【インタビュー】自動運転中の車内で、自動運転のミライについて聞く - ZMP開発責任者 景山浩二

ZMPにとって悪いニュースが続いた。とはいえ、ZMPがこれまで続けてきた自動運転技術の蓄積が消えて無くなったわけではない。現在のZMPの現在の到達点、そして今後のロードマップについて、レベル3の自動運転で走行する「Robo Car」の車内で聞いた。

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ZMP取締役 技術開発部長の景山浩二氏
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自動運転の先端ベンチャーとして話題をさらった近年のZMPだが、昨年末の上場延期、続いて年明けのDeNAとの提携解消など、同社にとって悪いニュースが続いた。とはいえ、ZMPがこれまで続けてきた自動運転技術の蓄積が消えて無くなったわけではない。現在のZMPの現在の到達点、そして今後のロードマップについて、同社取締役 技術開発部長の景山浩二氏、取締役 管理部長の今西暢子氏に、レベル3の自動運転で走行する「Robo Car」の車内で聞いた。

■レベル3で走行するRoboCar車内にて

---:3D地図はZMPの自社製なのですか?

取締役技術開発部長 景山氏(以下敬称略):地図は他社に製作を依頼しました。白線、車線、センターライン、信号の位置が含まれています。

---:ドライバーはハンドルに手を添えていますね。でも、握っているわけではない。

取締役管理部長 今西氏(以下敬称略):はい。ガイドライン上、いつでも操作できる状態でなければいけないので、そのような態勢をとっています。

今西:このあたりは大江戸温泉や日航ホテル、ヒルトンホテルなどがあり、オリンピックの会場にも近いので、その時に周遊タクシーのようなサービスを提供することをイメージして、今回のコースを選定しました。

---:(車両が停止する挙動を見せて)これはいま、どういった状況でしょうか。

景山:前方のバスが車線ぎりぎりに停まっているので、左側のクリアランスが足りないという判断をして停まりましたね。

---:(信号待ちで停止して)ブレーキが上手ですね。

景山:ありがとうございます。減速ブレーキの加減はまあまあ上手く行っています。一方、ハンドル操作の乗り心地はまだあまりケアできていない。今後の課題です。

---:この車両は各種センサーやコンピューター、制御ソフトウェアが搭載されていると思いますが、コストはどれくらいかかるのでしょうか。

景山:今は試作段階のセンサーを積んでいますので、コストを評価するのは難しいです。センサーの量産が始まると価格がかなり下がりますが、量産にはまだ2-3年かかると思います。

今西:コスト面で付け加えると、当社では高コストな3DのLiDARは使っていません(注:ibeoのLiDARを利用)。量産化を想定して試験車両を作っていますので、なるべくコストを下げることを考えています。

---:(カーブを大回り気味に走って)これは…自分が運転席に座っていたら、自分でハンドルを切りたくなりますね。

景山:ちょっと右側に膨らみましたね。

---:苦手なコースとはどういうものなのでしょうか。

景山:交通状況が複雑なところですね。割り込みがあったり、トラックが接近して走っているなどです。それから西日も困難です。太陽光が直接カメラに入ってくる状況は難易度が高いです。

---:(センシングには)カメラの役割が大きいのですか。

景山:そうです。

---:(カーブで膨らむような挙動を見せて)操作が遅れるような挙動は、認知の問題なのか、操作の問題なのか、どちらなのでしょうか。

景山:どちらかというと操作の問題ですが、両方に原因があります。それぞれ少しづつ遅れると、結果として人間のイメージよりも外側に行ってしまう動きになります。

---:今日のコースは走り慣れたコースだと思いますが、初めての道は走れるのでしょうか?

景山:地図があって、コースが指定されていれば、そこそこは走れると思います。特にこのコースのための特別なことをしているということではなく、こういった状況ではこのように走る、というシステムを考えていますので。

---:右折はできないのですか? 今回のデモコースには交差点の右折は含まれていませんね。

景山:対向車のある右折は事故が起こりやすいところで、これからの課題です。クルマの陰で直進してくるバイクは本当に難しいです。人間でも事故になりやすい状況なので。この車両の能力としては右折も可能ですが、今後も慎重にテストしたいと思います。

---:このあたりは車線が消えかけていて見えづらい状態ですね。

景山:そうですね。左右両方の車線を見て自車位置を計測しています。ただ、影が差したり、太陽光が斜めから差して反射したりすると人間でも車線は見えにくいので、難しい状況です。

---:マーカーの上を走るような自動運転がありますが、そのほうが簡単なのでは?

景山:工場内で動くAGVのようなものがありますが、あれは磁気センサーなどを使って自車位置の特定をしています。

---:お台場を周遊するタクシーを作るのであれば、コース上にマーカーを埋めておけばいいのではないでしょうか。

景山:そういう考え方もありますが、コースが限定されますし、マーカーを設置するコストも必要です。

---:せめて車線をきちんと濃く引いてほしいですね。
今西:そうなんです。私たちもよく話しているのですが、低コストでできる設備投資としては「車線を引く」なんですよね。

---:高速道路での運転支援が市場に出始めていますが、車線をしっかり引くことが大事なのですか?

景山:耐久性のある塗料できちんと車線を引いていただくと、非常に効果的で助かります。

---:ベース車両にエスティマを使っているが、何か意味があるんでしょうか。

今西:エスティマでなければだめな理由は無いのですが、将来、自動運転タクシーや旅客サービスを実現したいと思っています。車いすの方も含めて、移動手段を提供したいという当社のビジョンに沿った車種ではないかと思います。

---:ハイブリッドは自動運転で制御しやすいというところがあるのでしょうか。

景山:それは関係ありません。自動運転とハイブリッドであることは無関係です。

---:現時点で、この自動運転車の制限事項は、右折できないこと以外になにがあるのでしょうか。

景山:交通状況が複雑なところが難しいですね。歩車分離されていない、例えば商店街のようなところだと、自転車や歩行者が入り乱れて動いています。そういうところは走行対象にしていません。

---:バイクの認識には対応しているのでしょうか。

景山:バイクはLiDARで検出できます。バイクだけでなく自転車、歩行者も見えています。左折中に横断歩道で歩行者や自転車がいれば、それを待って左折することはできます。

今西:コンテナを積んでいない長いトレーラーなどもお台場には走っています。コンテナが載っていなくてもきちんと長さを認識できなければいけないので、そのようなデータを繰り返し取っています。

---:センサーの冗長性は確保されているのでしょうか。センサーが一つでも不調だと走行に支障がある状態ですか。

景山:実験車両のうちはまだそこまで考慮していませんが、実際のオペレーションではそういう考え方が必要になると思います。メンテナンスや遠隔監視、緊急の時に安全に移動できる、などの考え方が必要です。現在は有人のテストですので冗長性よりもまず走行の品質を改善していくことが中心です。並行して安全対策、緊急時の対応も進めてはいますが、軸足は走行技術の開発です。

---:今日の走行について、開発チームの満足度としてはどの程度ですか。
景山:開発陣としては、ここまでできたらこれ以上、と常日頃思っているので、まだまだ満足していません。特に、交通状況が複雑になっても対応できる能力を習得したい、と強く思っています。

景山:基本的な動作、つまり直進、左折、レーンチェンジとその組み合わせはできるとして、複雑な状況とは、割り込まれたらどうか、幅寄せされたらどうか、などです。それから極端な環境条件ですね。太陽を正面から浴びて車線が見えにくい状態などです。

---:今日試乗させていただいたこの自動運転で、混合交通の複雑な状況下でも走ることができれば、商用化できる完成度だとお考えですか。

景山:もう少し完成度を上げる必要があると思います。

今西:昨年の湘南(の実証実験)からは、スピードも出せるようになりましたし、左折もできるようになりましたし、ブレーキも滑らかになりました。そういった進化を、今年は随時皆さんにお披露目していきたいと思っています。

そして現在は、自動運転の技術を高めることに軸足を置いていますが、将来的にサービスを提供する段階では、セキュリティ、配車、遠隔監視・操作などの要素を、2018ー19年にパートナーと組んでやって行きたいと思っています。

ZMP取締役 技術開発部長の景山浩二氏
■今年中に「公道で無人運転」を目指す

今西:2017年の今年は、レベル4の無人運転の公道実験をすることが目標です。安倍首相から、無人運転の実験ができる環境を整える、と官民対話の時に言葉をいただいたので、それに向けて自動運転の技術を高めていきます。

---:公道で無人の自動運転車を走らせる、ということですか。

今西:はい。非常に限定された条件下で、ということになりますが、そうです。

---:それはZMPにとってどのような意味がありますか。いまの時点でも、ドライバーとオペレーター(助手席に乗車)は、ほとんど運転に関与していません。

景山:今はドライバーとオペレーターが乗車していますので、レベル3の実験です。これが無人ということになると、遠隔で監視・制御する仕組みを入れていかなければいけません。

---:何があっても絶対に運転するな、とドライバーに言えば、事実上無人と同じ実験ができるわけですよね。

景山:現在のガイドラインでは、安全性に疑念が生じた場合はいつでも人間が介入しなさい、ということになっています。昨年5月に警察庁から出たガイドラインです。事前に関係省庁とのヒアリングを経て作られたものだと聞いています。

■DeNAとの提携解消とその影響

---:DeNAとの提携が解消されましたが、開発に影響はでそうですか?

今西:開発に関してはまったくありません。技術開発面は明確に線引きされていたので、当社がこれまでやってきたことを着々と続けて、2020年を目指す、ということに変わりはありません。しいて言えば、政府に対するロビー活動は合同でやっていたので、その点ではDeNAさんのパワーがあったと思うことはありますが。

---:ZMPは自動運転”技術”の企業、ということですか。

今西:はい、そうです。

---:DeNAは自動運転を利用した”サービス”の会社だと思うのですが、そうするとZMPとしては、技術をサービスの形にするときに、その部分が足りないと思うのですが。

今西:サービスプロバイダーと組んでいくことになると思います。自社ですべてやるということはありません。提携先は1社に限らず、(役割別に)複数になることもあり得ます。例えば配車のノウハウがある会社と、IT系のサービスに強い会社もあります。1対1のパートナーシップに限定せず、柔軟に考えていきたいと思います。

---:センサーや制御ソフトウェアが高度化してくると、安定した車両の供給が受けられるようなパートナーが必要なのではないでしょうか。あるいはエンドユーザーへのサービス提供に長けたパートナーが優先されますか。

今西:現在は前者ですね。サービスプロバイダーとの提携はもっと先のことだと考えていますので。まずは技術をもっと高めていくことが必要です。その技術の先は、ZMPの自動運転ハードとソフトを組み込んだベース車両を生産・配車できる企業とのパートナーシップが必要となると考えています。


■AIBOと自動運転は似ている

---:ところで、影山さんは以前、ソニーでAIBOを開発されていたと聞きましたが。

《佐藤耕一・三浦和也》

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