トヨタ プリウスPHV 新型は、プリウス 以上の“特別なクルマ”になったのか…実燃費・電費を検証

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トヨタ プリウスPHV 新型で650kmを走行し、エネルギー効率を検証。写真は神奈川・相模原の三菱自動車ディーラーにて最後の急速充電をおこなっているところ。
トヨタ プリウスPHV 新型で650kmを走行し、エネルギー効率を検証。写真は神奈川・相模原の三菱自動車ディーラーにて最後の急速充電をおこなっているところ。 全 28 枚 拡大写真

トヨタ自動車が今年2月に発表した新型『プリウスPHV』で甲信越~東海地方を650kmほどドライブする機会があった。旧型の失敗の二の轍を踏まぬよう、並々ならぬ力の入れようで作られたことは、そのドライブフィールの良さで確認することができた。今回はプラグインハイブリッドとしてのエネルギー消費や使い勝手について、得られたデータを交えながら考察する。

プリウスPHVで650kmを走破

まずはトータルでのエネルギー消費から。総走行距離は651.1km。このうち充電電力による走行距離は230.7km、ハイブリッド走行距離は420.4km。ガソリン消費量は14.2リットル。電力については正確に計測できないので推計値だが、ドライブ前および途中での充電電力量が32.1kWh、ルーフに装着された太陽電池で発電された電力が0.6kWh、帰着時の残存電力の推計値は0.3kWhで、消費電力量は32.4kWhであった。

このデータをもとに計算すると、ハイブリッド走行時の燃料消費率は29.6km/リットル、EV走行時の電力消費率は7.1km/kWhとなる。実際のドライブ状況に照らし合わせると、充電後のEV走行時に箱根峠や国道52号線など上り区間を走ることが多かったため、ハイブリッド燃費側に有利、EV電費側に不利な数字となっている。

では、ドライブの詳細について見ていこう。靖国神社のすぐ近くの広報車両デポットにてクルマを受け取った。スタッフいわく、満充電状態とのことだったが、インフォメーションディスプレイのEV航続距離残表示はエアコンOFFで65.3km、ONで57.4km。カタログ値の68.2kmよりは少し短いが、後に一度満充電にしてみたところ、やはり65.3kmとなったので、これが100%充電の値らしい。

日産自動車の純電気自動車『リーフ』などは、過去の走行実績によって航続距離残の数字が変わるが、プリウスPHVの場合は直前の電費が良くても悪くても同じ数値。今の運転や道路状況が続けばどれくらい走れるかという目安にはならないが、数値とバッテリー残量が正比例しているため、残量が何kWhあるかが簡単に計算でき、グラフがわりに使えるのは嬉しいところだ。
満充電時のエアコンOFF航続距離は65.3km。バッテリー残量の減少に正比例する形で数値が減っていく。
◆EV航続性能の実力値やいかに

まずは新型プリウスPHVのEV航続性能の実力値やいかに、と、EVレンジ計測を試してみることにした。その日は外気温15度と、暑くも寒くもない春らしい陽気であったため、今回のドライブにおいて最初のEVレンジが終わるまでのこの区間のみエアコンをOFFにして走ってみた。

東京都心を10kmほど走った後、国道254号線経由でまずは埼玉の川越へ向かった。都心から川越街道の途中にかけては、平均車速が20km/hを切るような大混雑。EVはエンジン車に比べて混雑した道路には強いのだが、それでもゴーストップが重なると電費は落ちる。埼玉の和光を過ぎたあたりから道がすきはじめ、そこで電費をリカバー。

バッテリー残量がEV走行可能範囲の下限に達してエンジンがかかったのは、川越を過ぎて坂戸に向かう途中、59.7km走行地点だった。最初の値よりは少し短いが、同じような条件で20kmも走れば上出来だった旧型プリウスPHVとは比較にならないほどEVレンジが延長されていることがわかった。

その後、埼玉県北部で急速充電を試した。日没後、気温が急速に下がって8度に。急速充電器は出力44kWの大出力型で、充電電圧は352V、電流は44A。日産リーフの4割ほどのスピードで充電されている計算になる。充電開始から19分経過時、自動的に充電がストップした。バッテリー保護のため、フル充電に向かう前に車両のほうから充電停止のコマンドを充電器に出すようプログラミングされているようで、これは親切設計と言える。充電電力量は5.1kWh。

トヨタはプリウスPHVの急速充電時間について、20分で8割とうたっているが、この8割とはEV走行時のバッテリーの使用範囲の8割という意味のようで、バッテリー総容量に対しては9割近く充電されるようだった。ちなみに充電終了間際の充電電流は41アンペアと、フルスピードのときとほとんど変わらなかった。満充電に近くなってきたときの充電口率の低下はあまり気にする必要はなく、自動的に充電が終了するのに任せてOKだと思われた。

また停止時は充電器からの電力の一部をエアコンや車載情報機器の作動に回す「マイルームモード」が使える。冷暖房をかけながらテレビを見たり、音楽を聴いたりして時間を潰していれば、20分弱という時間は結構あっという間で、良い小休止になる。

今回のドライブでは長野県で季節外れの大雪&低温に遭遇したため、EVが苦手とする低温下での性能も試すことができた。上田と小諸の間にある道の駅「雷電くるみの里」で15分かけて4kWhぶん充電。ここに置かれていたのは三菱自動車系ディーラーに置かれている出力30kW、通称“中速型”と言われているものだが、プリウスPHVは三菱『アウトランダーPHEV』や『i-MiEV』と同様、バッテリー総容量の関係で充電に大電流を必要としないこともあって、急速型と充電時間は変わらなかった。
マイルームモードの表示。下のバー状のインジケーターがプラスに振れているときは充電が使用電力に優越している状態。
◆純EVにひけをとらない電力消費率

充電直後の航続距離表示がエアコンOFFで43.6km、エアコンONで38.6kmという状態で次の目的地、軽井沢に向かった。充電時の外気温は5度、その後軽井沢に近づくにつれて1度まで低下。軽井沢のほうが標高が約300m高く、登り坂が多かったこともあるが、平坦なところを走っていても気温が低いと航続距離残の減りが早い。エンジンがかかったのは充電後21.9km走行地点で、推定電費は5.5km/kWh。低温が苦手という点は、純EVと同じであった。

山梨では普通充電を試してみた。カーナビで営業中の充電スポットを検索してみたところ、甲府の東どなり、石和の温泉リゾート施設「スパランドホテル内藤」が引っかかった。ひとっ風呂浴びている間に充電が進めばいいくらいの気持ちで行ってみたのだが、入ってみるとこのスパは結構なワンダーランドで、風呂は広いわ、豪華な休憩部屋はあるわ、甲州料理や甲州スイーツはあるわと、心ときめく場所だった。時間を合わせれば、入館料だけで何と旅回りの演芸も観劇可能らしい。ホテルとしても低価格で、ドライブでワイン旅をするにはもってこいという感じだった。

充電時間2時間20分で出るのがもったいないと後ろ髪を引かれながらクルマに戻ってみると、ちょうど充電が終わりそうなタイミングであった。が、そこでマイルームモードを起動してみたところ、ディスプレイ内の電力収支がマイナス、すなわち充電より消費電力が上回る状態になり、バッテリー電力を少し消費してしまったぶんチャージに余計な時間がかかってしまった。充電停止までの所要時間は3時間弱。航続残の数値は2時間25分経過時点ですでに上限に達していたことを考えると、急速充電と異なり、充電停止まで粘る意味はほぼ皆無と言えそうだった。

ドライブの最後に、最終目的地まで約48km地点、神奈川県の相模原で急速充電をしてみた。気温が20度台と十分に高い環境で急速充電をしてみた。ハイブリッド走行時のバッテリー残量によって充電量に違いが出るのではないかと思ったが、80%充電を3回行い、充電器のディスプレイに表示された充電量はいずれも5.1kWhで、ほとんど変わらないようだった。

航続残表示はエアコンONで48.8km、OFFで52.0km。エンジンを一度もかけずに帰着できるかどうか微妙なところである。途中、混雑箇所もあったものの、比較的順調に流れる国道246号線をエアコンONのままひた走る。航続トライと言っても、エコランでノロノロと走って良好な数値を得ても意味がないというのが筆者の考えなので、そこそこシャッキリと走った。

果たして47.9km先の広報車両のデポットに、EV走行のみで帰着することができた。航続残はエアコンONで2.2km、OFFで2.4km。意外にアップダウンのきつい国道246号線の谷底の信号に2、3度余計に引っかかったらアウトだったかもしれないが、それはともかくエアコンONでの市街路走行の電力消費率が10km/kWh強というのは、純EVと比べても実に立派なリザルトであった。
エアコンONでの航続残2.2kmを残して帰着。ドライブ中、晴天だったのは最終日だけで、それも時々曇りだったが、ソーラー発電の数値は最終日だけでかなり上積みされた。
◆トヨタのハイブリッド技術が活きたEV性能

新型プリウスPHVはEV走行時に走行モーターと発電機を結合し、発電機も駆動に使うというデュアルモータードライブというメカニズムを持っている。これはEV走行をよりパワフルにするためのものだが、モーターと発電機を結合するとは言っても、その駆動には熱損失が結構大きなパワー制御ユニットも2台分必要で、モーター1個のEVより本来は不利なはず。そのハンディを跳ね返してこれほど素晴らしい電費性能を出せたのは、ハイブリッドカーを通じて電動化技術を蓄積し、世界トップランナーの技術力を持ちながら、最近は何かにつけて後進的と揶揄されることが多かったトヨタの技術陣の執念のたまもの。まさにドヤ顔気分であろう。

今回、電費には算入しなかったが、充電以外でもEV走行を行った区間が数箇所あった。長い下り坂での回生ブレーキによる発電で充電量が回復した区間である。もっとも標高差があったのは箱根峠からふもとの箱根口までで、その差は800m強。また、区間内の大半が下り勾配である。

下り坂において、航続残表示がバー表示から数値表示に切り替わるのが、航続残2.4kmになった時点。その後、航続残4.8kmで自動的にEVモードに切り替わった。峠で充電残量なしの状態から平地に着くまでに航続距離残表示はエアコンOFFで21.4kmまで回復。65.3kmのフルスケール状態と下限の範囲が6.4kWhと仮定すると、2kWh強回収できたことになる。これもライバルのプラグインハイブリッドや並みのEVが裸足で逃げ出すほど良い数値だ。

実燃費はプリウスより優位か

このように、電気駆動部分の効率が現有技術の限界と言えるくらいに高められたプリウスPHV。その効果はハイブリッド走行時の燃費の良さにも表れた。冒頭で述べたように、29.6km/リットルというハイブリッド燃費は下り坂の比率の高さによるドーピング気味のものだが、それがなかったとしても、20km/リットル台後半は楽勝であろうと思われた。

ドライブ中、ヘビーウェットあり、積雪シャーベット路ありと、走行抵抗の大きな状況が少なくなかった。また、急勾配や急カーブの連続する峠道を延々と良いペースで駆け抜けた区間も多々あり、普段も信号の見越し以外は省燃費をほとんど意識しないで走ったことを考えると、その数値は立派の一言に尽きる。筆者は昨年早春にノーマルプリウスの215/45R17タイヤ装着バージョンでロングツーリングを行った。JC08モード燃費の数値は同一なのだが、実走行における燃費はプリウスPHVのほうが相当優越しているように思われた。

オプションのソーラーパネルは、行程のほとんどが悪天候だったために活躍の場が少なかったが、最終日に半日ほど晴天に恵まれた間に走行距離にして5kmぶんくらいの電力を供給した。トヨタの公式見解は最大で1日あたり6.1kmぶんの電力を起こせるというものだが、それはインターネットの公称接続速度のようなベストエフォートではなく、条件が良ければ実際にそれくらいは十分に行くという数値のようだった。オプション価格が高いためそろばん勘定的には遊びにすぎないが、自己満足度は結構高そうだった。
トヨタ プリウスPHV 新型
◆PHVが特別なのは「EV走行ができる」から

今回のドライブでプリウスPHVのプラグインハイブリッドとしてのエネルギー収支に関して得られた情報はこのくらいのもの。最後に、プラグインハイブリッドの使用環境について触れておこう。

まず、1か月1080円支払えば無料で使える普通充電だが、昨年夏にフォルクスワーゲンのプラグインハイブリッドカー『ゴルフGTE』のロングドライブレポートでも述べたように、本当に使いにくい。まず、充電にかかる2~3時間くらいの長時間滞在をしたいような場所にうまく充電器があるというケースはほとんどない。今回はスパランドホテル内藤のような滞在型施設に充電器があったから良かったが、それとてどこにでもあるというわけではない。

実はトヨタ系ディーラーには旧型プリウスPHVを販売した時に普通充電器を設置したところも結構あるのだが、この充電器は日産ディーラーの急速充電器のように決済さえできれば24時間使えるというわけではない。ディーラーが閉店するまでに充電が終わることを前提としているのか、受付は一様に16時までで、ディーラーの店休日は使えない。これでは充電ネットワークとは言えないだろう。

急速充電施設は全国にあるが、トヨタが提供するユーザーサービスでもこれは有料で、16.2円/分かかる。ガソリン価格が200円/リットルくらいに高騰すれば意味も出てくるだろうが、現状ではガソリンで走ったほうが圧倒的に安い。今回はデータ取りのために何度も充電をしてみたが、実際には外で充電をするケースはまずないであろう。

よく、プラグインハイブリッドカーはガソリンでも走れるのだから外では充電する必要がないという意見を耳にするが、筆者はそれには同意できない。ガソリンで走ることもできるが、プラグインハイブリッドが普通のエコカーに対して特別でいられるのは、EV走行しているときだけなのだ。

実際、今回のドライブでもEV走行時は「フフン」という気分になり、ハイブリッドになると「あーあ終わっちゃったか」という気分になった。かといって、わざわざ高いお金を出して充電をするのは、それまた酔狂というもの。普通のクルマであっても、そこそこの資産を持つユーザーさえ価格の安いスタンドめがけて並ぶことは珍しくない。それがユーザー心理なのだ。遠出のときでもちょっとした休憩ついでに充電ができれば、EVライフ感は格段に高まるはずだ。

これはプリウスPHVだけでなく、プラグインハイブリッドカー全体に通じる課題だが、トヨタはプリウスPHVを特別なクルマから普通のクルマにしたいのであれば、普通充電を24時間使えるようにしたり、EVユーザーと競合しないようトヨタ系ディーラーに急速充電器を置いてトヨタユーザーは定額で使えるようにしたりといった、充電インフラ整備やサービス提供にもう少し力を注ぐべきだろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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