【スバル インプレッサ 800km試乗 前編】日本車のフルモデルチェンジだ…井元康一郎

試乗記 国産車
スバル インプレッサSPORT 2.0i-L AWD
スバル インプレッサSPORT 2.0i-L AWD 全 16 枚 拡大写真

昨年10月末にデビューしたスバルのCセグメントコンパクト5ドア、新型『インプレッサSPORT』で北関東および福島方面を800kmあまりツーリングする機会があったのでリポートする。

これからのスバルの試金石になる

1992年に登場した初代から数えて第5世代にあたる新型インプレッサは、パワートレインこそ旧型の改良型なもののボディ側については基盤技術が全面刷新された、これからのスバルの10年、20年の試金石となるモデル。旧型を継ぎはぎで改良しながら次第に技術を更新していくのが常のスバルにとっては久々の大型フルモデルチェンジである。

試乗車は最高出力154psの2リットル水平対向4気筒エンジンを搭載する中間グレード「2.0i-L」のAWD(4輪駆動)。オプションとしてカーナビやレザーインテリアが追加されていた。試乗車の参考価格は270万円台、オプションなしだと237万6000円。2リットルAWD、先進安全システム「アイサイト」標準装備といった仕様を考えると、Cセグメントのライバルに対する価格競争力はきわめて高い。

ドライブルートは次のとおり。東京・葛飾を出発し、まず高速とバイパスを併用しながら福島の白河へ。そこから阿武隈山地を延々と走って太平洋沿岸の相馬に到達し、浪江町~双葉町~大熊町~富岡町を通過。その後、常磐自動車道、磐越自動車道を使って白河に戻り、一般道経由で栃木のツインリンクもてぎへ。最後は国道新4号経由で東京と帰着した。総走行距離は842.1kmで、おおまかな道路比率は市街路2割、郊外路6割、高速2割。路面コンディションはドライ9割、ヘビーウェット1割。1名乗車、エアコンAUTO。

ただひたすら“いいクルマ”

まずはドライブを終えたときの総合的感想。新型インプレッサは国産Cセグメントのライバルを寄せつけず、フォルクスワーゲンや欧州フォードのモデルと互角のスウィートな乗り味を持った、類まれなる快作だった。めちゃくちゃ速いというわけではない。刺激的なコーナリング性能があるわけでもない。ツーリング燃費はライバルと比べ、何とか許容範囲というレベル。こだわらなくていいと判断したとおぼしきところは徹底的に安く作っている。そういう個別の問題などどうでもいいと感じるくらい、インプレッサはただひたすら“いいクルマ”であった。

新型インプレッサの発表会のとき、吉永泰之社長は「これは1モデルのフルモデルチェンジではない、スバルのフルモデルチェンジだ」と豪語。シャシーエンジニアは「開発途中まではフォルクスワーゲンゴルフ6、その後はゴルフ7をリファレンスモデルに見立てて開発してきた。肩を並べることができたと思う」と言っていた。

そう言われると「本当か?」と試してみたくなるのが人情ということでロングツーリングを試してみたのだが、果たして「スバルのフルモデルチェンジなんてもんじゃない。日本車のフルモデルチェンジだ」という印象を抱いた。そのくらい素晴らしかったのである。

もちろん燃費のさらなる向上など、さらに改良を加えていかなければならないポイントはいくつもある。が、それは技術の進歩の問題であって、その気になればお勉強によってどんどん良くすることができる。新型インプレッサのすごいところは、そういうお勉強で何とかならない部分、すなわち「クルマの動き方をどう作り込めば乗る人を気持ちよくさせられるか」という、何が正解か決まっていない官能領域で、ひとつの骨太な答えを示すことができたことだ。

道路の制限速度が低く、エンジニアがそういう考察をする機会が少ないことが日本メーカーが背負う大きなハンディキャップとなっていたが、その日本で、最も規模の小さなメーカーがこれだけの答えを出すことができたのだ。ライバルメーカーにとっても大いに発奮材料となるに違いない。インプレッサを起点に日本車全体が機械的信頼性だけでなく、官能領域についても素晴らしいものになっていけば、日本車の付加価値が上がっていくことにもつながろう。

新型のハイライトは「シャシーチューニング」

では、個別の性能について見ていこう。まずはロングツーリングを楽しく、快適なものにするシャシーチューニング。ここが新型インプレッサの圧倒的ハイライトだった。素晴らしく感じさせる原動力となっていたのは、直進時やステアリングをわずかに切ったときのクルマの動きが飛び抜けて優れていたことだ。

クルマのシャシー性能を云々するとき、真っ先に「曲がり」の性能が頭に浮かぶ。それはとても大事なことなのだが、ロングツーリングを気持ちよくこなすための最も重要なファクターは直進感だ。クルマはステアリングを切らずに走れば真っ直ぐ進む。これは当たり前のことだ。が、この当たり前を作り込むのは、実はとても大変なことだ。道路は真っ直ぐであっても、常に鏡のように平坦なわけではなく、大型車が通行することでできたワダチがあったり、波打っていたり、舗装が荒れていたりと、コンディションは刻々変化する。

それらの外乱を受けるたびにドライバーは無意識のうちにステアリングを修正しながらドライブをしているのだが、インプレッサは深めのワダチを踏もうがアンジュレーション(路面のうねり)が連続するところを通過しようが、その外乱を実にうまく吸収し、舵角修正をほとんど必要とすることがなかった。もちろん大きな外乱だと車体は前後・左右に揺れるが、その揺れが収まったときに元の針路がしっかり維持されているのである。トーインやキャスター角を直進に有利なようにいじっただけではこうはならない。

結果、新型インプレッサは高速やバイパスの巡航時に、数百m先の目標地点に向かって吸い寄せられるように安定してクルーズする。また、その直進を柱として少しだけステアリングを切る緩い旋回もきわめて好フィールであった。この大船に乗ったような安定感をしっかりとモノにできた日本車は過去にあまり例がない。ちなみにスバルのクルマは昔からこの直進感についてはなかなか光るものを持っていたのだが、その過去のスバル車と比べても長足の進歩だった。スバルのラインナップ更新が一巡するであろう5年後には、すべてのスバル車がこの味を基本とするものになる可能性が高い。

購入したらまずは1~2度ロングツーリングを

直進時における安定性の良さが最もよく試されたのはツーリングの最後、国道新4号線でのことだった。宇都宮で降り始めた雨はその後、豪雨となり、国道新4号はあっという間にあちこちで冠水するほどに悪い路面状況となった。そういうコンディションでとくに要注意なのは、大型車のワダチに水がたまることだ。大型車は普通車に比べてトレッドが広いため、普通車はワダチの片方だけを踏むことになる。また、ワダチの水溜りは数十mから長いときには100mを超えるくらい長い。クルマがハンドルを取られやすいコンディションの代表格である。

これは参ったと思いながら走ったのだが、新型インプレッサは驚くことに、その過酷な路面コンディションの中でも針路がほとんど乱されることなく、平然と直進した。片輪が深々としたワダチの水溜りを踏んで、床下ではド派手にザバーッっとタイヤが水を切る音が発生していても、まるで良路を走っているように滑らかにクルーズしたのだ。鼻先が微妙に動いたりしないため、乗り心地も悪化しない。シャシー性能の向上のためか、同じAWDでも他のスバル車に対して大きなアドバンテージを有する、文字通りの全天候型ツアラーであった。

クルーズ感を良いものにするもうひとつの要因は、ショックアブゾーバーと樹脂ブッシュのチューニングが素晴らしく、路面の微小な凹凸を実によく吸収したことだ。中速以上のスピードで巡航しているとき、アンジュレーションや舗装の破損部、道路のジョイント部などを通過しても、ゴロゴロッという鈍い微振動をわずかに体に伝えるだけで、とても滑らかにいなす。市街地ではそれよりはやや固さを感じさせるが、十分快適と呼べる範囲内に収まるものだった。

この質感が出てきたのは、実は今回のツーリングの後半で、オドメーター2200kmほどで試乗車を借り出した直後はサスペンションのフリクション感が強く、「これでスバルのフルモデルチェンジとは話を盛りすぎなのではないか」などと思ったのだが、ドライブの後半、とくに山岳路である程度サスペンションにタフな仕事をさせた後の2800km以降、俄然サスペンションのアタリがついてきて、序盤の固さがウソのように滑らかになった。インプレッサを購入した人は、早いうちに1、2度ロングツーリングをやって、サスペンションを動かしてやるといいだろう。

フロントサスペンションの固さは要改善か

新型インプレッサで惜しいところは、直進や緩旋回のときのフィールが素晴らしいのに対し、そこからさらにステアリングを切り込むような急旋回になると、その良さがいささか失われることだ。絶対性能は高速道路、一般道ともに制限速度が低い日本の道路においては十分すぎるほどに高いのだが、車両の姿勢変化のインフォメーションが乏しく、クルマに走らされている感が強まる傾向があった。

インフォメーションの伝わり方は複合的なので、原因はこれだと断言することはできないが、要因のひとつにフロントサスペンションが少々固すぎることがあるのではないかという実感はあった。新型インプレッサは赤信号などでブレーキをかけるさい、少々強めに減速してもノーズがほとんど沈み込まず、水平に近い姿勢を保ったまま停止するくらいフロントサスペンションが固い。

4輪駆動の場合、後輪にもトラクションをしっかりかけるのが望ましいので、前輪駆動のように前につんのめるような姿勢になる必要はないのだが、それでもフロントの沈み込みをもう少し強めにして対角線ロールが体に伝わるようにしてやれば、ワインディングでも俄然リズミカルになるのではないかと思った。

もっとも、体感の作り方は前サスのセッティングばかりではない。セッティングの難しい直進や緩旋回の味付けがあれだけいいのだから、その後の領域を良くするのはそんなに難しくないはず。スバルは頻繁にシャシーセッティングの改良を行うメーカーなので、今後、何らかの方法でこの部分にさらに磨きをかけてくれることに期待したい。(後編に続く)

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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