【ドライブコース探訪】震災で遠のいた客足…絶景ドライブの王道「阿蘇山」の今

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阿蘇山麓を走る。ワインディング区間も直線区間もチョー気持ちいい。
阿蘇山麓を走る。ワインディング区間も直線区間もチョー気持ちいい。 全 24 枚 拡大写真

昨年4月14日、16日に二度、震度7の揺れが襲った熊本地震で、阿蘇山周辺の道路は大打撃を受けた。昨年4月30日、菊池から外輪山を越えてカルデラ盆地に入ったときは、山に登る道路はすべて寸断され、一部を除いてほとんど通行できない状況だった。それから1年近くが経った3月末、阿蘇山を再訪してみた。

阿蘇山は熊本市からそれほど離れておらず、ちょっとドライブすれば簡単にアクセスできる。外輪山と主峰の両方に見晴らしの良い高原道路が敷かれ、その大半は無料だ。外輪山の尾根を走る通称「ミルクロード」はツーリングファンの人気ランキング上位の名ルートだが、活火山の険しい岩稜を間近に見ながら走る阿蘇主峰方面の「阿蘇パノラマライン」もまた、絶景ドライブの王道と呼ぶにふさわしい道だ。

今回のドライブはちょうど、一面草原という景観が保たれる原動力となってきた大規模な野焼きを終えたタイミング。野焼きがなされなかった場所もおおむね採草が終わっており、眺望のひらけっぷりは完璧。焼け跡があちこちに見えるのは春ならではの光景で、初夏には緑の草原に装いを変える。標高約1100mの草千里を越え、火口に向かう阿蘇山ロープウェイの乗り場まで足を伸ばした。

草千里の体験乗馬はお休みだったものの、土産物屋は元気に営業。ただし、人影は驚くほどまばら。季節外れの平日だからかと思ったが、土産物屋の店主に話を聞いたところ、直前の連休もボロボロ。2014年に噴火が発生したのを機に客足ががっくりと落ち、昨年の熊本地震でトドメを刺される形となったそうだ。

日本はこのところ、東北地方太平洋沖地震をはじめ間断なく天災に見舞われていることもあってか、国民全体が災害に対して相当センシティブになっている。あつものに懲りてなますを吹く国民性だからということもあろうが、いくら何でも過剰回避ではないかと思うことがままある。

阿蘇と並ぶ九州の活火山に、筆者の郷里鹿児島の桜島がある。2015年、その桜島の噴火警戒レベルが一時、4に引き上げられたことがあった。このときもテレビがこぞって桜島の噴火を報じていたのだが、大爆発がないのでレポーターがクルマの上を指でなぞり「ご覧ください、灰が積もっています」などと言い、火山の専門家は「普段の10倍の爆発もあり得る」などと深刻な顔で解説していた。

鹿児島県民の感覚としては「噴火すればそりゃ灰くらい降るよ、いつものことだ」「普段の10倍?空間だから平面換算での影響到達範囲を三乗根とすると、実生活にはほとんど影響ないな」くらいのものである。が、そのときも鹿児島の観光は大打撃を受け、なかでも桜島の宿泊施設は予約キャンセル9割超の憂き目に遭ったものだった。

阿蘇山の観光の惨状もそれと軌を一にしたもののように感じられた。危険への無謀な接近は避けるべきことだが、何でもかんでも危ないと決め付けて近寄らないのは、火の粉の下にむざむざ入るのと同じくらい非科学的な姿勢である。タイミング悪く阿蘇山が噴火すれば少々灰をかぶるような目に遭う可能性はゼロではないが、そのくらいのリスクならもっと多くの人が自己責任で訪れてもよかろうにと思った。

さて、その阿蘇山の草千里のお土産屋さんに立ち寄ったときには、ちょうど名物いきなり団子の蒸したてが出来上がっていたので、それを食べてみた。いきなり団子とはサツマイモと餡を薄皮で包んだお菓子なのだが、蒸したては別格にうまい。ついでに阿蘇高原の牛乳で作ったプレミアムソフトクリームを食してみたが、これもまた濃厚な舌触り。筆者は酪農のさかんなところではソフトクリームを食べてみることにしているのだが、相当上位に位置づけていい味であった。

火口へ続く有料の阿蘇山公園道路はあいにく閉鎖中であったが、現在運休中の阿蘇ロープウェイ乗り場のところまでは到達できた。もともと噴火警戒レベル2以上では運休するロープウェイだが、地震の影響かワイヤーがガイドから外れて垂れ下がったまま放置されるなどかなりの荒れようで、復旧には相当の時間がかかりそうであった。隣県出身者としては、一日も早い復活を祈らずにはいられなかった。

草千里到達までは雨模様の天気であったが、ロープウェイ乗り場に達した頃には次第に天候が回復し、晴れ間が出てきた。陽光に照らされ始めた美しい景色を見ながら山を下り、阿蘇カルデラを挟んで反対側の外輪山稜線から眺めた阿蘇は、1年前の地震が嘘のように平和であった。地震からの復興はまだ端緒についたばかりだが、観光地としての“再稼動”はすでに始まっているのだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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