【ドライブコース探訪】走るだけでヒーリング効果? エキゾチック宮崎の旅

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美々津の街並み。歴史景観保存地区に指定されているが、景観保存のポリシーはいささか中途半端でもあった。もっと徹底的に古風にやってもいいくらいだと思われた。
美々津の街並み。歴史景観保存地区に指定されているが、景観保存のポリシーはいささか中途半端でもあった。もっと徹底的に古風にやってもいいくらいだと思われた。 全 26 枚 拡大写真

フォルクスワーゲンのプラグインハイブリッドカー『ゴルフGTE』での4000kmの旅。鹿児島から東京への帰路は距離的には熊本経由が有利なのだが、旅程に余裕があったことから、久しぶりに宮崎回りルートを選んでみた。

宮崎は九州の他県からみても近くて遠い県だ。熊本、大分との県境には広大な山地が広がる、いわば自然の要害で、唯一平地が開けているのは、これまた本土南端の鹿児島のみ。行きにくいだけに雰囲気はエキゾチックで、海外や沖縄への旅行が自由化されていなかった時代は長らく新婚旅行先として一番人気を保っていた。

その頃の雰囲気は現代においても健在で、風光明媚にして山海の珍味多く、また高天原伝説に連なる神話的雰囲気も随所に残っている。近年、ようやく東九州自動車道が暫定2車線の対面通行ながら開業するなど、アクセス環境は徐々に改善していることもあって、今後が楽しみなドライブエリアである。

宮崎の太平洋岸ドライブは筆者としても久しぶりだったのだが、それはそれは気持ちの良いクルーズになった。夜のうちに霧島連山東側の高原町から宮崎市に抜け、そこからドライブ開始。まずは日向灘沿岸を走る気持ちの良い自動車専用道、一ツ葉道路。ここは防砂林に遮られて海こそ見えないが、さんさんと降り注ぐ太陽光が実に気持ち良い道。スーッと青空に向かって伸びるような道路相は、何となくアメリカ西海岸(こちらは東海岸だが)をイメージさせる。途中、の駐車場にクルマを停めて防砂林を越えると、何もさえぎるもののない太平洋の渺茫たる光景を目にすることができる。カフェテラスでコーヒーや食事をさかなに宮崎の海を眺めるのは最高だ。

国道10号線に戻り、宮崎県中部の都農へ。道すがら、「道の駅つの」が見えたので、ためしに立ち寄ってみた。道の駅は国土交通省がドライブの利便性向上と地域振興の一挙両得を狙って発足させたもので、南極並みの寒さを誇る役所発のアイデアの中では異例とも言える当たり企画となったことは皆様ご存知なところだろう。が、近年は箱物行政化が著しく、お金ばかりかけて中身はすっからかんという道の駅も少なくない。

道の駅つのは当たりのほうだった。第一次産業大国宮崎の面目躍如で地場の素敵な農産品、海産物が豊富に揃い、食堂も近くの漁港で水揚げされたばかりのネタを使った海鮮料理から、宮崎名物の鳥南蛮など充実。豪華列車ブームのはしりであるJR九州の「ななつ星」にも食材を供給しているらしい。

その道の駅つのの一角に「いやしんごろ にんぎり飯屋」という小さな店があった。宮崎弁、鹿児島弁で“〇〇ごろ”は“〇〇野郎”というニュアンスの言葉。焼酎ばっかり飲んでいる人のことを“そつ(焼酎)のん(飲み)ごろ”と言ったりする。このお店の場合はさしずめ癒し野郎といった意味である。にんぎり飯屋という名前なのに握り飯はなく、果汁を使ったソフトクリームがメイン。店主によれば、果汁成分が半分近くでもソフトクリームとして成立する作り方を研究して作ったものらしい。デコポンとみかんを混合したみかポンソフトが売りだが、筆者はいちごソフトと梅ソフトを食べてみた。どちらも看板に偽りなしの濃厚さで、実に素晴らしかった。

道の駅つのの隣に、都農神社というなかなか立派な神社があった。何でも古代日本の初代天皇、神武天皇が即位6年前に大和平定に出かけるさいに国土の平安、航海の安全、武運長久の祈願を行われた場所とのことで、立派な一之宮。祭神は大己貴命、すなわち大国主命。大国主命とくれば、一番の効能は言うまでもなく縁結びであり、境内にはそれ用のお願いアイテム、お願いスポットがたくさんあった。27世紀も前に由緒があるという、何ともロマンチックな都農神社。境内は人影もまばらでとても静かな空気が流れてて気持ちがいい。寺社に興味がある人にとってはなかなかおススメできそうな場所だった。

都農といえば、かつてリニアモーターカーの実験線が敷設されていたことで知られる。石原慎太郎氏が運輸(元国土交通)大臣だった時代、「豚小屋や鶏小屋の間を走らせるのではリニアにふさわしくない」と言い放ち、山梨に移設を決めたことで1996年に廃止となった。今日、廃止されたリニア実験線の高架橋はメガソーラー「宮崎ソーラーウェイ」として再利用されているというので立ち寄ってみた。音もなく電力を生み出すその設備を眺め、「ああ、ここで生み出された電力でゴルフGTEに充電できたらカーボンフリーなのに」などと思いながらドライブを続けた。

国道10号線をさらに北上すると、美々津という町に着く。明治維新後、わずかな期間ではあるが宮崎県は南の都城県と北の美々津県に分かれていたことがあり、後者の県名の由来となった。景観保存地区に指定されている古い街並みの先には港があるが、そこに石の記念碑が建てられ、その下には大きな碇が置かれていた。碑文には「日本海軍發祥之地」の文字が。「え?海軍の根拠地といえば瀬戸内の柱島や呉じゃないの」と思い、看板の解説文を読んでみたら、先の都農神社で見かけた神武天皇出征の地がここだったのだそうだ。

宮崎の太平洋沿岸のドライブは、宮崎市から南に下るルートも含め、陽だまりの中を行くような気持ち良さがある。隣県鹿児島人の筆者からみてもスーパーのんびりな宮崎気質は、この風土によって醸成されたのだろうと納得するほど。明確な目的を持たずとも、走るだけでヒーリング効果があるので、ツーリングにおススメできる。高速道路も整備されつつあるが、ここはとくに一般道のほうがより楽しめる。裏道も結構あるのでチャレンジしてみては!?

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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