。電動部分の性能が上がれば、存在価値も今よりは上がってくることだろう。その意味では今後に期待したいモデルでもある。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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