3.11から6年…未だ復旧半ば、「がんばろう浪江」看板も虚しく

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国道6号線に立てられた「この先帰還困難区域」の看板。6年経った今も復旧半ばだ
国道6号線に立てられた「この先帰還困難区域」の看板。6年経った今も復旧半ばだ 全 18 枚 拡大写真

福島県を中心に800kmあまりツーリングした。中通りの白河から阿武隈高地を縦貫するルートで太平洋側の相馬市へ。その後、福島第一原子力発電所の事故に伴う帰還困難区域を含むルートを走ってみた。震災直後、原発危機がリアルタイムで進行していた時に現地取材を行ったとき以来の再訪だった。

6年近く経っても、まだ復旧半ば

まず福島と相馬を結ぶ国道115号線を東進し、相馬の太平洋岸に出た。震災直後は海岸に近いところが広い範囲にわたって津波が残した泥濘に覆われ、クルマはまったく通行不能であったため歩くしかなかった。今は市街地を走る限り、その痕跡はほとんど残っていない。ただ、海岸に近づくにつれて道路には細かい砂塵が浮き始める。6年近くが経っても、まだ復旧半ばなのだ。

相馬の海岸線は現在、災害危険地域に指定され、人が住むことはできなくなった。ホテルや旅館も建てることはできない。商業施設など人が定住しない施設は建設可能なのだが、災害危険地域、および隣接する農地跡に作られていたのは、大規模な太陽光発電所だった。見たところ工事の進ちょくは5割ほど。完成すれば設備容量5万2000kWに達するらしい。完全な更地になったその場所に集落があったことを示すのは、あちこちに傷跡を残す元市街路だけだ。

相馬市から南相馬市までは、災害危険区域を除けば人が自由に居住できるぶん、まだ平和な雰囲気だった。南相馬の鹿島地区には、陸前高田と並んで1本だけ津波で倒伏しなかった松、通称「軌跡の一本松」がある。周りは津波に洗われ、ほとんど何ひとつ残っていないため、比較的遠くからでもよく見える。その一本松は塩害によって枯死してしまったが、木の根元に立てられた案内板によれば、その松から採取された実が芽吹き、幼木となっているらしい。

人影のない沈黙の世界が広がる

南相馬で国道6号線に入り、浪江町へ。このあたりに来ると、急に雰囲気がものものしくなる。一般車両は減り、瓦礫を運ぶダンプカーや資材運搬用のトラックの比率が高まるのだが、反対側車線を走るそれらの災害復旧車両を見ると、運転手は皆防塵マスクをつけている。いまだ完全に災害復旧が終わっていないため、道路はほこりまみれ。放射性物質を帯びた粉塵を過度に吸い込まないようにするための措置なのであろう。

浪江町は山側に高線量エリアが広がっているが、海沿いは比較的線量が低いため、立ち入りが原則禁止の帰還困難区域から、立ち入りの自由な居住制限区域、避難指示解除準備区域へと順次緩和されている。だが、居住が制限されているため、街道から外れると、そこは人影のない沈黙の世界だ。

高瀬川という川のほとりでクルマから降り、少々周辺を散策してみた。海に近いエリアは相馬や南相馬と同様、災害危険区域に指定されたため、家はもう建てられない。誰も困る人がいないためか、津波で破壊されたガードレールは修理されず放置されていた。川岸が植物で埋まり、大昔の日本の牧歌的な風景に回帰していた。

川にかかる橋を渡ろうとしたとき、橋のたもとの茂みからやおら、ものすごい羽音がして巨大な鳥が飛び立っていった。見たところ、大型の鷲か鷹のようだった。人間がいなくなったのと入れ替わりに、野生生物が棲みはじめているのだ。向こうも突然人間がやってきたのでびっくりしたのだろう。人がいなくなった土地は、時間と共に自然に還っていくのだということが実感された。

「がんばろう浪江」の看板も虚しく

浪江町の市街地には、結婚式場と葬祭場が隣りあわせで立つという、ちょっと面白い施設がある。が、住民がいなくなった今はもちろん営業はしておらず、災害復旧のための拠点となっていた。建物には「がんばろう浪江」という看板が掲げられていたが、作業者以外はほとんど目に留めることもなさそうで、無常を感じさせられるところだった。

結婚式場&葬祭場を過ぎたところから、双葉~大熊~富岡の3町にまたがる高線量区間となる。交差点やわき道への分岐はすべて厳重にバリケードで閉ざされ、許可がなければ入ることもできない。ひたすら国道6号線を直進するのみだ。信号は数箇所を除き、すべて黄色の点滅か消灯。道路際の照明も大半は電源が落とされ、重い空気に包まれていた。

途中、営業を休止しているファミリーマート双葉長塚店の前でクルマから降りてみた。交通量は多くはないものの、作業車や相馬といわきを往来するクルマなどはそこそこいる。が、いったんクルマの流れが途切れると、あたりはしーんとした耳を圧するような静寂に包まれ、無人であることが肌身で感じられる。道路には放射線の線量計が設置されていて、この時は「2.909μSv/h」と表示されていた。

さらにクルマを走らせる。すでに空は夕暮れも色あせて航海薄明くらいの暗さになっていて、市街地を抜けると暗い山道を走っているのと感覚的には変わらない。しばらくすると、その暗がりから住宅地が浮かび上がるように現れた。

国道6号線を挟むように家が密集して立ち並んでいる。全戸、灯りは点いておらず真っ暗。道路と住宅地の間は鉄柵で厳重に仕切られていた。避難から長い年月が経ち、どの家も庭は荒れ、外装も傷みが目立ちはじめていたものの、街の姿自体は健在。よく、科学番組で地球から突然人間がいなくなったら?というシミュレーションを見かけるが、その初期の光景がリアルに目前に展開されているかのようだった。

30年経っても「復興」は難しい

国道6号線の帰還困難区域の通過距離は20km足らずと、とても短い。普通のドライブならあっという間に通りすぎてしまうところだが、不気味な静寂と暗闇に包まれた帰還困難区域のドライブは、普通の20kmとはまったく違っていた。震災直後は道路のあちこちが損傷し、倒れたブロック塀や看板などが路上に散乱。緊急要員がホイッスルを鳴らすという緊迫した雰囲気だった。

幹線道路をはじめ、各所の復旧が進められている今日は、そのときよりずっと希望に満ちた空気感になっていなければならないところだ。が、原子力発電所の事故現場に近いエリアでは、事故が収束しない限りは何年間、何をやっても根本的解決を図ることができないということを、いやがうえにも実感させられた。

それに劣らず厳しい空気だったのは、線量が低下した避難指示解除準備区域だ。たしかに線量の数値は“ただちに影響がない”というレベルなのであろう。が、住民も商業施設も全撤退した無人の街に「はい、帰っていいですよ」と言われたとして、誰がそこに戻れるだろうか。第一陣として戻った人たちは、廃墟同然となった街で毎夜毎夜、静寂をやり過ごさなければならない。また、ごく少数の人が戻ったとして、そこに商店を作っても採算性は到底見込めない。

人が住み、その人たちを相手に商売をする人が現れて、初めてこの地の経済の循環が戻る。が、6年近くが経過してなお、事実上何も進んでいないという今のような事業ペースでは、おそらく30年経っても復興は無理ではないか…というのが、今回現地を見た率直な感想だった。本稿でここまで、あくまで復旧という言葉を使ったのは、こんなブザマな状況で「復興」などというお為ごかしの言葉を使うべきではないと考えたからだ。

経済を再生させるために

この地を甦らせるには、今のようなやり方ではダメだ。帰還困難区域についてはいまだ将来のロードマップが見えない原発事故を何とかして収束させなければお話にならないのだが、それ以外の避難指示解除準備区域や、普通に居住はできるものの人が離れてしまったその周辺の自治体については、今とは違うもっと急進的なポリシーで人を呼び込み、経済を再生させる必要がある。

方法はいろいろある。たとえば、霞ヶ関の中央官庁のうち、都会にオフィスを置く必要性が薄いバックエンド部門を浪江、南相馬、楢葉、あるいは同じように過疎化と災害のダブルパンチを受けている他の東北沿岸部へと分散移転させるというのはどうだろう。

省庁移転による東京一極集中の緩和は安倍内閣の目玉政策のひとつ、地方創生を進めるための号砲のようなものだ。が、各省庁の抵抗が激しく、今のところ、文化庁が京都へ、消費者庁が徳島へと、省庁移転はごく一部に限られている。避難指示解除準備区域やその外側は文字通り“ただちに影響はない”線量なのだから、東北地方太平洋沖地震の被災地を省庁移転の象徴とするのは大いにありだろう。

地方都市でよく見られる光景なのだが、大企業が進出するなどして、数千人単位で人が務めるような事業所ができたところには、日常の買い物をするための商店や飲み屋、バーなどの遊び場がすぐにできるものだ。省庁のオフィスや公務員住宅ができ、街に活気が出れば、住宅などの財産を丸ごと残して避難することを余儀なくされ、遠くから故郷を思う人たちも帰還しやすくなる。

省庁移転はあくまで一案だが、復興はそれくらいの非常の措置をもって取り組まなければ、到底果たし得ない。そんなことをひしひしと感じさせられた福島ドライブであった。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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