【ボルボ V90 試乗】ドイツ御三家に対し存在感を示せるか…井元康一郎

試乗記 輸入車
ボルボ V90
ボルボ V90 全 12 枚 拡大写真

ボルボが2月22日に発売した新型ステーションワゴン『V90』の上位グレード「T6 インスクリプション」のエアサスモデルを100kmほどテストドライブする機会があったのでファーストインプレッションをお届けする。

V90は、欧州市場ではプレミアムEセグメントと呼ばれるクラスに分類されるモデル。メルセデスベンツ『Eクラス』、BMW『5シリーズ』、アウディ『A6』のドイツ御三家をはじめ、強力なプレーヤーが名を連ねる激戦区である。ボルボは過去、このクラスで大きな成功を収めた実績がないが、クロスオーバーSUVのカテゴリーでは『XC90』という高級SUVがヒットするなど、良い兆候もある。V90はセダンの『SUV』、オフロード向けの『V90クロスカントリー』ともども、高級車メーカーにとって本丸である乗用車のプレミアムEセグメントでボルボが存在感を示せるかどうかが占われるモデルである。

今回のテストドライブでは運転支援システム「パイロット・アシスト」を試したりしているうちに9割がた高速道路を走ることになってしまったため、一般道や山岳路のフィールについては機を改めるとして、その高速クルーズのフィールはラグジュアリーなステーションワゴンとして十分以上に満足の行くものだった。

プレミアムセグメント、とくにDセグメント(BMW3シリーズやベンツCクラスなど)以上のクラスにおいては良いクルマであることはマストの条件で、出来のよろしくないクルマはそもそも売れない。ボーダーラインを超えた先にあるのは良いか悪いかではなく、メーカーが何を大事に考えたかというアイデンティティ、哲学である。

V90のアイデンティティとして色濃く感じられたのは、リラクゼーションである。車内はとても静かで、揺れも非常に少なかった。路面の滑らかな新東名はもちろん、舗装が荒れ気味な旧東名においても、まるで水上を滑走するような抜群のクルーズ感を示した。直進性も良好で、文字通りノーストレスなドライブであった。

ただ、段差が大き目の道路のジョイント部を通過したときには、わずかにブルつきが残るフィールがあった。これを取り切れれば文句なしなのにと思ったのだが、ドライブを終えてタイヤを見てみたら、ピレリ「P ZERO」の255/35R20。性能や安全マージンとのバランスを考えれば上出来ともいえる。なお、V90には複合材バネモデルもあり、機会があればそちらのフィールも試してみたいところだ。

静粛性の高さは、防音室に入っているようなフィールではなく、とても抜けの良いナチュラルな性質のもの。ドライブを開始した当初は際立って静かというふうには意識されなかったのだが、オーディオをかけてみると、ごく小さい音量でも音楽のディテールまできっちり耳に届いてきて、室内が静寂に包まれていることに気付かされるという感じであった。

試乗車のオーディオは総出力1400WのB&W製だが、音質は繊細で、臨場感も良く、車内空間に合わせたチューニングはプレミアムサウンドシステムの中でも相当上位にランクすることができそうだった。その音に満たされた車内はとてもコージーな雰囲気で、このまま筆者の故郷鹿児島まで走ってみたいような気にさせられた。

動力性能はスーパーチャージャーとターボの二段過給による2リットルエンジンの出力が320psもあるため、日本の道路では文句のつけようがない。高速道路の流入路における全開加速、パーシャルスロットルでの追い越しなど、すべてのシーンでプレミアムEセグメントらしい走りを味わうことができる。ただし、全開加速時のエンジンフィールは4気筒の域を出ないもので、6発以上のエンジンのようなみっちり感はない。

燃費はこのクラスとしては十分以上に良く、追い越し車線の速い流れに乗ったり、トラックの流れから先行車を追い越してまたトラックの流れに回帰したりと、いろいろ試しながら走った結果、燃費計値はトータルで13km/リットル。平和にクルーズすれば15km/リットルくらいの数値は十分に得られそうな感触だった。100km/hクルーズ時のエンジン回転数は8速1600rpm、7速2000rpmと、旧モデルに相当する『V70』より若干ローギアードになった。

ファーストインプレッションとしてお届けできる情報はこの程度だが、少なくとも高速クルーズ主体のカスタマーにとっては、非ジャーマンの高級車として十分選択肢に入る仕上がりであるように思えた。プレミアムEセグメントのカスタマーはブランドロイヤリティがきわめて高いのが特徴で、ボルボがそこに割って入るのは容易なことではない。ボルボが今後、どういう市場戦略を展開するか興味深い。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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