【三菱 パジェロ 500km試乗】デビューから11年、期待に応え続けるには「三菱らしさ」を…井元康一郎

試乗記 国産車
三菱 パジェロ ロング スーパーエクシード
三菱 パジェロ ロング スーパーエクシード 全 22 枚 拡大写真

三菱自動車のヘビーデューティーSUV『パジェロ』で500kmほどツーリングする機会があったのでリポートする。

試乗車は3.2リットル直4ターボディーゼルを搭載するトップグレードの「ロング スーパーエクシード」で、自動ハイビーム、レザーインテリア、ロックフォード・フォスゲート社製のハイパワーオーディオなど豊富な装備を持つ。ただし自動ブレーキや自動追従クルーズコントロールなど先進安全システムが一切装備されない点は2006年というデビュー年次の古さを感じさせられるところ。

ドライブルートは東京・田町の三菱自動車本社を出発し、伊東温泉、沼津を経由して富士市泊。翌日、伊豆に戻って西伊豆スカイラインなどをドライブした後、御殿場経由で東京に帰着するというもので、総走行距離496.9km。路面コンディションはドライ7、ヘビーウェット3。道路は高速および自動車専用道路2、郊外路3、市街地3、山岳路2。全区間1名乗車、エアコンAUTO。

重量級SUVならではの楽しさ

まずは総合的なインプレッションから。発売後10年以上が経過するパジェロだが、2.3トン超という重量級SUVを走らせるプレジャーは依然として健在だった。高速道路やバイパスのクルーズは安定性が高く、とても良いものだった。スタッドレスタイヤが装着されていたためハンドリングでは最初からハンディを負っている格好だったが、それでも4輪駆動にすれば回頭性は良好で、山岳路においても望外に高いアジリティを示した。燃費は重量を考えると十分に良好であった。

欠点はポスト新長期規制に対応しているものの基本設計はかなり古いディーゼルエンジンの騒音・振動が盛大なこと。先進装備を欠いていること。リアホイールハウスまわりの遮音対策が甘く、雨天時にうるさくなることなど。また、サスペンションセッティングが初期型から変更されたのか、以前はエクセレントと呼べる水準にあった乗り心地のスムーズネスはやや後退した感があった。

では、実際のドライブフィールについて。パジェロに乗り込んでまず楽しく感じられるのは眺望の良さ。アイポイントの高さは乗用車登録されるクルマとしては最も高い部類に属するうえ、窓面積も広いため、とくにシートの座面を上げ気味にしたときのフロント~サイドのビューはパノラミックで、ちょっとしたハイデッカー車気分である。この眺望の良さはクロスカントリータイプのヘビーデューティーSUVとして作られたパジェロをオンロードで走らせたときの楽しさの原動力のひとつになっていると感じられた。

眺望とあわせて大型車を運転しているような気分にさせてくれるのは、おっとりとした走行感だった。オフロード、それもグラベルやダートのレベルを超えた山岳トレイルなども視野に入れたモデルのパジェロにとって、老朽化してアンジュレーション(うねり)やワダチだらけになった高速道路の路面の不整をサスペンションで吸収することは朝飯前のことで、終始安定感抜群のクルーズをのんびりと楽しむことができた。

だた、路面のざらつきや段差通過などのハーシュネスカットについては、6年あまり前に同じディーゼルパジェロでドライブをした時に比べると平凡になった感があった。以前は高級車かと思えるくらいに当たりが柔らかだったのだが、今回ドライブした試乗車はそれに比べてゴロつき、ガタつきが強くなっており、質感を損ねていた。タイヤがスタッドレスだったことによる可能性もあるが、体感的にはそれだけの差とは思えなかった。どういう変更があったのか情報を得ることはできなかったが、もしサスペンションやブッシュのチューニングを、オンロードを意識したものに変更したのであれば、以前のようなポリシーに戻したほうがいい。

興味深かったのは山岳路でのアジリティ(敏捷性)が思いのほか高かったことだ。早春という季節柄、試乗車にはスタッドレスタイヤが装着されていたため、ハンドリングについては期待していなかったのだが、グリップ力が低く、手応えも薄かったぶん、図らずも低速で挙動を体感することができた。

当初、後輪駆動で走ったときはアンダーステアが強く、夏タイヤを履いた大型ミニバンと大して変わらない程度のドライバビリティでしかなかった。試乗車の軸重は前1180kg、後1140kgで、重量配分は51:49とほぼイーブンで、素質は悪くないのだが、いかんせんスタッドレスではどうしようもないと思いつつ、試しに副変速機のレバーをデフロックなしのAWD「4H」に入れてみたところ、これが驚くほど特性が変わった。コーナーに進入してからスロットルを開けると、鼻先が面白いようにイン側に引っ張られていくのだ。

もちろんタイヤの限界が変わるわけではないのだが、安定性や操縦性は後輪駆動「2H」の比ではなかった。ちなみに登り坂だけでなく、下り坂でエンジンブレーキがかかるときも4Hのほうがはるかに好フィール。試乗後にスペックを見てみたところ、パジェロのAWDシステムはクルマの状態によって前後の駆動力配分が変わるアクティブトルクスプリット式とのこと。山岳路を走るときはオンロードでも常時4Hに入れておくのが得策だと思われた。山岳路でもう1点良かったと感じられたのは、4ポッド対向ピストンキャリパーを使用したブレーキシステムの確かさで、急坂の下り区間でも対フェード性、タッチとも不安はなかった。

燃費は上々。だが基本設計の古さは隠せない

パワートレインは最高出力190psの3.2リットル直4ターボディーゼルと5速ATの組み合わせだが、動力性能的には不満はまったくなかった。重量が2.3トン超もあるため絶対的な加速性能は大したことはないのだが、パジェロは前述のようにおっとりとした走行フィールを身上としているため、自然と大型トラックのようなのんびりした走りをしたくなる。エンジンパワーはその走りへの期待値に対しては常に優越していた。また、西伊豆の戸田港から西伊豆スカイラインに向かう道のような急勾配でも余裕たっぷりで、2000rpm台前半も回っていればぐんぐん高度を稼ぐことができた。

難点はエンジンの基本設計が古さが災いしてか、騒音および振動が盛大に出ること。とくにアイドリング時の振動は暖気が終了しても過大もいいとこであった。昔はディーゼルといえばどれもこんな感じだったのだが、今日の市販乗用車のディーゼルが長足の進歩を遂げる中、1機種だけ取り残されたような感があった。アイドリングストップがついていれば停まっている間は静かになるのだが、それもない。極低回転で走る市街地でも騒音、振動レベルは大きめ。ただし、郊外路や高速道路など、エンジンの回転数が上がるにつれて気にならなくなっていくので、クロスカントリーSUVという商品特性とあいまって、長距離メインの顧客にとってはそれほど大きなネガにはならないだろう。

もう一点、5速ATも古さを感じさせられるポイントだった。段数が少ないのはとくに気にならなかったが、走行中ほとんどロックアップせず、常時トルクコンバーターが滑っているような印象で、ダイレクト感は期待できなかった。ただし、古いながらも変速プログラム自体はドライバーの“こう走りたい”という気持ちを結構よく汲み取ってくれるし、マニュアルシフト操作のレスポンスも良いなど、仕上げへのこだわりを感じさせる部分もあった。

燃費は望外に良かった。燃費計測区間は469.1kmで給油量は合計39.7リットル。すり切り満タン法による実燃費は11.8km/リットル。平均燃費計値は11.7km/リットルと、若干の過小表示であった。燃費計がほぼ正確な数値であるとして、東京・田町から神奈川の江ノ島までの市街路は渋滞が頻発し、平均車速は21.9km/hとかなり低めだった。アイドリングストップなしのパジェロにとっては辛いコンディションだと思われたのだが、その区間を9.2km/リットルで走り切れたのは大きかった。

その他の道につては、まずアップダウンの少ない高速道路やバイパスでは速度域にもよるが、おおむね13~14km/リットル台。ドライブ中、1時間半ほどエコランにチャレンジしたときは15km/リットルに乗せることができた。燃費が落ちるのは勾配のきつい山岳路。戸田の海岸線から西伊豆スカイラインは標高差が900mほどもあるが、2.3トンの物体にそれだけの位置エネルギーを与えるには、どうしても大量の燃料を消費せざるを得ない。下りを燃料消費ほぼゼロで走っても、燃費のリカバーは限定的だった。前述のトータル燃費11.8km/リットルは、それらのコンディションをすべて含んでの数値である。

ホイールハウスまわりの消音は要改善か

室内空間については、カーナビやプレミアムオーディオなどが完備されているため、基本的に大きな不満はなかった。ただ、レザーシートの表皮はやや滑りやすく、クロスカントリータイプゆえに上半身のホールド性が弱めのシート形状のネガティブ面が少々強めに出た。クロスシートならサイドサポートの張り出しが小さくとも、衣服との摩擦でもっとホールド性は良かったであろう。

室内の静粛性は、パワートレインからの騒音・振動が薄れる中速以上であれば悪くはない。一見、空力的には見えないが、高速道路のスピードレンジまで風切り音が小さいのは美点と言えそうだった。弱点は、悪天候下ではこの静粛性が少なからず損なわれること。御殿場からの帰路に本降りの雨に見舞われたが、水のたまったワダチを通過するときなど、リアホイールハウス付近から水跳ねの音がわりと盛大に室内に侵入してきた。原因がわかるまでは窓が開いているのかと慌てたくらいのレベルである。これはホイールハウスまわりの消音塗装を厚くするといった対策で直ると思われるので、改善していただきたいところだ。

ロックフォード・フォスゲート社製のプレミアムサウンドシステムは、音質の高精細さについては見るべきものはないが、ことパワーについてはものすごいものがあった。ロックやハウスなど低音域の音圧が大きいソースをフルボリュームでかけるとシートバックがスーパーウーファーからの重低音でボディソニックのごとく振動するが、その状態でも音割れはまったくなかった。もちろんそんな音量でドライブをすれば危険であるし、チンピラと間違われるのは必定なので短時間試すにとどめたが、ハイパワーオーディオを求める顧客の満足度はそれなりに高そうだと思われた。

まとめ

パジェロはファミリー向けワゴンとして使うにはサイズや重量が過大で、けっして一般的なモデルではない。が、クロスカントリータイプのモデルが好きだというカスタマーにとっては、デビュー後11年が経過した今も魅力的に感じられるであろう商品特性を維持していた。ただし、今どき衝突軽減ブレーキもついていないというのはライバルに対してかなりのビハインドになるので、ここは充実させてほしいところ。

競合モデルとしてはクルマの性格、価格帯の面でトヨタ自動車の『ランドクルーザープラド』くらいであろう。登場してからそれほど年月が経っていないプラドと比べると高価格帯のクルマらしい演出や静粛性の点では大きく劣る。そのパジェロを選ぶ最大の動機付けになりそうなのは、三菱らしいクロスカントリーモデルの味付け。パジェロは今後もフルモデルチェンジの予定は当面ないとのことだが、三菱自動車はそういう顧客の期待に応える商品改良を粘り強く続けていくべきだろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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