【川崎大輔の流通大陸】IT化で成功、海外に必要とされる中古車輸出とは

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Eコマース(越境ECサイト)による中古自動車輸出を行うことで、従来の中古車ビジネスモデルから脱し、新たなビジネスモデルをつくり出した日系中古車企業、ビィ・フォアードの代表山川氏に、自社の輸出ビジネスの強みと展望について話を聞いた。

◆中古車輸出市場は日本自動車産業で数少ない高成長市場

伸び悩む国内の新車販売で、近い将来には日本の乗用車保有台数が減少に転じる可能性が大きい自動車産業。その中で日本からの中古車輸出市場は数少ない高成長市場である。

輸出統計に反映されない20万円以下の出荷、及び解体部品として出荷されている中古車輸出総計台数は直近で年間150万台以上と推定できる。平均単価70万円と仮定すれば1兆円規模の巨大市場だ。

2009年のリーマンショックの影響で中古車輸出市場は急激に落ち込んだ。しかし、ロシア特需、円安の影響などでアラブ首長国連邦、ニュージーランド、アジアの新興国に対する輸出が増え2014年にはリーマンショック以前と同水準にまで回復。特にアフリカ地域の国々は、経済成長のスピードもはやく、輸出台数は大きく躍進した。

日本からの中古車輸出のプレーヤーは、日本人中古車業車とパキスタン人を中心とした非日系中古車業者にわかれる。大小合わせて、1000社の輸出業者・ブローカーがあるといわれている。中古車輸出プレーヤーの特徴はパキスタン人が多く全体の3割ほどといわれ、その他1割がスリランカ人やバングラディッシュ人と推定されている。

◆なぜ中古車輸出ビジネスは仕組み化しづらいのか?

中古車輸出は、一般的に参入障壁が低い。そのため多くの個人経営やブローカー的な輸出業者が生まれた。一方で、輸入国側も同じように個人経営が多く組織化できていない。

販売形態もロットではなく個別単位の輸出となり販売方法や決済方法がそれぞれ異なる。つまり、売り手と買い手との人間関係に依存する個別のビジネスモデルをつくり出している。

言い換えれば信頼関係の構築ができなければ、メーター巻き戻しや年式詐称、盗難・事故車など詐欺行為等のトラブルが多いことも現実。そのため業界全体のビジネスマナーが低いといわれている。

このように仕組み化がしづらいビジネスであった中古車輸出ビジネスに大きな変革をもたらした企業がある。

◆中古車輸出ビジネスのIT化

ビィ・フォアードは、アフリカ新興国を中心に月間8000台ほど中古車を輸出している。仕向け地は現在124か国。スタッフの国籍は28か国。本社社員170名中50名が外国人のグローバル日系企業だ。

2004年に1人で会社を設立し、ニュージーランドへの中古車輸出を開始した。転機がきたのは、2006年に公開された映画『ワイルド・スピード』シリーズ。「TOKYO DRIFT」のタイトルで舞台が東京となったパート3によって、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、UK、アイルランドでの日本のドリフト車の人気に火がつき輸出注文が急増した。

当時、中古車輸出業界はアナログ的なビジネスを行っていた。しかし、ビィ・フォアードは本格的な自社ECサイトの構築に資金を投入した。山川氏は「当時、注文が多くスタッフが帰れず疲労してしまう状況が続いた。また利用していたトレードサービスの課金も高くなり、効率的で使いやすい独自システム構築の必要性を感じた」という。

同業他社では、車両価格など顧客からの問い合わせを個別にアナログ的に行っていた。

しかし従来のやり方から脱し、ECに積極的に投資。仕組みをIT化していったことが大きな差別化となっている。

◆ビィ・フォアードの3つの強み

山川氏は、「ビィ・フォアードには、(1)世界的ブランド、(2)代金回収、(3)ロジスティックの3つの強みがある」と指摘する。これはビィ・フォアードのビジネスモデルが「在庫・先行仕入れウェブ販売型(B to C)」であることを意味する。

これは、仕向け地の好みに合いそうな中古車を、事前にオークションなどから仕入れ、仕入れた在庫を自社サイトに掲載し、一般顧客に販売するビジネスモデルだ。

このビジネスモデルには在庫リスク(キャッシュフロー、保管場所、年式規制による在庫の陳腐化など)がある。しかし、ビィ・フォアードはオークションで仕入れた在庫は40日間で売り切るルールを社内で徹底しリスク回避を行っている。

ビィ・フォアードの強みは、自社ウェブサイトで124か国へ販売を可能とするブランドを構築したことだ。C(一般顧客)への販売を加速させ、更にブランド認知も広がる。

山川氏は「自社ウェブサイトだけを構築しても同業他社はB to F(ファミリー、フレンド)となっている」という。つまり、C(一般顧客)が購入するにはまだ信頼が足りないのだ。

更にこのビジネスモデルの決済条件は前金となる。代金回収の安全度が高いモデルだ。なぜなら他社の在庫をサイトに掲載して販売する訳ではないため、契約時に在庫が確実にある。そのため、前金で決済が可能となるのだ。

ロジスティックというのはこのビジネスモデルの発展系である。仕向け地の主要地区に出店しローカライズ販売を行う。すると、付随するヤードや運送などのロジスティックが構築される。ビィ・フォアードは現在13か国(内アフリカ9か国)で公式現地エージェントを持つ。それぞれビィ・フォアードブランドで現地に根付いている。

リスク回避を行いながら3つの強みを強化することで、ビィ・フォアードはより完ぺきな「在庫・先行仕入れウェブ販売型(B to C)」モデルを目指しているといえる。

「ECでやれているという中古車会社はほかにない」と山川氏がいうほど圧倒的にECへの投資を進めている。そのことが独自のビジネスモデル作りを可能とした。

更に完ぺきなモデルを目指し、現在は35か国の言語に対応したビジネスを行っている。これにより、英語だけで対応を行っている同業他社と顧客の取り合いをなくし、新しい優良顧客の獲得が可能となるという。

◆ビィ・フォアードの中古車輸出ビジネスの展望

昨年のチャイナショックから、中古車輸出台数は落ち込んでいる。特にアフリカでの影響は大きく、この落ち込みはしばらくは戻らないだろう。いろいろな国で規制なども目立つ。アフリカに限っては、ジンバブエ(送金規制)、モザンピーク(天然資源、為替問題)、ザンビア(貨幣価値)などがある。「現在は中古車業者が淘汰の時代に入った」と山川氏は指摘する。

そんな中でビィ・フォアードでは、中古車輸出に限らず海外で必要とされるビジネスの可能性を常に試みている。日本初の海外向けの自動車部品サイト立ち上げもその1つだ。また解体ビジネス、更にトラックビジネスの海外展開、ビットコイン決済の可能性も検討中だ。「やりたいことはたくさんある。しかし会社としてまだ経験ある人材が不足している」という。

新しい人材獲得の可能性、取引先を広げるためにも、山川氏自身が積極的な講演活動などを行い始めた。会社の成長などに関しての著書も出していくという。ビィ・フォアードブランドの普及を社長自身が行っている。

中古車輸出ビジネスは、参入障壁が低く、詐欺行為などのトラブルが多いなどの課題がある。ビィ・フォアードは課題を克服するツールとしてITを導入し新たなビジネスモデルを構築した。これからの中古車輸出業界にとって課題解決型のビジネスモデルとなる。

山川氏は「海外への中古車輸出ビジネスの魅力は必要とされていること、ネットに出しておけばみんなに欲しい欲しいといわれて感謝されるのがうれしい」と話す。

全ての出発点はそもそも海外の人たちが欲するサービスとは何かということであろう。これから先ビィ・フォアードに求められることは、ビジネスモデルだけではなく業界の直面する課題をなくす課題解決企業となることである。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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