N700Sは「新幹線の標準車両」…JR東海、完成間近の車体など公開

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車体がほぼ完成したN700S確認試験車の先頭車。2018年3月に完成する。
車体がほぼ完成したN700S確認試験車の先頭車。2018年3月に完成する。 全 21 枚 拡大写真

JR東海は10月1日、日本車輌製造の豊川製作所(愛知県豊川市)で新幹線の新型車両「N700S」の製造中の車体などを報道陣に公開した。2018年3月に完成させ、2020年度からの営業運転開始を目指す。

N700Sは、N700Aに変わって東海道・山陽新幹線に導入される予定の新型車両。現在製作されているのは「確認試験車」と呼ばれる試験運転用の16両編成で、今回は先頭車(16号車)の車体と車内設備のモックアップが公開された。

車体は塗装前の姿で、白みがかったグレー一色。車内も構体がむき出しになった状態だった。従来型のN700Aとよく似た造形だが、先頭部は「デュアルスプリームウィング形」が採用されている。先頭部の盛り上がりが若干大きくなり、左右両サイドにエッジを立てた形状になった。これにより走行時の風の乱れが減り、省エネルギー化や乗り心地の向上が図られるという。

ヘッドライトの形状も変更されており、視認性の向上を図るためライト部の面積が大きくなった。ライトは新幹線初のLEDライトを採用して、省エネルギー化を図る。

車内モックアップはグリーン車と普通車が公開された。普通車は側面パネルを空調吹出口と一体化させており、吹出口が目立たなくなったのが分かる。これにより吹出口を広くとり、室内温度の均一化を図るという。

グリーン車は吹出口のほか、荷物棚も横1列ごとに一体化。これにより「一人ひとりの空間」を演出するという。照明はLEDを採用するほか、天井も光学的に最適な形状にして室内照度の均一化を図る。車内案内表示器は画面サイズを50%拡大したフルカラー液晶を採用し、視認性の向上を図る。

グリーン車の座席は、N700系から採用している「シンクロナイズド・コンフォートシート」を改良したもの。くるぶしをリクライニングの回転中心とし、長時間座っても疲れにくくしたという。このほか、フットレストの大型化や足元スペースの拡大、読書灯の照射範囲拡大、肘掛けに収納しているテーブルの面積拡大、多目的フックの新設(背もたれ背面)が行われる。

普通車の座席も、背もたれと座面を連動して傾けるリクライニング機構を採用。座ブトン構造の「布バネ」を採用して軽量化を図る。スマートフォンなどを充電できるコンセントの位置は、従来の側壁下部から肘掛けに変更。全ての座席でコンセントを利用できるようにする。

■短編成も組める機器配置に

N700Sでは、走行装置や保安装置もさまざまな新技術が採用される。JR東海は報道公開に先立つ9月28日、新たに検証が完了した主な新技術の概要を発表した。

台車はフレーム構造を改良。下板の厚みを変えるとともに、補強部材と溶接部材を削減する。これにより1台車あたり約75kgの軽量化を実現するという。モーターは駆動システムにSiC素子を採用。電磁石は従来の4極から新幹線初の6極に増やし、小型・軽量化を図る。また、モーターの回転力を車輪に伝達する歯車に、新幹線の営業車では初めて「ヤマバ歯車」を採用。騒音の低減や軸受の信頼性向上などを目指す。

振動制御はフルアクティブ制振制御装置を導入し、とくにトンネル区間での揺れを半減するという。グリーン車ではセミアクティブダンパに小型モーターとポンプを取り付けたコンパクトな構成を実現する。パンタグラフは追従性を大幅に高めた「たわみ式すり板」を開発。集電性能の向上と長寿命化を図る。また、パンタグラフの支持部を3本から2本に減らし、N700Aに比べ約50kgの軽量化を図る。

JR東海は今回の報道公開で、N700Sを「様々な線区に容易に適用させることが可能な『標準車両』」と位置付けていることを強調した。16両編成の場合、従来は床下機器の構成を8種類とするのが基本だったが、N700Sは機器の小型化や軽量化により床下機器を統廃合し、4種類に抑える。これにより12両編成や8両編成なども容易に組めるようにし、東海道・山陽新幹線よりも利用者が少ない路線にも対応しやすくする。今回の報道公開では東海道・山陽新幹線を除き、具体的に想定される導入路線は明らかにされなかった。

N700Sの確認試験車は2018年3月に完成する予定。2020年度には量産車による営業運転が始まる。確認試験車は量産車の登場後も技術開発用の試験車として使用し続ける予定だ。

■「リニア後」の新型車両はどうなる?

JR東海は10年後の2027年、リニア中央新幹線の品川(東京都港区)~名古屋間を開業する予定。2037年には名古屋~新大阪間も開業する見込みだ。これに伴い、東海道新幹線は東京・名古屋・大阪の三大都市間を中心とした輸送から、三大都市~地方都市や地方都市間を中心とした輸送にシフトし、利用客層や輸送人員も大きく変わるとみられる。

東海道新幹線の新型車両も、三大都市間の輸送を中心に対応するものはN700Sが最後になるか、あるいはN700Sの次の新型車両が最後になると思われる。JR東海の社内でも、リニア開業後の新型車両の話がポツポツと出ているようだが、今のところは雑談のレベルにとどまっているようだ。

新幹線鉄道事業本部車両部の古屋政嗣担当部長は、報道公開後の記者会見で「N700SはN700Aをあらゆる面で性能向上させた、高いポテンシャルを持った車両。(リニア開業後は)このポテンシャルを活用して、どういった輸送サービスができるかどうか考えていきたい」などと話し、具体的な考え方や構想は示さなかった。

《草町義和》

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