【マツダ『CX-8』深読み】価格・デザイン・走り・パッケージ、”箱じゃない3列シート”に賭けるマツダの勝算とは

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マツダのクロスオーバーSUVモデル群と国内の輸入車ライバルのディメンション比較。CX-4とCX-7は中国で、CX-9は北米で発売中。
マツダのクロスオーバーSUVモデル群と国内の輸入車ライバルのディメンション比較。CX-4とCX-7は中国で、CX-9は北米で発売中。 全 16 枚 拡大写真

マツダは本日4月28日午前、決算発表に先立って、2017年内に新型車『CX-8』を投入するという計画を公表した。

マツダは最低地上高を上げ、オフロードや雪道の走破性を高めたSUVに「CX」という記号をつけている。CX-8もSUVラインナップの一員だが、『CX-3』『CX-5』など日本で販売されている他のSUVとの決定的な違いはシート配列。CX-8は3列シートで、乗車定員は6名仕様と7名仕様が存在する。


価格戦略とパッケージングを読み解く

『CX-5』をストレッチして3列シートを可能にした『CX-6』というモデルが存在するという噂もあったが、マツダの3列シートSUVは『CX-8』という上位モデルになることが判明したわけだ。価格帯はCX-5 SKYACTIV-Dが270万円台スタートであるのに対して、320~330万円付近のスタート価格が予想される。

同社は北米市場向けに3列シート7人乗りモデル『CX-9』(全長5065×全幅1969×全高1717mm)を作っているが、全幅が2mに迫るなど、日本で乗るには少し大きい。CX-8は番号がそれより若いことからもわかるように、よりコンパクトに作られている。公表されたボディサイズは全長4900×全幅1840×全高1730mmで、横幅はCX-5(全長4545×全幅1840×全高1690mm)と同じ。車高はCX-9よりも高い。このことと公開された内装写真から想像するに、日本向けの3列シートとして、2列目、3列目の居住性に配慮されたパッケージングだということがわかる。東京モーターショー前後の発表発売ということを考えると日本をターゲットにした、日本のミニバン文化に対するマツダのアンサーという見方もできる。

シャシー、エンジン、変速機などはすべて、マツダの新世代環境技術群「スカイアクティブテクノロジー」。パワートレインは『CX-5』と共通性が深く、2.2リットルターボディーゼル「SKYACTIV-D 2.2」と6速自動変速機「SKYACTIV-DRIVE」の組み合わせ。CX-9より小型とはいえ、3列シートの大型SUVともなると、車両重量はそれなりに大きくなる。低負荷から高負荷まで熱効率の良い範囲が広く、実用燃費を稼ぎやすいディーゼルエンジン1本に絞ることで、経済性を担保するという意図がうかがえる。
年内、おそらく東京モーターショー直前発売予定のCX-8インテリア。大人が6人のグランドツールングも可能な2-2-2シート。

ブランド戦略と市場ニーズの齟齬の解消

CX-8は、マツダの戦略をみるうえで大変興味深いモデルだ。小飼雅道社長は現相談役の山内孝前社長の路線を継承し、「数は追わない。世界の2%のお客様に熱烈に愛されるブランドを目指す」という姿勢を、2013年の社長就任時から貫いてきた。

今回の発表に際しても小飼社長は「CX-8はマツダらしい走りやデザイン・質感を備えながら、3列目まで大人がしっかり座れるパッケージングを実現した新型クロスオーバーSUV」「多人数乗車とともに上質さをお求めになるお客様に向けたマツダの新しい提案」というコメントを発している。

2011年に発売したSUV、初代『CX-5』にスカイアクティブテクノロジーと「魂動デザイン」と名づけた躍動感のあるデザイン文法を適用して以降、すべてのモデルを、デザイン性と走りの良さを優先させる、その考え方に基づいたものに仕立ててきた。

が、このコンセプトは齟齬も生んだ。日本市場で売れ筋となっている多人数乗車モデルの欠落である。マツダの現ラインナップでその役割を担っているのはロールーフの3列ミニバン『プレマシー』とハイルーフ型の『ビアンテ』の2モデルだが、どちらもスカイアクティブテクノロジーや魂動デザインが適用される前の旧世代モデルである。


魂動デザインのための妙手なのか

ミニバンは運転席の位置がかなり前寄りにならざるを得ないため、走りの楽しさを持たせることは難しい。また、スライドドアを装備させる場合、ルーフ部を直線的に作らなければならないため、デザインに特徴を持たせるのにも限界がある。世にあるミニバンがどれもこれも似たり寄ったりの形をしているのを見れば、制約の強さがわかるというものだ。

多人数乗車モデルのニーズは確実にある。しかし、ミニバンを出してもデザイン面でマツダらしい特徴が出せなければ埋没してしまう。また、走りの楽しさも十分でなければ、これまた新世代のマツダのクルマづくりの哲学とは何だったのかということになってしまう。

ミニバンではなくSUVで多人数乗車モデルを出すというのは、市場ニーズとブランド構築の狭間に立たされたマツダが打った妙手と言える。まず、SUVはミニバンに比べるとデザインの自由度がはるかに大きく、独自性を出しやすい。これは既存のCX-3やCX-5が証明している。それだけでなく、ドライバーの座る位置がホイールベースのセンターに近く、操る楽しさという点でもはるかに優れている。重心もミニバンに比べるとずっと低く、絶対性能の面でも有利だ。

SUVがミニバンに対して不利なのはスペース。ボンネットが長いぶん、室内長を確保しづらいのだ。CX-8はボディの長さが4900mmとたっぷり取られていることから、走りを予感させるスポーティなスタイルと、大人7人乗りのパッケージを実現しているはずだ。


マーケットの動きは”勝算あり”と言ってくれるが

国内で主流派となっているミニバンではなくクロスオーバーSUVで多人数乗車のニーズをまかなうという戦略は、マツダにとっては一種の“賭け”のようなものだろう、果たしてその攻めは実るのだろうか。まず、SUVの販売自体は日本においてもこのところ増加傾向が顕著だ。

自動車ディーラーの業界団体である日本自動車販売教会連合会の統計によれば、日本市場におけるSUVの販売台数は2012年には21万2000台であったのに対し、2016年には37万4000台へと大幅に伸びている。ミニバンは1~1.5リットルのサブコンパクトクラスも含めると80万台強だが、それと比べてもすでにマイノリティではなくなりつつあるといえる。

世界市場の伸びはさらに大きい。2016年にアメリカを抜き、SUV販売台数世界一となった中国では、新車販売のうち実に800万台がSUVだった。次いでアメリカが650万台、ロシアを含むEUが350万台レベルである。SUVはドライビングの楽しさ、スペース、デザイン性などを並び立たせやすく、それが人気の高まりの背景にあると考えられる。近年、ガソリンや軽油などの燃料価格の水準が低めに推移していることも追い風となっている。


輸入車同クラスの半額以下でぶつける

CX-8が実際にどのようなデザインやパッケージになるかは明らかにされていないが、マツダの賭けには勝算も結構ありそうだ。かりにフル7シーターSUVに仕立てるとすると、そこにはライバルがほとんどいないのだ。

日本市場にもすでに3列シートのSUVは存在する。比較的価格の安いクラスでは日産『エクストレイル』や三菱『アウトランダー』などが挙げられるが、それらの3列目シートは補助席のような小さいもので、フル7シーターのミニバンの代わりにはならない。その上には三菱『パジェロ』やトヨタ『ランドクルーザープラド』などの3列シートSUVがあるが、それらは本格オフロード車で、これまた3列目はあまり広くない。十分な広さを持つミニバンと同じように使える3列SUVとなると、ボルボ『XC90』(774万~)やメルセデスベンツ『GLS』(107万~)などの高級車がほとんど、CX-8の内装写真からはこれらに迫る質と居住性すら感じることができる。ノンプレミアムで広いSUVというのは、実はニッチ商品という点でもマツダのブランド戦略と矛盾しないのだ。

もっとも、ノンプレミアムといっても、3ナンバーSUVクラスともなると、デザイン、質感、走り、スペースへの顧客の要求は厳しい。その顧客を納得させられる商品に出来るかどうかが、マツダの勝負手の成否を左右することになるだろう。マツダはこれまで、中心価格帯が350万円以上のモデルで大きな成功を収めた経験がほとんどない。まさにチャレンジと言うべきだが、それを成し遂げられれば、2%の顧客に熱烈に支持されるというマツダのブランド戦略の成就に一歩近づくこともできるであろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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