アイシン精機がミラノデザインウィークへ4年連続…デザイン部を持つ部品メーカーの出展の意義

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アイシン精機がミラノデザインウィークへ4年連続…デザイン部を持つ部品メーカーの出展の意義
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アイシン精機は2017年4月4日から9日まで、イタリア・ミラノで開催される、世界最大規模のデザインの祭典“ミラノデザインウィーク2017”に出展することを発表した。同社は2014年の初出展から4年連続の出展となる。

■2014年から2016年コンセプトはImagine New Days

アイシン精機デザイン部部長の松井明子氏によると、「2014年から2016年まではImagine New Daysをコンセプトに、これからの人の暮らしを豊かにするデザインプロジェクトとしてスタート。自動車分野で得た高い技術力で、住生活やエネルギーなどの分野へも展開し、人の暮らしを豊かにする新たなソリューションを提供しようと、2014年はne.mu.ri、2015年はa.yu.mi、2016年はtu.ku.riという3つのテーマで取り組んできた」と振り返る。

2014年はミラノ・トリエンナーレ会場で2万6600人の来場者があった。テーマはne.mu.ri。「自動車部品の体重検知センサーを用い、住空間へと応用しインタラクティブな家具を提案」。デザインはミラノ在住のデザイナー、伊藤節、伊藤志信両氏で、「シートに使われている体重検知センサーをソファーの中に仕込み、ソファーに座ると、座った部分が光るインタラクティブな家具を展開。また、この体重検知センサーをベッドに応用し、その嬉しさをイメージビデオでベッド上に映し出した」と説明。

2015年はミラノスーパースタジオで、3万人の来場者を集めた。テーマはa.yu.mi。「自動車部品の障害物センサーを住空間へと応用し、安全なパーソナルモビリティを提案」と松井氏。モビリティの名前は『ILY(アイリー)』。innovative life for you から名付けられた。

ILY-Aはアイシン精機のデザイン部でデザインされ、4つのモードに可変する新しいモビリティだ。Vehicleモードでは跨いで座った形で乗車出来、KICK BOARDモードでは立ったままアクティブに乗車出来る。また、CARTモードでは荷物を乗せることも可能。そして、CARRYモードではクルマなどに搭載可能だ。「この4つに変形するモビリティによって、お年寄りから子供まで多くの方に楽しんでもらえるツールになると思いデザインした」と話す。

ILY-Iは、伊藤節、伊藤志信両氏のデザインだ。「これは室内で使うモビリティで、非常に小さな半径で回転することが可能だ。室内でモビリティに乗ってもらうと、どうしてもソファーなどと違和感が生じるが、これはそういったことも感じさせないようなデザインとした」とコメント。

2015年のインスタレーションはクワクボリョウタ氏が担当。そのテーマはinvisibilityとし、LEDを付けたアームロボットを会場の中央に置き、その周りにアイシン精機の実際の部品を並べた。「このLEDがこの部品を照らすのだが、部品から出されている映像とは思えないような非常に幻想的な空間を作り出すことが出来た」という。

2016年はミラノスーパースタジオで、3万600人を超える来場者があった。テーマはtu.ku.ri。松井氏は、「作る喜びをもう一度ということで、アイシン精機の技術のルーツでもあるミシンによって、人の創造性を形にするものづくりの楽しさを再認識してもらおうと提案した」と述べる。

エントランスに入り最初の空間が drive to shine。これは吉本英樹氏の作品で、「アイシン精機をイメージするインスタレーションを依頼したところ、アイシン精機はギアなどをガリガリ作っているメーカーだというイメージのもと、ギアを天井に配することで、その上から照明を当ててキラキラと木漏れ日のようなものが床面に写るというような幻想的な空間を作ってもらった」。これは、「アイシン精機が皆さんの暮らしを陰ながら支え、床は皆さんに豊かな空間を提供する意味合いを持った作品になっていた」とその印象を語る。

また、会場には伊藤節、伊藤志信両氏のデザイン、TORTA(トルタ)というテーブルとスツールを配した。これは、「ミシンがすっぽり収納出来るようなスツールになっており、テーブルはお母さんと子供が二人で横に並んで、次はあなたが縫ってみなさいと、横にスライドさせて一緒にソーイングを楽しめるようになっていた」。ここではアイシン精機のミシンを実際に体感してもらうということも行われた。「最初は少し戸惑う来場者も多かったが、自由に刺繍を楽しんでもらえ、最後は男性も子供も、お年を召した方など多くの方に体験してもらい皆さんに笑顔になってもらうことが出来た」と松井氏も笑顔だ。

なお、来場者とコンセプトが繋がっているとして、ミラノデザインアワードのベストエンゲージメントを受賞。会場で使ったミシンは、このイベント用の限定色であったが非常に人気だったので急遽この発売も決定した。

■2017年のテーマはThe next frontier in mobility

そしてアイシン精機は、2017年もミラノデザインウィークに出展する。今年のテーマは、The next frontier in mobility。「モビリティの新しい時代を拓く人とクルマの新たな関係をリードしていく」と松井氏は述べた。

その会場はトリエンナーレ美術館2階。450平方メートルの空間を使い、「アイシン精機が持つこれからの提案として、アイシン精機が持つ技術を活かして更なる次の時代へと、自動運転、コネクテッド、ゼロエミッションの3つのテーマをひとつの空間で構成している。それぞれの空間が驚きやわくわく、更にはすごいといってもらえるような内容だ」とは、総合プロデューサーのTRUNK LTDデザインディレクター 富山県美術館副館長の桐山登士樹氏の弁。

TAKT PROJECTの吉泉聡氏はルーム1のインスタレーションを担当。「モビリティ、自動車は、アイシン精機のメイン事業で、それを中心に表現することを宿題にもらった。実際に工場へ行き、精緻な部品や、それぞれが電気的に制御されて動くさま、自動車そのものの中身など見て、何をメインにして展示を考えたらいいのかすごく悩んだ」と苦笑する。

そして、「アイシン精機が作っている一番大切なものは、モビリティの動きそのものではないかと結論に達し、クルマ本体を見せずにクルマの美しい動き、それだけを表現出来ないかと考えた」という。そこで、「小さなプールぐらいの中に液体を張り、その液体の上をクルマがあたかも走り抜けたかのような軌跡をイメージ。例えばABS が作動して止まる様子や、自動運転のクルマが、人に寄り添うように止まるような、人との関係性、そういった美しい動きをクルマの軌跡だけで表現しようとしている」と説明する。

また、tangentの吉本英樹氏はルーム2のインスタレーションを担当。「未来のクルマなので、今よりももっと知能が発達し、乗っている人の気持ちを理解出来るようになるだろう。それに合わせて人間に情報を提供したり、車内の環境を変化させるなど、人間の相棒のような存在になるのではないか」。そして吉本氏は、「アイシン精機はそういったコンセプトに向かって、技術やサービスを開発しているが、今回の作品ではこのコンセプトをより抽象的、感覚的に表現。具体的には有機的で優しい、柔らかいイメージのクルマのオブジェクトを中心にして、そこで起こる人間とクルマのストーリーを描くような作品だ」と仕上がりのイメージを語る。

「作っているものの中身は、沢山の数学とプログラミングと電子回路という非常にテクニカルな内容だが、ミラノで見てもらう際にはそういったことが感じられないとても美しくてピースフルなものに仕上がるだろう」と述べた。

■なぜアイシン精機はミラノサローネに出展するのか

アイシン精機は部品メーカーでありながら、デザイン部を持っている非常に少ない企業のひとつで、1988年に同部門は設立された。アイシン精機広報部部長の待田貞徳氏は、「もともとアイシン精機のルーツはミシンを作って愛知工業という会社で、この愛知工業の初代社長は豊田喜一郎だった。豊田喜一郎は豊田自動織機で、皆が使える織機を作る研究をずっと行っていた。そして、ミシンは用を足るものだけではなく、美を備えたものでなければならないと、デザイン性に対して感度がもともと高い企業だった」と沿革を語る。

そして現在のアイシン精機は、「ミシンとベッド、いわゆるBtoCの製品を持っており、デザインに対して非常に理解のある会社であり、デザイン部としてもミラノサローネに出展したいという思いが4年前に起きた。皆のモチベーションや、我々が持っている発想力、開発力、デザイン力というものをこの場を通じて試してみたいというのがきっかけだった」と振り返る。

待田氏は、「これまで3年間はずっと家庭用品を出展。一番わかりやすいベッドとミシンを使ってもらったり、体感してもらった。しかし、アイシン精機の96%以上の売り上げは自動車部品メーカーだ。そこで今年はリセットし、そこをもう一度見据えた上で、もう一度皆さんに、いい会社だねと思ってもらえるような部品メーカーだという存在を出そうと試みている」と話す。

「モーターショーなどでは我々の部品をそのまま見てもらい商談などに結び付けるが、そういう見せ方ばかりでは面白くないので、若いアーティストがアイシン精機を見てどう思うか、我々の製品を見てどう表現するかということからスタートした。つまりアイシン精機のイメージをどう訴求するかに重きを置いている」とコメント。

一方でデザイナーのモチベーションを上げたいと、インハウスデザイナーたちの手でミラノサローネへの出展はなかったのか。待田氏は、「その考えはもちろんあった。しかし、デザイナーは常に我々の製品のデザインを行っているので、この場では新たな見せ方や表現の仕方から逆に開発の種みたいなものが出てくるのではないかという期待をしている」という。「それをヒントに、カーメーカーだけではなく、大勢の人たちにアイシン精機は面白い会社だねとPRしたい。そして、我々の会社で作っている製品が、世の中の人たちの生活の一部にしっかり根ざしていて、寄り添っていることをしっかりと表現したいのだ」と出展意義を語った。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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