「私に自動運転を執着させたのは。」自動運転バスベンチャー / SBドライブ 佐治友基社長

自動運転ベンチャーの創業社長と聞けば、多くの人がテスラ・モーターズのイーロン・マスク氏や、Apple社の前社長である故スティーブ・ジョブズ氏のようなビジョナリストを想起するだろう。しかし、SBドライブ代表取締役社長/CEOの佐治友基氏は違う。

自動車 ビジネス 企業動向
SBドライブ代表取締役社長/CEOの佐治友基氏
SBドライブ代表取締役社長/CEOの佐治友基氏 全 7 枚 拡大写真

自動運転ベンチャーの創業社長と聞けば、多くの人がテスラ・モーターズのイーロン・マスク氏や、Apple社の前社長である故スティーブ・ジョブズ氏のようなビジョナリストを想起することだろう。明確な未来のイメージと、強い社会的使命感。明確な目的意識を持った人であると、誰もが思うはずだ。

しかし、SBドライブ代表取締役社長/CEOの佐治友基氏は違う。彼は「自分の会社を作りたい」という漠とした憧憬と、周囲の環境や人々の助けによって、"自動運転バスを実現する"という確固たる目的に辿り着いた。それは30歳のごく普通の若者が「手段のために目的を見いだし、ビジョナリストとなっていく」逆転のストーリーである。

◆ソフトバンクグループの自動運転ベンチャー


2016年4月。SBドライブはソフトバンクグループ傘下のベンチャー企業として産声を上げた。目的は「自動運転技術を活用したスマートモビリティサービスの事業化」。まずは自動運転バスの実現を目指す。

周知のとおり、ソフトバンクは"インターネットカンパニー"を掲げるIT企業であり、自動車業界との関わりは薄い。そこで同社は、当初から東大発の自動運転ベンチャーである先進モビリティ社と提携。東京大学・次世代モビリティ研究センター長の須田義大教授を招き入れて、「通信・サービス側をSBドライブ、車両開発側を先進モビリティ」という体制を整えた。

「自動車を作ることがSBドライブの強みではないので、これまでどおり通信とサービスを用意していきます。通信は5Gなど新しい技術を視野に入れています。サービスは乗り換え検索アプリといったエンドユーザー向けアプリをヤフーで出していますが、人や物の移動ニーズを最適な形で自動運転で提供していきます。こそに広告やコンテンツが乗ってくるイメージですね」(SBドライブ 佐治友基氏(以下敬称略))

一方、ソフトバンクは先進モビリティ社に出資しており、車両開発は自動車開発に強みを持つ先進モビリティ側が行うという。

「先進モビリティには大きく2つの目的で出資しました。ひとつは技術、もうひとつは人脈です。 技術では必要なパーツなどを自動車メーカーに委託して、すでに持っている車両を改造し、装備してもらってお客様に卸します。そこで発生する粗利や、研究開発に上乗せするコストは、すべて先進モビリティや自動車メーカーが回収します。 我々としてはスマホと同じように毎月システムとして使う分を、サービスや通信コストとして回収していきます。人件費がおきかわるので、(最終的な)総コストとしては安くなるだろうと考えています」(佐治)

◆自動運転は当初から「レベル4」を想定


自動運転にはレベル1~レベル4までがあり、この分野に取り組むメーカーや企業ごとに目標とするレベルに温度差がある。例えば、乗用車メーカーの多くがイメージする自動運転は、運転・安全支援が主となるレベル2をベースにして、ドライバーが乗ったまま準自動走行を行うレベル3を目指す、というものが多い。しかしSBドライブでは、当初から目的としているのは完全自動運転の「レベル4」だという。

SBドライブ代表取締役社長/CEOの佐治友基氏

「限られた区間ではありますが、最初からレベル4での自動運転を考えています。レベル3の準自動走行が最も人と車の協調が難しいところですが、レベル4はIT化された限られたルートに絞ることによって、走らせるハードルはかなり低くなる。これは乗用車ではなくバスならではの考え方ですが、過疎地での赤字路線代替では、ゴルフ場のカートのように路側帯にガイドビーコンを埋設してそれに沿って走らせる、といったこともできる。また隊列走行の技術を用いて、先頭が有人、後続車両が無人、つまり先頭がレベル2で後続がレベル4といった方法もあると考えています」(佐治)

SBドライブは車車間通信など車両制御部分では、通信の遅延が少ない5Gの技術を積極的に使用する計画だ。これまで日本における車車間・路車間通信の研究開発では、自動車業界専用の通信システムである「DSRC」の使用が主流であったが、5Gのように汎用的な次世代の通信システムを使うことは、性能向上だけでなくコスト低廉と観点からもメリットがあるという。

一方、将来的な事業化の観点では、自動運転バスによる地方公共交通の置き換え需要以外に、バス向けの広告配信やバス路線周辺のリアル店舗と連携したO2O事業、さらにトラック向けの自動運転ソリューション事業なども検討しているという。

「実はソフトバンクグループは小さな物流会社を持っています。青海に倉庫があり、携帯の輸送や他社から請けた物流事業を行っているのです。自動運転技術を活用したトラック向けシステムの開発計画では、大手物流会社さんも我々の話をポジティブに聞いていただいているのですが、隊列走行を伝えた際、最初はドライバーの教育までできないと言われました。そのためグループ企業の中で専門教育をして、ソリューションシステムとパッケージにして人材派遣を行うなどすればスムーズに実現するかと思います」(佐治)

自動車業界にとって自動運転は長年の"研究テーマ"であり、技術開発の色が強かった。それゆえに事業としての収益性やビジネスモデルの開発があまり進んでこなかったという面もある。しかしSBドライブでは、自動運転を技術開発や公益性のみならず、収益事業としてロードマップを描いている。そこが同社が注目されている理由のひとつと言えるだろう。

◆学生・佐治友基は、「すごい経営者」に憧れていた。


SBドライブ代表取締役社長/CEOの佐治友基氏
"SBドライブ佐治社長"の語る自動運転ビジネスの未来は、明確で力強く、メッセージ性の高いものだ。しかし、佐治自身は自動車業界の出身ではなく、若い頃はクルマやバスへの関心が高いわけでもなかったという。

《神尾寿》

この記事の写真

/

関連ニュース

特集