【インタビュー】ベントレーのビスポーク部門マリナー…今後は日本市場にも力を入れる

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ベントレーモーターズ マリナービスポーク・限定車プロダクトマネージャーのジェイミー・スミス氏
ベントレーモーターズ マリナービスポーク・限定車プロダクトマネージャーのジェイミー・スミス氏 全 8 枚 拡大写真

ベントレーのビスポークや限定車の制作を行うマリナー。今回発表された日本向け限定車『コンチネンタルGT V8Sムーンクラウドエディション』も同部門の手になるものだ。その発表に際し担当者が来日したので、マリナー部門の現在と今後について話を聞いた。

来日したのはベントレーモーターズ マリナービスポーク・限定車プロダクトマネージャーのジェイミー・スミス氏だ。氏はコマーシャル部門の中で製品を始め、財務関係、マーケティング、そしてプランニングと、マリナー部門全般を見ており、特にマリナーとしても年々し成長していく必要があることから、2年3年あるいは5年先を見据えたプランニングも担当している。

■エクスクルーシブなマリナー部門

---:まず、マリナー部門全体のキャパシティからお話を始めたいと思います。昨年のベントレーはおよそ1万台生産されました。そのうちマリナーが手掛けたのはどのくらいだったのでしょう。

ジェイミー・スミス氏(以下敬称略):マリナーには装備部門や限定車部門、ビスポーク部門、コーチビルディング部門の4つがあります。そのうちビスポーク部門では200台以上生産しました。そこに限定車やコーチビルディング部門を合わせると延べ350台から400台になるでしょう。また、装備部門では、シャンパンクーラーなどは比較的簡単にクルマに取り付けられますからそれを加えれば400台以上になります。

---:その台数を更に増やすことは可能ですか。

スミス:現在非常に忙しいのが現状ですが、もう少し台数を伸ばしたいと思っています。例えば500台に伸ばしたとしてもベントレーの1万から1万1000台に比べれば非常にエクスクルーシブでステータス性は変わらないでしょう。我々のチームでは1台だけではなく複数のプロジェクトを同時並行で行い、数をカバーすべく活動しています。

---:台数を伸ばすためには、何らかの方策をお持ちだと思います。同時に日本市場でも、マリナーを訴求していかなければいけないと思いますが、具体的にどのように考えているのでしょうか。

スミス:まず日本市場では、発表会などのイベントが非常に効果的だと感じました。また、コンチネンタルGT V8Sムーンクラウドエディションを発表した前日に、ディーラーに集まってもらい、意見交換や情報提供を行いました。これはディーラーがどういった考えを持っているのか、どういった問題があるのかについての情報を吸い上げるための活動です。

同時に今回はメディア発表とともにユーザーとの商談も行いました。これらを通じてまず日本ではどういったものが求められているのかを理解するための参考にします。そうすることでマリナーの日本における存在感を高めていくことが出来ればよいと考えています。

今回たくさんの意見やフィードバックをもらいましたので、それをクルーの本社へ持ち帰って、次に具体的に何が出来るかの検討を行います。こういったことが今後伸ばすための土台になると思っています。実は丸一週間を費やして特定の国やマーケットでこれだけの活動するのは初めてなので、今後他のマーケットでも同様のことをやればその地域のニーズなども吸い上げてより伸ばせるのではないかと考えています。

少し過去を振り返ってみますと、2002年にエリザベス女王のために『ステートリムジン』をマリナーのコーチビルディング部門が作成しました。その頃までマリナーはごく一部の知る人ぞ知る伝統的なブランドで、あまり派手に色々なところでPRはしてこなかったのです。ところがその頃から他のブランドがビスポークなどの特注プログラムをどんどん開発してきたのです。本来ビスポークというものはベントレーの長年の十八番、 伝統そのものなので、マリナーの位置付けや活動のあり方も変わってきました。具体的には、2013年頃にベントレーの経営のトップがマリナーは隠れた存在ではなく、もっと世に広めようとリソースを投入し、方針転換がありました。その後、製品もどんどん出るようになり、一般的なPRも行うようになってきたのです。

---:ではなぜこれまでマリナーをアピールしてこなかったのですか。

スミス:これはリソース(経営資源や人数、小さな組織)が限られていたことが大きな理由です。現在のマリナーのトップマネジメントは、これまでグローバルオペレーションを担当しており、各地の現場もよく知っている人なのです。そこで3年ほど前からこのトップのテコ入れでマリナーを充実させ、色々な製品を用意して、サービスも充実させてきた結果、アピールが出来るようになったのです。これまでのように経営資源が足りない中でアピールして、せっかく工場に来てもらってビスポークをやりましょうといっても、実は出来ませんでしたとなってはいけません。まずを土台作りがトップのサポートのおかげで出来たというのがアピール出来るようになった大きな変化だと思います。

ベントレーモーターズジャパンマーケティング・PRマネージャーの横倉典氏:今回の日本での取り組みのひとつに、セールスマンにトレーニングを行ったことがあります。セールスマンはマリナーを知ってはいますが、そこで何が出来るのかなど具体的なアイディア自体が思い浮かばないことがありました。今回のトレーニングでは、マリナーで実際に何が出来るのかを明らかにすると同時に、セールスが売りやすいようなマリナーをプロモーション出来るツールを開発しているところです。

今回の日本発表に関しては3つの柱があります。まずメディアを通してマリナーを知ってもらうこと。次に、セールスが知識を深めてお客様に勧められる状態を作ること。最後は、マリナーかが日本市場を理解することで、セールスマンや、お客様とのやり取りを通じて知ってもらうことが大きな目的でした。

マリナーはお客様に対してビスポークのサービスを提供しますが、今回のムーンクラウドのようにディーラーからの要望による限定車は、非常によいきっかけです。他のディーラーも、自分たちだけの限定車を作りたいという動きが活発になってくると思います。つまり、お客様独自のクルマ、ディーラー独自のクルマ、日本独自のクルマが色々なレベルで今後提供出来ることでしょう。

■イギリスと似ている日本市場

---:イギリスのマリナー部門から見て日本市場はどう見えているのかを教えてください。

スミス:例えば今回のムーンクラウドの要望やユーザーの様子を拝見すると、イギリスと基本的に大きな違いはないのではないかと思います。何か特別なものが欲しいとか、他と違うユニークなものが欲しい。しかもそれを見える形で実現して欲しいという思いは似ていると思います。

今回の商談においても、非常に熱心なお客様が多く、色の組み合わせや使い方などはっきりしたイメージを持っており、自分のクルマに誇りを持っている、そういった熱意を感じることが多いように思いました。

---:マリナーのようなイギリス文化を日本に伝える時に難しいと感じる面はありますか。

スミス:ベントレーのクルマに乗っていれば、ベントレーがどういうイメージかということが育まれると思います。その延長線上にマリナーがありますので、それほど距離感やわかりにくさはないでしょう。

もちろん地域ごとに思考は当然違います。その点は、日本チームが日本のことを最もよくわかっているのですから、日本で受けるもの、わかりやすいものはどういうものかをやり取りをして考えていきます。

視点を変えると、イギリスと日本の共通点は結構多いのです。クルマのスタイリングの志向もあまり極端なものや派手なものよりは、少し落ち着いたものをベースにするなど、そういうところで共通点があると感じています。

そうした中でクルマのバラエティはどんどん増えており、以前は黒や白、グレーがほとんどでしたが、最近ではイエローやグリーンのGTなども出てきており、そういったところにもマリナーは対応していくということが新しい課題だと思っています。

国ごとでは、日本とアメリカを比べると非常に大きな違いがあります。日本でベントレーやマリナーを注文するユーザーは時間がかかっても、他とは違う、特別なものが欲しいという方が多いのですが、アメリカでは今、欲しいのですぐにクルマを持って来てという人が多いので、我々としてはカスタマーの好みに対して色々やり取りをする期間が少なくなってしまいます。

日本のようなユーザーですと、マリナーとして色々な提案や、コミュニケーションを取る機会が多くなり、より一層ユーザーにとって特別な仕様を提案出来ますから、マリナーの進め方に合っていると思います。今回、イギリスと日本の共通点を再認識しました。

■親から子に引き継がれるクラフトマンシップ

---:さて、ベントレーはクラフトマンシップを重要視しており、特にマリナーではその傾向をより強く打ち出していると思います。では、具体的にマリナー部門には職人はどのくらいいらっしゃるのでしょう。

スミス:現在60名ぐらいの体制でマリナー部門は運営しています。そのうち職人は20名程度ですので、かなり限られた人数でまさにエクスクルーシブなクルマを作っているのです。

---:そういった職人の方々は色々な専門技術を持っています。そういった技術は代々受け継がれたりしているのですか。

スミス:実際にマリナーでは親子一緒に働いている職人もいます。親から子へ技術を引き継ぐという伝統はベントレーでは珍しいことではありません。工房の中でスキルを直接お父さんから息子へと受け継ぐ例は多くあります。特に木工関係、木を使った色々な加工や、革細工などはファミリー的な形で引き継ぐというケースがよくあることです。因みにマリナーで現在一番長く勤めている職人は42年で、一生ずっとある分野で続けて勤務する人は珍しくはないのです。

---:今後のことですが、マリナーはもともとコーチワークメーカーでした。そこで、例えばヴィラ・デステなどのコンクールデレガンスでマリナーのコンセプトカーを発表、展示することも考えていますか。

スミス:はい、もちろん将来の選択肢通して大いに考えられることです。最近の例ではコーチビルディング部門から、ホイールベースを1m 伸ばした『ミュルザンヌグランドリムジン』をジュネーブモーターショー2016で発表しましたが、このような発表の仕方も将来、考えて行きたいと思っています。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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