【東京モーターショー2017】マツダ 魁…格好いいとか欲しいとか思わせないと、負け[デザイナーインタビュー]

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マツダデザイン本部チーフデザイナーの土田康剛氏
マツダデザイン本部チーフデザイナーの土田康剛氏 全 10 枚 拡大写真

マツダは2010年より“魂動(こどう)- SOUL of MOTION”というデザイン哲学のもと、生命感あふれるダイナミックなデザインのクルマを創造してきた。そして、今回魂動デザインの第二章が『魁(カイ)CONCEPT』のもとスタートした。このコンセプト名には、このモデルが次世代へと“先駆け”ていくという意味を込めた。

◇オーソドックスなハッチバックタイプでクルマづくりにかける愚直さを示したかった

----:今回ワールドプレミアした『魁 CONCEPT』は、『VISION COUPE』や前回のモーターショーに出品された『RX-VISION』と違い、ハッチバックボディが選ばれました。その理由は何でしょう。

マツダデザイン本部チーフデザイナーの土田康剛氏(以下敬称略):あえてクルマのスタンダードであるハッチバックを選びました。その理由は、我々のクルマづくりにかける愚直さ、挑戦する志を示したかったのです。なのであえて“ド直球”。変化球や目新しい新しさではなく直球勝負しました。そこからリアルで現実感のあるデザインが伝わっていると思います。

そして、クルマ好きのいちデザイナーとして、このクルマを見て格好いいとか欲しいとか思わせないと負けだと思っています。そういうインパクトを込めてこのクルマをつくりました。

◇色気のある塊まり

----:魁 CONCEPTのデザインコンセプトを教えてください。

土田:色気のある塊まりです。ハッチバックは合理的で機能的な車種が多い中で、マツダとしてどうやって目立つのか、存在感を出すのかを考えた結果、人をエモーショナルに惹きつけないといけないと思い、色気を作っていきました。

このクルマから魂動デザインの第二ステージになります。魂動デザインというのは変えません。これは命をクルマに吹き込むということは変えないということです。ただし、命や生命観の表現を変えていくというのが次のステージです。

具体的にはいまの魂動デザインは、2つのキャラクターラインを組み合わせることでリズムを作り、生命活動を表現しています。そこからそのラインを外してリフレクション、光の動きで生命観を表現したいということに取り組んだのが今回から始まる考えなのです。

----:マツダでは以前、NAGAREデザインというものがあり、自然界の動き、例えば水の流れるさまを表現していました。そこから魂動デザインの第一ステージでは、動物的な動き、例えばチーターが走り出す瞬間の力を凝縮したイメージでした。そういった表現でいうと第二章ではどういうものなのでしょう。

土田:第二章では、チーターのような直接的な動きの表現ではなく、リフレクションが動くことで生き生きした表情を見せるということを狙っています。動きの表現、生命観の表現を変えているのです。

◇引き算の美学でキャラクターラインをなくす

----:面に映る表情が動くことで躍動感を出しているということは、例えば夜の高速道路などで水銀灯がボディに映って流れていくさまをイメージすればわかりやすいでしょうか。

土田:そうです。そういったリフレクションを受けると本当に生き生きして見えると思います。

魂動デザインは変えずに、次の世代に向けて何を進化させるか。我々は次世代に向けて日本の美意識を体現していきたいと、具体的に“引き算の美学”と呼んで取り組んでいます。

そこで今回の魁 CONCEPTでは、キャラクターラインを廃してリフレクションによる動き、光の動きに注力しました。それが生命観の表現であって、クルマがまわったり、景色を映しこむことでずっと絶え間なく動く色気のあるリフレクションを表現しています。

----:魁 CONCEPTでの具体的な特徴としては、どういう部位で表現されているのでしょう。

土田:魁 CONCEPTはハッチバックですので、ハッチバックならではのプロポーションづくりにまず注力しました。具体的には、全ての要素を内側に集中させることで力強く凝縮された美しさをまず目指しています。そうするために、キャビンとボディをひとつとして捉えて、我々の中ですごくチャレンジャブルに造形しました。

例えば、Cピラーからリアフェンダーまでをひとつの塊まりとして捉え、Aピラーからフロントフェンダーにかけてもひとつの塊まりとしています。一方で、通常はショルダーを作るのですが、 それを作ると面が起きてしまいますので、そのステップをなくしました。その結果として、圧倒的なスタンス表現、上に向ける力を発生させているのです。わかりやすさとしては、特に後ろから見ると、リアフェンダーの張った感じや、中にエネルギーがぎゅっと凝縮されているのがおわかりいただけるでしょう。

----:意外とフロントが長く感じますね。

土田:キャビンを後ろに引く印象のためにボンネットを長く見せたいという思いはありました。もともとスカイアクティブの、4-2-1排気システムのためにカウルを引いています。そしてビジビリティが良くなることもありましたので、デザインのやりたいこととエンジニアがやりたいことがマッチしたのです。通常のFF車からすると、キャビンは(後ろに)引いており、ボンネットは低く見せたいので、長く感じられるのは確かですね。

----:魁 CONCEPTを真上、プランビューから見たときに非常に良い形に見えるような気がします。

土田:なかなかそういう角度で見る機会はありませんが、フロントからのピークをフロントフェンダーに持ってきて、リアタイヤの手前で一度絞ってくびれを作っています。そしてもう一度リアタイヤに向けて思い切り張り出させることで、スタンスや踏ん張る力、走りの良さを表現しています。

先ほど言った色気のある塊まりとして、艶やかな表情や“エロい”表現が人の感覚を揺さぶると思っています。ある意味撫で回したくなるように感じてもらえたら嬉しいですね。

◇チラリズムを込めたインテリア

----:では、インテリアについても教えてください。

土田:我々は人間中心の考え方を持っています。インテリアで考えているのは人を中心に座らせて、全ての要素、造形をシンメトリー、左右対称にしていることです。そこがクルマを運転する人の、人馬一体、走る喜びのベースになっており、我々のプライマリーです。

他の要素は逆に引き算で、要素を削いでいくことで、コックピットは際立たせるという思いなのです。

----:エクステリアでは艶っぽさを表現していますが、インテリアではどうでしょう。

土田:インテリアでもさりげなく赤のドアトリムや、裏地に赤の差し色をして、奇はてらわないのですが、エモーショナルな“チラ見せ”を仕掛けています。

◇マツダのデザイナーになるのは運命だった

----:少し土田さんのことをお聞かせください。土田さんはなぜカーデザイナーになったのですか。

土田:実はあまり勉強が出来なくて(笑)、絵ばっかり描いました。父親がマツダディーラーのセールスマンだったんですが、たぶん中学生ぐらいだったころに、初代の『ロードスター』や、3代目の『RX-7』、『センティア』などのデモカーで帰って来ていたのです。ときめきのデザイン世代のクルマだったので、綺麗だなー、格好いいなぁと思っていました。そんなこともあり、マツダのカーデザイナーになりたいなぁと、たぶん中学生の頃には思っていました。

当時『西部警察』や『あぶない刑事』などに出ていた、日産の硬派なクルマたちが同級生は皆好きで、マツダはあまり人気がありませんでした。でも自分の中では全く日産に惹かれなくて、ときめきのデザイン世代のクルマたちがとても好きでしたので自然とマツダを目指すようになったのです。

私は石川県の生まれで金沢美術工芸大学に入りました。ちょうど2年生のときにトランスポーテーションに関する学科が出来ましたので、すごくラッキーで運命的な流れでした。

----:子供の頃からクルマが好きだったのですか。

土田:もちろん大好きでした。私はスポーツカーというよりもハッチバックとかも好きでしたので、魁 CONCEPTは私の欲しいクルマなのです。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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