【ボルボ V90 試乗】ボルボ本来の良さは、走り込んで初めて見えてくる…中村孝仁

試乗記 輸入車
ボルボ V90 T6 インスクリプション
ボルボ V90 T6 インスクリプション 全 16 枚 拡大写真

SPA。ボルボが新しく作った大型車専用のアーキテクチャで、スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャの略である。『XC90』に始まって、『S90』、そして今回乗った『V90』に採用されているものである。

このSPA、これまでにXC90で異なるモデルを3度、S90で1度。そしてV90は過去にクロスカントリーで体験しているから、今回が6度目の試乗ということになる。試乗のタイミングはほとんどが試乗会もしくは早々に借り出してのことで、言わば新車に毛が生えた程度しか走っていなかったモデルばかりだ。今回、試乗車として借り出したV90は走行が1万kmを超えたもので、それなりに当たりの付いたモデルと言ってよいと思う。

実はボルボは過去に4度所有したことがあり、いずれの場合も新車時のフリクションが消えて、いわゆる当たりの出た状態になるまで時間のかかるクルマであった。特に古い『240』がそうで、本当にいい状態で走れるのは2万kmを超えたあたりからだった。それ故に長く乗り込んでもそう簡単にへたり込むことがなく、それが長く乗ろうとユーザーに思わせる一因のような気がする。

というわけで、恐らく現代のボルボにとっても1万km程度の積算計は、まだまだよちよち歩だったというわけではないだろうが、これまで5回のSPA試乗とは全く異なる印象を得たので、その部分を報告させていただきたい。

新しいSPAはフロントにダブルウイッシュボーン、リアには独特のコンポジット・マテリアルで出来た横置きリーフスプリングを採用したマルチリンクというサスペンションが基本だが、試乗車はエアスプリングを用いたオプション設定車。このエアスプリング、過去にXC90で体験したが、その時の印象は少しゴツゴツ感が残り、特に大きな入力に対しては結構しっかりとした衝撃がくるもので、まだ煮詰めが足りないというのが正直な印象だった。その後にリーフスプリング仕様もS90で乗って、やはりごつごつした印象が否めなかったので、その時は「初期フリクションが取れていない印象だから、結論は持ち越したい」と書いた。そして続けて「どちらかといえばストロークでいなすというよりも、揺れを瞬時に収束させる方向の味付けという印象を持つ。」と書いたのだが、今回のV90に試乗して、その考えを全面的に修正する必要性に迫られた。

まず、初期フリクションがあったことは間違いない事実のようで、1万kmを後にしたV90の乗り味は、まさしく大型クルーザーのようなゆったりとした乗り心地に変貌していた。勿論セダンとワゴンという重量配分の違いも影響しているかもしれないが、根本的なところでは一緒のはずだから、セダンでも初期フリクションさえ取れれば、こうした乗り味に変貌するものと考えられる。

次に「どちらかといえばストロークでいなすというよりも、揺れを瞬時に収束させる方向の味付けという印象」という部分は全然異なっていて、当時のモデルは要するにサスペンションが動いていなかったと解釈すべきで、今回の試乗車は実にたっぷりとしたストロークを感じさせ、大きなうねりに対してはそのサスペンションが十分に効力を発揮してゆったりと、そして大きくうねりをいなし、まさしく大波を超えるクルーザーの印象を得たのである。ストロークは非常にゆったりとしたもので、サイズ以上の大型車に乗っている印象をであった。

というわけで、ようやくSPAの本来の乗り心地を体験できたわけで、その印象は感動的ですらあった。240以来、ワゴン作りに長けているボルボらしく、V90はその大きさも手伝ってか、これまで培ってきたワゴン作りの上手さが出ているように思えた。ひとつわからなかったのは、後席の分割形式を60:40にしたこと。以前『V70』などに時代には40:20:40に分割可倒ができ、利便性はこちらのほうが高かったのだが、今回は60:40に戻っていて長尺ものを収納する場合はアームレストを抜いて行う形式とされていた。これは少々残念である。

「オープンポア」と呼ばれる独特な仕上げが施されたウッドパネルは、今回の試乗車に僅かな傷があって、図らずも本木目であることを証明した形になっていたが、触れてみると金属やプラスチック部分とは異なり、ほのかな温かみを感じることができる。やはりウッドや本革という自然素材は感触がいい。

エンジンも、やはり当たりが出てきていたのか。静粛性が高く、持ち味を発揮していた。車両の動きはBMW、メルセデス、アウディとは明らかに異なる柔らかみのあるもの。さらなるシャープさを求めるなら、「Rデザイン」というチョイスがあるが、それは別の機会に報告しようと思う。やはりボルボは走り込んでいかないと本来の良さを発揮しないクルマ。そしてそれが顔を表した時、長く乗り続けたいと思うクルマなのである。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度 :★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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