モーターショーでもますます見られるようになったVR体験。VRで、クルマはさらに楽しくなり、売れるようになるのだろうか? VR体験や販促に力を入れるメーカーの最新事例を紹介していく。
◆シンガポールモーターショーで注目を集めたアウディのVR戦略
今月中旬に開催されたシンガポールモーターショーでは、アウディが提供したVR体験が、ひときわ話題となった。
「自分の生活環境の設定で車を見てみたいユーザーの車選びに、VRが100%貢献してくれる」と地元メディアChannel NewsAsia に語るアウディは、専用ヘッドセットをつけた本格的な仮想空間体験を提供。ユーザーは、都会からアイスランドの山、月面にいたるまで、周辺の環境を変更しながら、仮想車両の周りを自由に移動できる。さらに高性能追跡システムがユーザーの動きをマッピングし、対応する光景がヘッドセットの視野に表示される。
アウディ・シンガポールのマーケティングゼネラルマネージャーを務めるアンナ・ボリー氏は「モビリティの未来は技術にある。スマート化が進む風潮は、自動車そのものだけでなく、小売やマーケティングなど、業界の環境全体に影響する」と、地元メディアCampaign Asia-PacificにVR戦略の動機を解説する。
特にショールームのスペースが限られたアジアでは、省スペースで完全カスタマイズが可能なVRは「小売の未来」を約束するものだ。消費者が車の購入に最も期待するパーソナライゼーションの側面が、VR戦略に取り入れられている。 アウディは、アジア太平洋地域をはじめグローバルにVRキャンペーンを展開する予定。「消費者はVRの潜在的可能性をまだ知らない。アウディではすでに新しい開発に着手している」ほど力を注ぐ同社のVR体験は、さらに進化が期待できそうだ。
◆ホンダがドリームワークスと共同開発する車内エンタメVR「ホンダドリームドライブ」
ホンダは、シリコンバレーを拠点にイノベーションを推進するHonda Developer Studioがドリームワークスアニメーションと共同開発する、車載用のVRプラットフォーム「ドリームドライブ」のデモをCESで行った。
VRヘッドセットを装着し、車の動きに合わせてVR画面に表示される飲食店などの情報を見たり、ゲームを楽しむ「後席向けエンターテインメント」と位置付けている。CESでは、ドリームワークスの最新アニメ映画「トロール」のコンテンツも提供された。
ホンダとドリームワークスの提携は、車載エンターテインメント、教育、情報アプリケーションを車両の動きにリアルタイムに同期させるため、ライブ・テレマティクス・データを融合させるソフトウェア開発キットの作成に重点を置く予定だ。
「消費者が個人のデバイスに依存するにつれ、車内のエンターテインメントは急速に変化しており、ユニークな体験を創造する新しい機会」と考えるホンダと、車のキャビンを「楽しく教育的な体験を提供する未踏のプラットフォーム」ととらえるドリームワークスは、 「インタラクティブなエンターテインメント、教育、情報体験、さらには個人の生産性を向上させる能力」までも、車で過ごす時間にもたらすようなソリューションを共同で開発していく。
(VR video experience)
◆ジャガー・ランドローバーの「VR体験キット」
ジャガー・ランドローバーは19日、ショールームにおける販促にVRを導入すると発表した。今月末から1,500以上の小売店で、20の言語にローカライズされた「VR体験キット」を展開する。
昨年F-PACEの発売時にVR体験を試行した同社は、車両開発、デザインにも積極的にVRを活用している。今年発売される新型各車の実物モデルがショールームに届く前に、潜在的な購入者が一足早く体験できるVR体験キットは、消費者の意思決定を促進すると期待している。
VRヘッドセットを通して実物大のモデルを見たり、インタラクティブに技術仕様や機能をチェックしたり、またさまざまな視点から車内を360度閲覧したりすることもできる。ヘッドセットとは別にタブレットでの操作も可能で、消費者は購入を検討している間、営業担当者とともに細部について再確認できる。
「この新しい購入方法により、我々の革新的な能力が顧客をさらに引き付けることになるだろう」と、ジャガー・ランドローバー・グループの営業担当ディレクター、アンディ・ゴス氏は、VRにかける期待を語る。 「VR体験で、小売業者は顧客に話しかけやすくなり、車を購入するプロセスはいっそう楽しくなる」
まずはランドローバー・ディスカバリーからスタートする「VR体験キット」が、いかに売り上げに貢献するか注目される。