【インタビュー】BMWは無駄を廃したプレミアム…デザイン部門 永島譲二エクステリア・クリエイティブ・ディレクター

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BMWデザイン部門エクステリアクリエイティブディレクターの永島譲二氏
BMWデザイン部門エクステリアクリエイティブディレクターの永島譲二氏 全 16 枚 拡大写真

BMWは2016年に100周年を迎え、記念としてコンセプトカーの『VISION NEXT 100』を発表した。そのデザインのプロジェクトマネージャーを務めた、BMWデザイン部門エクステリア・クリエイティブ・ディレクターの永島譲二氏に、コンセプトカーのデザインコンセプトやBMWの将来のデザインについて話を聞いた。

■BMWらしさはセダンから

---:100周年を記念するコンセプトカーをデザインするにあたり、なぜオーソドックスなセダンというボディタイプを選択したのでしょうか。

永島譲二氏(以下敬称略):BMW100年の歴史を振り返ると様々なクルマが存在します。そこでまず、BMWを代表するクルマはどういうタイプかを部内でアンケートを取りました。その結果、ひとつは『3.0CSi』からの流れを汲むクーペの『6シリーズ』でした。もうひとつは『2002』で、ほぼ半々の意見に分かれました。実は丁度ヴィラデステコンクールデレガンスに出展した『3.0CSLオマージュ』を制作していた時期で、3.0を選ぶとクーペが重なってしまいます。そこで、一方のBMWを代表するのは小型から中型のセダンだと判断し、4ドアセダンという枠組みを決めました。

---:その後どのようにデザインを固めていったのでしょう。

永島:突飛な、ぷっとんだアイデアを皆に求めました。これは、未来的なショーカーを作る際には、最初の段階ではものすごくワイルドなアイデアを求めるのと同じで、そうすると色々なアイデアが出てくるのです。今回のフェンダーが伸び縮みするようなアイデアもその一例です。それ以外にも10以上のアイデアがありました。

しかしこれらは全てスケッチなので、モデルを作る責任者を呼んで、出来るものを選んでもらいました。実は全部出来ないといわれたのですけどね(笑)。それでもあえてということで、フェンダーのアイデアが採用されたのです。これは3Dプリントによるフェンダーという前提で作成したもので、自動車を生産する技術から変えていったら面白いのではないかというアイデアも含まれています。

---:こういったアイデアはインテリアでも使われていますか。

永島:常にインテリアデザインは、エクステリアより遅れてスタートします。なぜなら大体の枠組みがないとデザインが始められないからです。

VISION NEXT 100のエクステリアの大きな特徴であるフェンダーが伸び縮する部分を“アライブジオメトリー”と呼んでおり、これは生きている仕組みというような意味です。このアイデアを室内にも使いたいと考えました。

そこで、自転車が飛び出してきたらダッシュボードの上が鱗のようにぱたぱたぱたと音を立てて動きウォーニングサインとして知らせる仕組みを考えたのです。これは実際にアクチュエーターがあって三角の一つ一つが押し上げられる実働するシステムで、エクステリアのアライブジオメトリーフェンダーと呼応しているデザインアイデアなのです。

■BMWが目指すデザインはラグジュアリーではなくプレミアム

---:このVISION NEXT 100ですが、ここから将来のBMWを暗示しているようなモチーフはあるのでしょうか。

永島:直接的にはあるとはいい難いです。次世代というと2年以内というイメージですが、もうそのあたりにデビューするクルマのデザインはかなり進んでいるかもう終わっていますので、このVISION NEXT 100のデザインを反映させるのは難しいのです。

また、VISION NEXT 100では自動運転可能なイメージでデザインされていますが、将来的には確実に実現されるこの技術も、現在では法的整備等、考えていかなければいけないことは多くあります。そういうことを踏まえ、アイデアのどれか使われるかというと、キドニーグリルくらいとしかいえません。

---:そうするとこのコンセプトカーでは何を表現しようとしているのですか。

永島:具体的に将来こうなるというデザイン提案ではなく、もっとスピリチュアル的に継承されるものがあります。例えば、グリルなどの伝統の部分は継承されるでしょう。一方で、全社的な意思として過去に固執せず、常に未来を見ています。

プレミアムブランドであろうとすると、確かにひとつには伝統に頼るという手もあり、そういうメーカーがあってもいいと思いますが、BMWの場合はむしろその逆です。我々は“プレミアム”と“ラグジュアリー”という言葉を分けて使っており、あえてラグジュアリーとはいいません。その理由は、ラグジュアリーというのは無駄であることが贅沢であるということと少しつながるからです。BMWの場合にはそうではなく、機能性が高いことが高級であると考えています。そういうスピリットを表現したかったのです。つまり、VISION NEXT 100は非常に効率が高いクルマであり、スペースに無駄もないクルマなのです。

例えばボンネットが短いということに関しても、過去に12気筒を作ってそのイメージが強かったこともありましたが、そういうものに頼らない。デザインというのは、説明を聞くのではなく、見るコミュニケーションです。このコンセプトカーを見てクラシカルと思う人はいないでしょう。形というよりも目指すものの(プレミアムという)方向性や、気持ちで作っているということが伝わればよく、その部分は表現されていると思います。

---:それでは最後に、BMWらしさとは何でしょうか。

永島:我々はプリシジョン&ポエトリー(Precision & Poetly)というデザインフィロソフィを持っています。これは、金属調で締まった形でありながら、ドライではなく、ある程度情感が入る形です。この情感を言葉にするのは難しいのですが、例えば音楽を聴いてなぜこれが悲しいのかといわれても具体的に説明しにくいでしょう。それと同じでフィーリングなのです。プリシジョンは正確なかっちりした感じでありながら、ドライな箱ではない。そして人の情感が表現されている。これは、BMWというクルマの乗り味とも共通しており、VISION NEXT 100にも同じものを感じてもらえるでしょう。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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