【池原照雄の単眼複眼】ロータリーから半世紀のマツダ、再び先駆者として実用化するエンジン

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マツダ SKYACTIV-X 試作車
マツダ SKYACTIV-X 試作車 全 6 枚 拡大写真

内燃機関に新しい歴史を刻む圧縮着火の「SKYACTIV-X」

マツダが、「HCCI」(予混合圧縮着火)という燃焼方式による新開発ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」を搭載した試作車のメディア向け試乗会を開くなど、2019年に予定している商品化に向けて着々と歩を進めている。

このエンジンでは一部の条件下の燃焼時にスパークプラグによる着火も行うが、燃焼の大部分は圧縮着火であり、HCCI技術による量産エンジンの実用化は、世界初となる見通し。マツダはかつてロータリーエンジンの量産化でも世界の先陣を切っており、今年はロータリー初搭載車『コスモスポーツ』(1967年)の発売から50周年の節目。半世紀余りを経て同社はまた、内燃機関の新しい歴史を刻もうとしている。

公開したSKYACTIV-Xエンジンは、排気量2.0リットルで、乗用車『アクセラ』のハッチバック車に搭載した。極めて薄い混合気を圧縮着火させるため、エンジンの圧縮比は16と高い。ちなみに軽油を燃料とするディーゼルエンジンも圧縮着火させるのだが、マツダのクリーンディーゼル「SKYACTIV-D」の2.2リットルの圧縮比は14であり、それよりも高い数値だ。

また、通常のガソリンエンジンに加えた主な部品は3点ある。燃焼制御のための「筒内圧センサー」、高い圧力で燃料を噴射する「高圧燃料系」、そして十分な空気をシリンダー内に送り込むための「高応答エアサプライ」である。

同社でミスターエンジンの異名ももつ人見光夫常務執行役員によると、この高応答エアサプライなるものは、機械式の過給機であるスーパーチャージャーそのものだという。ただ、このエンジンでは出力を求めるために使うのでなく、希薄燃焼のための部品なので「誤解を防ぐためにこのような名称にした」(人見氏)そうだ。

新エンジンでは「マイルドハイブリッド」も採用

HCCIのエンジンは、基本は圧縮着火だが、実際は外気温といった外部環境や刻々と変化するエンジン負荷などに対処し、使用領域の全てで圧縮着火させるのは、現在の燃焼技術では不可能とされている。マツダは低温時など一部の条件下のみプラグの火花で点火させる方式とし、この技術を「SPCCI」(火花点火制御圧縮着火)と呼んでいる。火花点火の制御には膨大なデータ処理が必要といい、「スーパーコンピューターを駆使して確立している」(人見氏)そうだ。このため、人見氏はこのSKYACTIV-Xエンジンを、愛着と皮肉を混ぜながら「非常に厄介なエンジン」とも指摘する。

さて、試作車による試乗は、同社の美祢自動車試験場(山口県美祢市)に設定した約7kmのコースで体験した。市街地の低速から、郊外のワインディングロードでの中速、そして高速道路を想定した100km/hと、基本的な走行シーンが織り込まれていた。SKYACTIV-Xは、同社の現行ガソリンエンジン(SKYACTIV-G)より燃費を20~30%改善でき、トルクも全域で10%以上、最大で30%程度の向上を実現している。燃焼が似ているディーゼルのような中速域からの力強い走りをイメージしていたが、そこから高速になってもぐんぐん伸びるというガソリンエンジンならではの反応も組み合わさっていた。

既存の同排気量ガソリンエンジン車との乗り比べができたので、走りは素人の筆者でも相当な違いを実感できた。走行中はプラグによる着火か、圧縮着火かはシームレスなので、ドライバーには分からない。エンジン評価などを担当しているパワートレイン開発本部の徳重大志部長によると、今回の7kmの試乗では走行時間の95%程度は圧縮着火による燃焼となっているそうだ。

あと、注目すべきは、このエンジンからマツダは「マイルドハイブリッド」を展開していく計画だ。小型モーターを、エンジンのクランクシャフトにベルトで直結させており、減速時のみエネルギー回生する。チャージした電気はアイドリングストップ時のエンジン再起動や、モーターによるごくわずかな動力補助に使う。この動力補助は燃費性能が悪化しやすい低速域のみに行うようにし、燃費と走行性能の向上をサポートさせる。

ロータリーの苦い教訓も生かし、顧客に技術を伝えていく

半世紀前に登場したロータリーエンジンは、それから6年後の73年に起きた第1次石油ショックによる燃料価格の暴騰で強い逆風を受け、そこからは苦難の歩みを余儀なくされた。半世紀を経た今日、電気自動車(EV)など電動化へのうねりが始まっており、あたかも内燃機関の役割は早晩終わるようなメディアでの論調も少なくない。仮に40年に英国やフランスでエンジン単体での車両は販売禁止となっても、電動技術との組み合わせでエンジンを搭載したクルマは、車両コストや電力事情からも両国を含むグローバルでは主流であり続ける。

マツダは国や地域ごとの環境規制などの事情に応じ、多様なエンジンや電動化の車両を展開する「マルチソリューション」で地球環境への技術対応を進めている。小飼雅道社長は、SKYACTIV-Xという新たなエンジンが加わることで、「お求めやすい価格で(他の電動化車両などと)同程度の環境性能をお届けできる。世界のお客様の選択肢を増やすことになる」と、期待を寄せる。

ただし、新たな燃焼技術による高性能エンジンといっても一般顧客へのアピールには「難しいところがある」と見ている。このため、小飼社長は市販への課題として「販売店の皆さんに技術を完全に理解していただき、お客様へきちんとお伝えすること」と強調する。マツダの全社員も含めた理解活動を早々に始めるという。先駆者は技術の理論武装によって、孤独にも耐えなければならない。かつてロータリーエンジンが石油ショックを機に「ガソリンをがぶ飲みする」と、業界内で喧伝され、十分に押し返すことができなかった苦い経験も生かしていくということだろう。

《池原照雄》

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