【インタビュー】クワトロから社名変更、アウディのスポーツブランド訴求のため…ヴィンケルマンマネージングディレクター

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アウディスポーツマネージングディレクターのステファン・ヴィンケルマン氏
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2016年3月にアウディスポーツのマネージングディレクターに就任した、ステファン・ヴィンケルマン氏が来日した。氏は2005年からランボルギーニの最高経営責任者(CEO)として手腕を振るった人物だ。その氏に、現在から未来へのアウディスポーツの方向性について話を聞いた。

■ランボルギーニからアウディスポーツへ

----:11年の長きにわたりランボルギーニのCEOとして同社の発展に寄与。イタリア政府から2010年にグランドオフィサー、2014年には同国における最高位のひとつであるグランドクロスの勲章を授与されるなど、活躍されてきました。そして、2016年3月にアウディスポーツGmbH(当時はまだクワトロGmbH)のマネージングディレクターに就任されたのですが、まずはそのときのお気持ちをお聞かせください。

ヴィンケルマン氏(以下敬称略):心から愛するランボルギーニを離れなければいけないのはとても悲しかった。更に私の同僚たちのことを、同僚以上の友達のように思っていましたし、いままでとても長い時間をかけて作り上げてきた、本当に協力し合えるチームと別れなければいけないということはとても悲しいことでした。

しかし、よく考えてみると、人生にはこのような変化は必要ですし、新しいチャレンジをするのは悪くないかと思い、アウディスポーツに移りました。

----:実際に移ってみていかがですか。

ヴィンケルマン:皆情熱や熱意を持った素晴らしいメンバーが揃っており、ブランドも素晴らしく、場所も良く、本当に良い商品を作っているということがわかりましたので、嬉しくなりました。やはりこういう変化も人生には必要だと思ったものです。

■クワトロ? アウディスポーツ?

----:ヴィンケルマンさんが2016年3月に当時のクワトロGmbHに就任し、同年12月に社名がアウディスポーツGmbHに変わりました。このように変化が起きた理由を教えてください。

ヴィンケルマン:社名変更は絶対にやらなければいけないことでした。“クワトロ”はあくまでも選択出来るものであって、必ずしも全てのモデルのUSP(ユニークセールスポイント=独自の個性)ではありません。それに対して“アウディスポーツ”は、全てのモデルを覆い被せることが出来る傘のようなもの。その下で全てのスポーティなクルマをまとめ上げるという位置づけになります。

そして、我々に課せられていることは、なるべく早く認知度を上げることです。というのもクワトロGmbH時代は、商品をプロモーションするだけでクワトロというブランド自体のプロモーションはあまり行って来ませんでした。しかし、本来ブランドはひとつのモデル以上のものです。そこで、このブランドの認知度を上げることこそが、いまとても重要なのです。もちろん新しい商品ラインナップの開発も行いますが、それ以上にアウディスポーツブランド自体を盛り上げることが大事なのです。

■アウディスポーツと日本市場

----:アウディスポーツが開発してきた『R8』や「RS」モデルは、積極的に日本に導入されてきました。そこで、アウディスポーツにとって日本市場はどのような可能性を秘めているとお考えですか。

ヴィンケルマン:ランボルギーニの経験から、日本のお客様はとてもスポーティな志向が強く、スポーティなブランドが好き。その中のトップブランドが好きなお客様が多いと感じています。実際にランボルギーニは日本でとても好調でしょう。

確かにランボルギーニとアウディスポーツは全く違うブランドです。しかし、一番の違いは、アウディスポーツはパフォーマンス性が高く、デザインもすごく恰好良いにも関わらず、日常使いが出来るとことです。具体的には、乗っていて快適で、安全水準も品質も高い、非常にバランスが取れているブランドなのです。A地点からB地点へ移動手段として、家族と一緒に乗ってもらえることこそがランボルギーニとの一番の違いです。

アウディスポーツの特徴として、商品とアウディスポーツというブランドがマッチしているということがあります。今年から来年以降新型を多数投入していきますので、それによって認知度も台数もアップ出来るのではないかと期待しています。こういった新型モデルは日本のお客様に必ず気に入ってもらえると信じています。

----:アウディスポーツにとって日本市場は世界で何番目のポジションでしょう。また日本市場の特徴についても教えてください。

ヴィンケルマン:日本は2016年、7位の実績を上げました。ビジネスですから、ディーラーを出店すべきかどうかなど、ビジネスケースを計算するうえではマーケットサイズは重要です。しかし、我々にとって大事なのは市場規模ではなく、一人一人のお客様なのです。そしてそのお客様は、アメリカであろうとイギリスであろうと、日本であろうと世界中どのお客様も同じような行動をして、同じような情熱を持っているのでマーケットによる違いはありません。なので我々はあえて日本仕様や北米仕様、オーストラリア仕様など、国ごとに仕様を変えることはしていないのです。本国で作るオリジナルのクルマがまさにお客様の欲しいと思ってくれているものであり、我々が提供しているものなのです。

■これからのアウディスポーツ

----:ここからは少し未来のことについてお伺いします。アウディスポーツは今後どのように成長していくのでしょうか。

ヴィンケルマン:我々は大きく3つの柱を考えています。いまスポーツカーセグメントは、2つに分かれています。ひとつがエクストリームなスーパースポーツカーで、すごくスポーティでハンドリングも良いが、時々しか乗らない、いわば趣味のようなクルマ。もう一方はパフォーマンスカーで、性能も優れ、デザインも恰好良いが、日常使いも出来る、これらが両立出来るクルマ、バランスの良いクルマです。アウディスポーツはこちらに属し、ブランドとしての成功のカギを握っていると考えています。

次の柱は台数を求めるか特別感、エクスクルーシビティを求めるかです。アウディスポーツとして台数を伸ばすために、アウディの全てのモデルにRSを設定することはあまり考えていません。それよりもむしろ特別感を演出するために、プレステージ性の演出や、どのセグメントにRSモデルを出すかをとても大事にします。

そして、最後の柱はどういうボディタイプを出すか。今後、我々はSUV方向に徐々に参入していきます。やはりビジネスですから、ボリュームを上げるために、大きなセグメントにRSを出すということと同時に、全世界で万遍なく市場があるセグメントに参入する必要があるのです。現在ヨーロッパではアウディスポーツは強いのですが、ヨーロッパ以外ではそうでもない。そこで、北米やアジアなどでも伸ばすために、これらの国でも受け入れられるセグメントに参入していくことが、大事になってくるでしょう。

----:なるほど。しかし、他ブランドではトップモデルのサルーンにもアウディスポーツでいうRSモデルが存在します。そこで、S8に対してRS8を市場に投入する予定はないのでしょうか。

ヴィンケルマン:次期S8に関しては、私が就任する前に決まっており、その次のS8がどうなるかはまだわかりません。しかし、いずれにしても限られた予算をどこに使うかという決断をしなければいけないのです。例えばアウディスポーツで作るモデルを5つ選ばなければいけないとなったとき、その選択にあたっての基準はまずプレステージ性がきちんと確保出来るかどうか。そしてボディタイプです。そういった点で考えると、まずセダンというボディは、SやRSでお金を使う所ではないだろうと個人的には思っています。もちろんまだ最終的には決まっていませんが。なので、今後どこにお金をかければ一番存在感を発揮出来るのかという観点から、これから検討して決めることになるでしょう。

----:近年自動運転が取りざたされており、アウディもまた、それに向けて様々な取り組みを行っています。その点についてアウディスポーツとしてどう考えていますか。

ヴィンケルマン:自動運転を検討する最後のブランドがアウディスポーツだと思います(笑)。もちろん運転支援の技術は必要ですし、我々アウディスポーツのモデルは、高い安全性も備え、日常使いが出来る非常にバランスの取れた商品ですから、例えば渋滞中の支援機能などは有効な機能です。しかし、アウディスポーツを選ぶお客様は乗って楽しみたいという思いで購入していますので、走りの楽しみの部分は絶対に残さなければいけません。従って当面は自動運転と我々は距離があるでしょうね。

----:アウディスポーツがライバル視しているメーカーはどこでしょう。そして、アウディスポーツが絶対に負けない部分は何かをお知らせください。

ヴィンケルマン:いわゆるドイツのプレミアムブランドはアウディ以外に2つあります。そこがアウディスポーツにとっての競合になりますが、あくまでも我々は、右を向いたり左を向いたりすることはせず、我々の明確な戦略があるので、それに従うのみです。

そして、競合に対する強みは、お客様がどう考えるかによることが大きのですが、実際に私が乗ってみたり、作ったりする立場からいえるのは、パフォーマンス、デザイン、使い勝手という点で最も完璧なバランスが取れているのではないかということです。他社は、ひとつの方向に極端に尖っている部分がありますが、我々は完璧なバランスが取れていると思っています。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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