【川崎大輔の流通大陸】フィリピンで生まれる自動車 IoT ビジネス

自動車 ビジネス 海外マーケット
帰宅ラッシュのマニラ
帰宅ラッシュのマニラ 全 5 枚 拡大写真

アセアントップレベルの販売台数成長率

フィリピンの首都マニラ。初めて訪問したのであれば貧困と混とん、退廃と危険のイメージとはかけ離れた綺麗な高層ビルが建ち並ぶ大都会、そして自動車の渋滞に驚くだろう。

フィリピンの人口は約1億人でインドネシアに続くアセアンの巨大消費市場だ。2016年のフィリピン新車総販売台数は、前年比24.6%の35万9572台に達した。新車販売台数の成長率はアセアン諸国の中でトップレベル。日系メーカーのシェアは全体の75%ほどで、経済発展に牽引されて市場拡大が期待されている。

フィリピンでのIoTの流れ

自動車市場が拡大をしてきた理由の1つとして、フィリピンで自動車やバイクが生活必需品になりつつあることが挙げられる。都市部であっても、鉄道やバスなどの公共交通機関の利便性が非常に悪くジプニー(乗合タクシー)などの民間サービスが市民の足となっている。そのため、ある程度安定した収入が得られる職を得るとローンを活用して真っ先に自動車やバイクを購入する。

更に、IoTを活用した自動車ビジネスの出現で、フィリピンをはじめとするアセアン諸国では、購入した自動車やバイクを活用して更に収入を増やせるようになった。

身近なところでIoTを活用した自動車配車ビジネスのUBER(ウーバー)がある。スマートフォンとインターネットを通じて、人と車をつなげている。空いてるリソースの需要と供給をマッチングしているのだ。例えば自動車を保有したらUBERに登録するだけで、空き時間にドライバーとしての収益を獲得できる。これが唯一の収入源である必要はないが、このドライバーの仕事だけでも十分な収益を期待できる。

それでは、安定した職を得られない人はずっと自動車やバイクを購入できないのか。ローンを組めず日銭を稼ぐ貧困層は、今以上の生活水準の向上は望めないのだろうか。そこに目をつけたのがGlobal Mobility Service (以下GMS)である。

2015年11月にGMSはIoTを使ってプリペイド式のトライシクル提供サービスをスタートした。トライシクルとは、一言で言えば3輪タクシーだ。モーターバイクにサイドカーをつけた構造をしており、タクシーのように自由な場所に行くことができる。どちらかと言えばタクシーよりも狭い範囲での移動が主となる。

GMSの取り組みは、トライシクルドライバーになりたいけど、トライシクルを持ってない人が車両を利用できるようになるプログラムと言える。仕事道具がない人に対し、車を使えるようにしてあげるので仕事しないか?ということだ。

GMSフィリピンのビジネスモデル

GMSは日系企業だが、フィリピンでIoTのテクノロジーを自動車ビジネスの領域で活用しようとしている。GMS設立の目的は、貧困層の返済能力や返済担保の実態とファイナンス会社の与信のギャップをなくすことだった。GMSの中島社長は以前、大気環境汚染の著しいフィリピンで電気自動車を販売し普及させようとしたが貧困層が多かったため、ローンを組めず販売が伸び悩んだという苦い経験を持つ。

ビジネスモデルはこうだ。GMS若しくはGMSと提携するファイナンス会社がトライシクルを購入する。購入したトライシクルにGPS機能がついているIoTデバイスを取り付ける(これで、トライシクルの場所をリアルタイムで把握することができる。更にこのIoTデバイスは遠隔操作でトライシクルのエンジン始動を制御することができる)。このIoTデバイスつきトライシクルを日銭稼ぎをするドライバーに提供する。ドライバーは前払いのプリペイドで、利用料金をコンビニなどで支払うと、1週間、若しくは1か月の間トライシクルドライバーとなることができる(8日目、31日目に支払いをしなければ、デバイスがエンジン始動を制御して動けなくなる)。仕事道具がなくなると彼らは日銭を稼ぐことができなくなる。そのため、しっかりと支払いを続けることになるのだ。

前払いモデルになったこと、また担保物権であるトライシクルが比較的安全に管理できたことで、ファイナンス会社の与信のハードルを下げられる。

現在、マニラ中心都市のマカティ市との調印が終了した。マカティ市では年間約500台のトライシクルの需要がある。2015年にスタートして約2年間で数100台のトライシクルがGMSのサービスを使い始めた。トライシクルは都市部というよりも地方に多い。フィリピン国内で350万台のトライシクルがあると言うから大きな市場だ。まずは中心のマニラでモデルケースを作り、地方へ横展開をしていく考えだ。

IoTビジネスの本質とは

確かに提供するIoTデバイスはGPS情報の取得とエンジンを止める遠隔操作が機能として目立つ。しかし、更なるビジネスドメインが与信を超えた部分に潜んでいると個人的に感じた。このIoTデバイスの面白い点は様々なデータを取得することができる点にある。

このIoTデバイスによるビジネスの拡張性は幅広い。データを蓄積していくことで、だれがローンを完済したかも把握できる。データから優良顧客リストを作成できる。彼らには新たなローン提供を提案できる。また、事故率や事故時の運行データなどは保険ビジネスへの応用がきく。更に、オドメーターや使用頻度、運行状況、事故状況などのデータを活用すれば中古車査定への応用も可能かもしれない。IoTデバイスの利用料からではなく、データを活用したビジネスプラットフォームへ広げられるのがIoTビジネスの本質だ。

シフトするアセアンの自動車ビジネス。

システムのデータだけに依存しすぎるというのは、なかなか難しい問題かもしれない。フィリピンで言えば属人間的な部分も多い。誠実に対応し、無駄な時間を使ってはいるが毎回わざわざ足を運び、時間をかけて作り上げた信頼ベースも大切だ。

しかし、確実にUBERやGrab Taxiなども生活の1部としてフィリピンで根付きつつある。特にGrab Taxiはフィリピンで一番最初に交通ネットワーク企業としての認証を得た会社として認知されており、空港などの主要な場所でのGrab Taxi Station(Grab Taxiの乗車場所)を拡大している。アセアンでは属人的だという課題が残っていても、導入しながら改善をしていくという土壌がある。

一方で、日本でこのようなビジネスモデルが発展しないのは規制という課題があるからだ。課題を解決せず効率的な活用を行おうとはしていない。

非常に動きがはやいのがアセアンの市場の特徴だ。フィリピンを含めたアセアンの自動車市場も、徐々にフローからストックへ、そして新車を販売して収益を得る形からアフタービジネスでの収益へとシフトするだろう。更にはアセアン自動車ビジネスが、自動車関連会社からネット系会社主導へと本格的にシフトしてくる日も近いかもしれない。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  2. 最後のフォードエンジン搭載ケータハム、「セブン 310アンコール」発表
  3. 高機能ヘルメットスタンド、梅雨・湿気から解放する乾燥ファン搭載でMakuake登場
  4. 船上で水素を製造できる「エナジー・オブザーバー」が9年間の航海へ
  5. 「三菱っぽくないけどカッコいい」ルノーの兄弟車となる『エクリプス クロス』次期型デザインに反響
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 米国EV市場の課題と消費者意識、充電インフラが最大の懸念…J.D.パワー調査
  2. 低速の自動運転遠隔サポートシステム、日本主導で国際規格が世界初制定
  3. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  4. BYD、認定中古車にも「10年30万km」バッテリーSoH保証適用
  5. 「あれはなんだ?」BYDが“軽EV”を作る気になった会長の一言
ランキングをもっと見る