【川崎大輔の流通大陸】成長続ける流通市場、中古車輸出の展望

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ヤードに保管される輸入中古車(スリランカ)
ヤードに保管される輸入中古車(スリランカ) 全 7 枚 拡大写真

日本の自動車産業で高成長を続ける数少ない市場である中古車輸出。中古車輸出が業界に与える影響とともに2017年の展望について考える。

1兆円規模の市場へ成長、国内市場の価格形成にも影響

新車市場の縮小が続き、自動車保有台数も将来減っていく可能性がある。そのような日本の自動車市場においては新車販売というフロービジネスからストックビジネスへのシフトが必要だ。具体的には自動車アフターマーケットを今まで以上に発展させていくことが求められてくる。中でも高成長続ける数少ないアフターマーケット市場として中古車輸出市場がある。

直近で最も輸出台数が多かった2014年の中古車輸出台数は128万台だった。ただし、20万円以下の申告価格車両は輸出通関に反映されない。そこで、国土交通省の輸出抹消登録台数142万台から2014年の中古車輸出台数を再度検討する。20万円以下の中古車台数も考慮してより実数に近い台数を算出するためだ。

輸出抹消登録台数は輸出出荷台数としてとらえることができる。これに解体抹消の台数の28.5万台(201)の3割が輸出されていると仮定すると、実態は150万台以上が輸出台数と推定することができる。平均単価が65万円と仮定すると1兆円市場に成長していることになる。

日本国内の中古車流通の中でどの程度の比率を占めているだろうか。日本の中古車流通のメインプレーヤーはオートオークションだ。オークションでの落札台数との比較を行う。オークション落札台数は年間約700万台前後であり、成約率は60%ほどのため約420万台の中古車がオークションで落札される。オークションを経由しないで直接仕入れられた中古車が5%ほどあるとすれば、150万台の輸出台数のうちオークション経由は約143万台だ。したがってオークション落札台数の35%が中古車輸出に回っていることになる。中古車輸出市場は、国内自動車市場の価格形成に充分影響を及ぼす規模である。

日本からの主な仕向け地(輸出国)と今後の注目国

中古車輸出の仕向け地もここ数年で大きく様変わりしている。ロシア、UAE、ニュージーランドが3大輸出国となっていたが、2010年に入ってからはアジア、アフリカなどの増加が目立ち始めている。ロシアは2009年の輸入関税引き上げによる影響で輸出台数が減少、2012年にはミャンマーの輸入緩和によってロシアと肩を並べる輸出国に急成長し14年及び15年の仕向け地ではトップの台数となった。

2016年の輸出通関実績は118万台。16年は円高傾向と更に資源国の景気低迷によって前年比5.3%輸出台数が減っている。仕向け地国は全部で178か国、トップ6で全体の50%、トップ20で全体の85%を占めている。1位はアラブ首長国連邦で過去最高台数の15万台、次にミャンマー12.5万台、ニュージーランド12.2万台と続く。

アジア地域では、ミャンマー、パキスタン、フィリピン、バングラデシュ、モンゴル、シンガポール、スリランカ、マレーシアの8か国がトップ20以内に入っている。アジア地域(8か国)で約48万台と全体の30%を占める。アフリカ諸国はチャイナショック以降の落ち込みがあり、ケニア、南アフリカ、タンザニア、ウガンダの合計4か国で16万台となっている。

2017年以降はミャンマーとジョージアに注意したい。共に基本的に右ハンドル車の輸入禁止規制を打ち出した。これによる輸出台数減少は避けられない。また、スリランカやロシアに関しては締め付けすぎた法規制や経済停滞などの緩和によってこれからの需要の高まりが期待できる。

2016年に1位のアラブ首長国連邦は、引き続き安定的な需要が見込まれている。2位のミャンマーは中古車輸入規制による落ち込みはあるが一気に12万台が半分になることはない。販売落ち込みの反動で長期的には規制緩和に踏み切る可能性もある。3位のニュージーランドは17年の経済の見通しが明るく、18年からのESC規制(横滑り防止装置義務付け)の対象となる車両の駆け込み需要も予想されている。

その他アジア地域を中心に見れば、スリランカは16年の増税により輸出台数が、前年の半分以下に落ち込んだ。このままではスリランカ政府の税収が厳しくなるため規制緩和の可能性もある。パキスタンは13年以降、環境対応車を中心として3年連続日本からの中古車が増加している。輸入規制が急に変化する国であるため今後の動きは注意が必要かもしれない。シンガポールは輸入規制緩和で最近台数を増やしたが17年は規制を強化し台数は一気に減ることが予想される。

2017年の中古車輸出の展望

2017年は中古車輸出市場規模が再び拡大に転じるだろう。理由の1つとして中古車発生量の拡大が期待できるためだ。2009年の第1次エコカー減税及び補助金効果、2012年の第2次エコカー減税効果、2014年消費税駆け込み需要、によって当該年度の新車販売台数が増加している。つまり2017年は車検(3年、5年、7年)対象車が増加する年となる。車検による買い替えタイミングとなる自動車(中古車)が多く発生し、各新車メーカーもそれに合わせた自動車ラインアップの充実をはかっている。

また2つ目の理由としてはしばらく続く円安基調と資源相場の回復がある。それによって低迷していた国での需要増加が期待されている。

実際に訪問して現地を自らの目で見て、話を聞いてみると日本からの高品質な中古車の需要は底堅いと感じる。日本製は高品質だ。日本製への強い憧れは、日本にいてデータを眺めているだけではわからない。

波はあるものの長期的に見れば海外における日本からの中古車輸出市場は成長し続ける。日本で生産され、使用されていた中古車という商品の優位性は、世界的に見て充分な競争力がある。更にアジアを中心とした新興国での自動車市場は拡大傾向だ。アジア・オセアニア地域を中心とした自由貿易協定の進展、また従来輸入を制限していた市場が開放されることで、中古車輸出市場の拡大を後押しすることになるだろう。

そのためには各国の為替相場の動向、関税などの現地の中古車市場施策をしっかりと見極めていく必要があるだろう。また、中古車輸出市場は参入障壁が低く詐欺行為などのトラブルの多い業界でもある。日本がこの業界におけるグローバルスタンダードを確立し、各々がマナーをしっかりと守っていくことが重要となる。

中古車輸出市場は、日本の自動車産業で高成長を続ける数少ない市場であり、健全な市場を創り出し成長させていくことが、業界関係者に求められている。中古車輸出の拡大が日本の中古車流通市場における活性化、更には新車市場の拡大につながると考える。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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