【インタビュー】世界のトップカテゴリーで採用、KYB レース用電動パワステの今とこれから

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KYB 経営企画本部 モータースポーツ部の長谷川大樹 課長
KYB 経営企画本部 モータースポーツ部の長谷川大樹 課長 全 19 枚 拡大写真

KYBは、油圧技術、振動制御・パワー制御技術で日本を代表するメーカーであり、自動車関連ではショックアブソーバメーカーとしても有名だ。市販車の装着率は、世界シェア15%、国内シェア45%を誇る。

モータースポーツへの関わりも深く、すでに50年にも及ぶ実績を持っている。今年4月にはモータースポーツ部を設立。これまで4輪のショックアブソーバ部門、パワーステアリング部門、2輪のモーターサイクル部門が個々に活動してきたものを一本化し新たなスタートを切った。

KYBのモータースポーツというとショックアブソーバのイメージが強い。パワーステアリング開発とは一体どのようなことを行っているのだろう? 今回は、このパワステ、中でもモータースポーツ用電動パワステ(EPS)にフィーチャーして、第一線で開発を行っている経営企画本部 モータースポーツ部の長谷川大樹 課長に話を聞いた。

◆フィーリングをいかに汲み取るか

----:モータースポーツ用のEPSの開発とはどのようなものなのでしょう。また、電動パワステはどういったカテゴリーのモータースポーツに使われているのでしょうか?

長谷川大樹氏(以下敬称略):EPSの開発については、コア部品である電装品(モーターやコントローラー)はKYBで専用開発しています。製造に関しては協力会社のサポートで行っていますが、すべて日本製で高性能・高品質であり、胸を張ってメイド・イン・ジャパンといえるものです。

KYBがモータースポーツ用のEPSに参入したのは、1997年に当時の全日本GT選手権(JGTC)マシンのトヨタ『スープラ』に搭載したのがスタートです。当時は量産車用のコントローラーを流用しての参戦だったのですが、量産車用とレース用では使用環境が大きく異なるので、大変な苦労があったという話を聞いています。その苦労を踏まえて、KYB独自でレース用専用の電装品の開発が必要だということになり、以来開発を進めてきました。2001年に最初の専用電装品が完成し、現在3世代目の電装品となっています。

これらの電装品を使用したEPSはルマン24時間レースで有名なFIA世界耐久選手権(WEC)ではトップカテゴリーのLMPクラスで装着率84%をはじめ、IMSAシリーズなどのスポーツカーや世界ラリークロス選手権(WRX)の一部車両に搭載されています。それから国内ではスーパーフォーミュラ…これはKYB装着率100%です。それにSUPER GTなどトップカテゴリーで合計で80台ほどに採用されています。

----:開発やサポートを行う上で苦労される点を教えてください。

長谷川:世代を重ねるたびにアップデートが行われた結果、現在のところシステムとしてはそれほど苦労するような状態ではありません。とはいえ全く(苦労が)ないわけでもありませんなく、難しいのは、お客様はモータースポーツのプロばかりなのですが、EPSシステムに関しては理解をしていただく事が難しいということです。

ロードカーのようにインフォメーションを感じながら走るクルマの場合は、タイヤからの入力を感じやすいチューニングをしています。ラリークロスのように4駆でオフロードをグリップしなくても走れるようなクルマの場合は、(駆動力でクルマの向きが変えられるため)極力速く舵が切れるようなチューニングといった具合に、カテゴリーによってチューニングの仕方が違いますね。

----:ドライバーのフィードバックも反映しなければならないと思います。

長谷川:ドライバーとのコミュニケーションは一番大事です。特に何が大切かというと、コメントは絶対値ではなくてフィーリングなので、ドライバーとすり合わせをしなければいけないんです。どこのコーナーを何キロで走った時にどう感じたのか。そのときブレーキを踏んだのかどうか。それなら、たぶんこういう理由でそう感じたんですね…といいながらデータとつきあわせる。そして、ここが重いですか、軽いですか、引っかかるんですかといったことを聞きながらチューニングをしていくんです。

ある程度ドライバーがどのような運転をしているのかを想像しながら、それからサーキットのコーナーを想像しながら、たぶんあそこは出口でアクセル戻しながらハンドル切ってるコーナーだろうな…ということも想像しながら聞いていくと、チューニングのやり方が見えてくるわけです。ただ、時々ずれるんですね。データと異なることがあって、ここを埋めるのが一番難しい。よく言われるのですが、理論派のドライバーと、感覚派ドライバーがいる。これはどんなカテゴリーでも同じで世界各国共通なんです。

でも感覚派のドライバーのコメントが間違っているわけではありません。そこには必ず何かが起こっているので、それを丁寧に解決していく作業が大切なのです。ドライバーが言っていることとデータが合わなくて、他のエンジニアのところに行って、どんなセッティングだったか聞くことで解決することもあります。コミュニケーションが一番大事だというのを実感します。それから、セッティングもある程度わかっていないといけません。

◆“人財”の育成と見据えた将来

----:そうしたモータースポーツで得た知見や技術は、どのように活かされるのでしょうか?

長谷川:モータースポーツは、車両目線で製品開発ができるもっとも実戦的な場だと考えています。極論をいえば、技術や製品はなければどこかから買ってくればいいのです。でも“人財”に関してはどこからか持ってくるのでは会社として未来がありません。ですからモータースポーツ活動を通して育った人間をローテーションし、他部署でその経験をしっかり発揮してほしいと思っています。

実際に、そのようなローテーションを進めており、効果は出ているのではないかと感じます。今も私の下に3年目の若手が一人いるのですが、まずは国内のレースを担当してもらっています。国内のサーキットは簡単に情報が手に入りますから。私なりにパターンを用意しておいて、ドライバーがこのコーナーでこう言った時はこんなパターンに当てはまるかもしれない、という教育をしながら経験を積んで、頑張ってもらっています。

----:開発者として、どのような目標を持っていらっしゃいますか?

長谷川:モータースポーツの将来を考えるとき、EV(電動化)は外せないキーワードになるでしょう。フォーミュラEがその最先端だと思いますが、まだレース速度や負荷の点でEPSが必要な仕様に達していません。しかし、ポルシェやアウディがフォーミュラEに参入し、いよいよ活発になっていくだろうということは予想されるので、近い将来EPSが必要なモータースポーツ車両のレースが行われるようになると考えています。私たちとしてはそれまでに、その車両に対応したモータースポーツ専用EPSを準備しておきたいと思っています。

KYBのホームページはこちら

《斎藤聡》

斎藤聡

特に自動車の運転に関する技術、操縦性に関する分析を得意とする。平たくいうと、クルマを運転することの面白さ、楽しさを多くの人に伝え、共有したいと考えている。そうした視点に立った試乗インプレッション等を雑誌及びWEB媒体に寄稿。クルマと路面との接点であるタイヤにも興味をもっており、タイヤに関する試乗レポートも得意。また、安全運転の啓蒙や普及の重要性を痛感し、各種セーフティドライビングスクールのインストラクターも行っている。

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