清水和夫が語る、東京モーターショーの「“向こう側”にあるもの」とは

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清水和夫氏
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第45回東京モーターショー2017が、来たる10月27日に開幕する。イノベーションが現在進行形で進む今、自動車業界では何が起こっているのか。そして、今年の東京モーターショーで何を見ることができるのか。世界の自動車市場を取材し、環境問題やITS、次世代先進技術などあらゆる専門分野に精通するモータージャーナリスト清水和夫氏に聞いた。

◆EVだからエコ、ではない…岐路に立たされるパワートレイン戦略

「電動化(EV)と電脳化(自動運転)が2つのポイント。まず“電動化”について注意しなければならないのは、EVは、テールパイプから何も排出されないので、都市部の大気汚染を良くするには効果がありますが、電気を作る段階で、日本は原発にも化石燃料にも問題を抱えているので、『どうやって電気を作るのか』という点を考慮しなければなりません」

「ユーザーの視点からは『エンジンがない方がエコだ』となりますが、“ウェル・トゥー・ホイール(油田からタイヤまで)”のエネルギーの効率で言えば、今あるエンジンの効率を上げた方が良い場合もある。しかしながら、直観的にわかりやすいEVにシフトすべきだという声が多い。自動車メーカーの中でも、EVにシフトしていきたい日産と、エンジンの改善を図ろうとするマツダがありますが、どちらが良い悪いという話ではないんですよ。今はそれがステレオタイプになってしまっている。EVは、どういうものを作り、どう活用していくのが一番良いのか、エンジンはどのようにしていくのか、明確にしていく必要があります」

自動車メーカーもEVだけを見ているわけではない、と清水氏は言う。

「メルセデスはエンジンに3000億円を投資していますし、アウディは『ディーゼルは死んでいない』と言っている。こうしたことがあまり報道されず、これからはEVだ、と決めつけているように感じます。引いて見て、自動車メーカーの本当の考えと、社会が抱えている問題を冷静に考えていかないといけない。こういうとEV反対論者のように聞こえてしまうかもしれないけれど、僕だって街乗りだけをするならEVコミューターが良いと思っています。答えはひとつではないということです」

果たしてエンジンのイノベーションを東京モーターショーで見ることはできるのだろうか。

「マツダが先日『SKYACTIV-X』を発表しました。これはガソリンエンジンでありながら、ディーゼルのようにプラグの火花なしで圧縮着火する技術。また、トヨタの新型カムリのエンジンは、高速燃焼によって熱効率41%を達成しています。これはEV技術に遅れているからとか、そういう話ではないんですよ。トヨタとGMはいち早くEVを開発していますしね。多様性の時代なので、多様なライフスタイルに合わせて、ユーザー側がパワートレインも賢く、正しく選ぶべきだということです」
マツダ SKYACTIV-X エンジン
EVとエンジンの中間の存在として、“ハイブリッドカー”がある。清水氏は「ハイブリッド」といってもひとくくりにはできない、と指摘する。

「知っておいてほしいのは、ハイブリッドカーでもワンモーターとツーモーターは全く違うものだということ。欧州車に多いワンモーターのハイブリッドは、エンジン車をベースに、トランスミッションにモーターをくっつけて、大きめのバッテリーを積んだもの。プラグインで外部電源から充電して走る限りは燃費が良いけど、バッテリーが空になると、エンジンパワーを充電に使うことになり、重いバッテリーを積んで走っているだけなので、燃費は実は悪くなる。たとえば長距離を走るときに、ワンモーターのハイブリッド車よりもノーマル車の方が燃費が良いということもあります。一方で、国産車に多いツーモーターのハイブリッドは、走りながら、一つは走行、一つは充電に使える。走りながら、バッテリーに電力を貯めておけるのでダムが枯渇しないで済むわけです。こういった点に注意して、そのエネルギーが何から生まれるのかという本質を見る必要があります」

◆“レベル3”にメーカーはどう対応するか

もうひとつのポイント、電脳化=自動運転については、“レベル3”に対するメーカーの姿勢の違いがみられるという。自動運転レベル3の定義とは、条件がそろった時のみ自動運転となり、人間は完全に運転から開放される。ただし、緊急時など自動運転が続行できなくなった時は、人間が運転を替わらなくてはならない、というものだ。

「レベル3は、システムとヒトとの間で運転権限が行ったり来たりしますが、システムからヒトへ運転を戻す際に、ドライバーが寝ていたり、運転を拒否した際にどうするのかという問題があります。いかに人間に運転を戻すか。レベル3が一番難しいと言われる理由がここです」

「かなり高度な自動運転ができる車両でもレベル2対応としておいて、常に運転手の責任にする、という考え方があります。トヨタやメルセデスはこのような考え方です。いっぽう、アウディやホンダはレベル3派です。高速道路での渋滞時(ホンダでは30km/h以下、アウディは60km/h以下)ではレベル3を提供する、という考え方です」

自動運転に関する法的な整備も進んでおり、2018年には“レベル3”対応に向けて大きな前進がある。
自動運転機能「レベル3」を備えたアウディ A8 新型
「今のレベル3は高速道路の渋滞時までですが、2018年になればステアリングホイールを動かせるようになります。また、ドライバーが運転に応じない場合には“デッドマン”対応(※)できるようになります。ただ、法律でレベル3が可能になったから、全メーカーが対応しなければいけない、というわけではありません。万が一の事故があった時の責任の所在というのが争点になっているわけですが、あくまで“ドライバー責任”だというメーカーがあっても良いと思います。ただ、石橋を叩いているだけではダメで、当然予測できる問題に対処しておくというのが前提ですが、アウディのように最初の扉を開くメーカーがいなければ、イノベーションは起きないですからね。予測できるリスクはしっかりと考えた上で、これから色々なメーカーがレベル3にどう対応するかが焦点になると思います」

また、クルマ側に責任がある、とした場合に「AIを裁く」法の整備も考えていかなければならないという。「社会学者、哲学者、法律の専門家、あらゆるアカデミックな人たちが一体となって考えていかなければいけない。ボールはもう自動車メーカー側にはないんです。すでにボールは“社会”に向かって投げられたので、社会が自動運転というシステムをどのように受容して、どのような都市デザインをしていくか。若者やベンチャーなど、自動車をステークホルダーとしている人たちの“外側”から、考えていかなければいけない」

(※註:デッドマン対応とは、ドライバーに万が一のことが起きたときなど、運転の切り替えに応じない場合に、自動で路肩に寄せて停止するなどの措置のこと)

◆東京モーターショー、その先にあるもの
東京モーターショー2015 会場風景
第45回東京モーターショー2017のテーマは、「世界を、ここから動かそう。 BEYOND THE MOTOR」。クルマという枠を超えて、世界最先端のナレッジがぶつかりあい、新たなイノベーションやビジネスを生み出すイベントを目指す、という主催者の想いが込められている。

「自動車のデザインや製品力だけを見せているようではダメで、どんどん縮小していってしまいますよね。自動車だけの未来ではなく、どんな社会イノベーションを自動車によって起こせるか、という点にコンセプトを切り替えたところに期待したい。自動車が電動化・電脳化したときに、私たちが暮らす社会はどのようになるのか、イメージできるようなショーになると良いと思いますし、そうでなければいけない」

自動運転などのイノベーションによって、“移動”が変化し、ライフスタイルや社会そのものが変化しようとしている今、モーターショーと言えど、“クルマの未来”だけでは物足りないという。

「馬車から自動車に変わった1920-30年代、社会イノベーションが起こった。同じようなことがこれから“自動化”によって起きてくると面白いと思います。私たちの暮らし方で例えるなら、2か所で暮らす暮らしが実現可能になるかもしれません。東京ではシェアハウスで過ごし、土日だけ家族一緒に郊外で過ごす、などというように、ライフスタイルが根本的に変わっていく可能性も大いにあると考えられます」

「自動車メーカーは岐路に立っています。EVも必要だし、エンジンの進化・改革も必要ですが、イノベーションによって社会が変化し、これまでの成功体験が通用しなくなる時が来る。あらゆるものを変えて行かなければいけない。だから、今回の東京モーターショーでは、“BEYOND THE MOTOR”と謳っていますけど、車の向こう側にあるもの、性能競争とデザイン競争の向こう側にあるものをしっかりと示してもらいたいですね」
清水和夫氏
◆第45回東京モーターショー2017の公式ページはこちら!

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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