展望席「再び」だが連接台車「不採用」…小田急ロマンスカー「GSE」の特徴は?

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このほど完成した小田急ロマンスカー70000形「GSE」。2018年3月中旬にデビューする。
このほど完成した小田急ロマンスカー70000形「GSE」。2018年3月中旬にデビューする。 全 21 枚 拡大写真

小田急電鉄がこのほど完成させた、特急ロマンスカーの70000形。愛称は「GSE」で、ロマンスカーの車両としては60000形電車「MSE」以来10年ぶりの新型車両になる。前面展望席が再び導入された一方、連接台車は採用されなかった。

■ホームドア考慮で「連接台車」採用せず

今回完成したのは、70000形の第70051編成。12月5日、大野総合車両所(神奈川県相模原市)で1・2号車の車内外が報道陣に公開された。

1両の長さは約20mで、7両の固定編成を組む。1編成の長さは142.6m。同じ特急ロマンスカー専用車両の7000形「LSE」(145.2m)や50000形「VSE」(146.8m)とほぼ同じだ。

各車の車両番号・記号は、小田原方から1号車:クハ70351(Tc2)、2号車:デハ70301(M4)、3号車:デハ70201(M3)、4号車:サハ70151(T)、5号車:デハ70101(M2)、6号車:デハ70001(M1)、7号車:クハ70051(Tc1)。モーターは2・3・5・6号車の4両に搭載され、集電装置(パンタグラフ)は2・4・6号車の3両に1基ずつ取り付けられた。

現在運用されているロマンスカー専用電車の構造は、大きく分けて2種類ある。一つは、長さが約20mの車両を連結して編成を組む、鉄道車両としては一般的な構造。もう一つは、長さ約13~18mの短い車体で編成を組み、二つの車体の間に台車を一つ入れて支えるという構造だ。この構造は「連接台車方式」などと呼ばれる。

ロマンスカーで連接台車方式を採用しているのは「LSE」と「VSE」。この二つは編成両端に運転室越しではない前面展望席も設けている。これに対して30000形「EXE」「EXEα」と60000形「MSE」は一般的な構造。前面展望席はなく、運転室越しに前方が見えるだけだ。「GSE」は前面展望席を設けつつ連接台車方式は採用しなかった。

連接台車方式は乗り心地が良くなることや、カーブの通過時に車体が線路の外側にはみ出す幅が小さくなり、急カーブを通りやすいなどの利点があるとされる。その一方、車両を切り離す際はクレーンを使って車体を支える必要があり、メンテナンスに手間がかかるなどの問題がある。

これに加えて近年は、ホームドアへの対応の問題が出てきた。連接台車方式は車体をあまり長くすることができず、1両約20mの一般的な旅客車より短くなる。ドアの位置も20m車とは変わってくるため、20m車と混在して運用する場合は、ドア位置が固定されるホームドアの導入が難しくなるのだ。

一方、乗り心地の向上については、左右方向の揺れを抑える「電動油圧式フルアクティブサスペンション」を全ての車両に搭載することで対応した。小田急によると、在来線の量産車編成で全ての車両に「電動油圧式フルアクティブサスペンション」を搭載したのは、「GSE」が初めてという。

小田急の星野晃司社長は、記者会見で「連接台車は当社独自の技術で『残しておきたいなあ』という思いもある」としつつ「これから作る車両はホームドアの設置も考えなければならない」などと述べ、将来的には連接台車方式をやめる可能性を示唆した。

■名鉄パノラマカーに似ている?

「GSE」は「VSE」「MSE」に続き、岡部憲明アーキテクチャーネットワークがデザインを担当。車体塗装は白ベースの「VSE」と青ベースの「MSE」に対し、「GSE」は赤ベースとなった。

バラの色を基調とした「ローズバーミリオン」で車体全体を塗装。屋根部は深い赤色の「ルージュボルドー」とし、側面の窓下には「ロマンスカーの伝統カラー」(小田急)である「バーミリオンオレンジ」の帯を入れた。赤系統の車体に赤系統の帯を重ねるという、独特なデザインが特徴的だ。

前面展望席が付いた赤い色の電車といえば、名古屋鉄道(名鉄)が1961年に導入した7000系「パノラマカー」を思い起こさせる。実際、ネット上では「GSE」の概略デザインが発表された頃から「パノラマカーに似ている」との声が上がっていた。

これに対して星野社長は「バーミリオンオレンジが(『LSE』の引退で)なくなるから、このカラーは残しておきたかった」とし、名鉄パノラマカーは「全然意識していなかった」と話した。また、白の「VSE」や青の「MSE」などが現在運転されていることを踏まえ、「暖色系の赤があった方が、いろんな電車が走って絵になるのではないか」などと話し、赤ベースのデザインを採用した経緯を説明した。

■窓拡大や荷物収納スペース確保に力点

「VSE」との比較では、窓がかなり大きくなった。前面展望席の展望窓は高さを約30cm拡大。最前列の座席は腰掛けが内側斜め向きになっており、約35cm前方に配置された。側面の窓も約30cm高い100cmに拡大している。また、前面展望席が付いている1・7号車は座席上の荷物棚を廃止。これにより「展望車両としてダイナミックな眺望と開放的な空間を創出」したという。

座席は回転式リクライニングシートを1列2+2席で配置。各席の肘掛けにはコンセントを設けた。観光輸送での運用を中心としつつ通勤輸送での運用も考慮しており、定員は1編成で「VSE」より42人多い400人に増えた。1編成の長さは「VSE」とほぼ同じだが、1両の車体が短い「VSE」が10両編成であるのに対し、車体が長い「GSE」は3両少ない7両編成。これによりドアの数も減り、定員の増加が可能になったといえる。

また、近年の訪日外国人観光客の増加に対応するため、とくに荷物スペースの確保に力が入れられた。4号車を除く各車両の出入口デッキ部付近には、大型の荷物置き場を設置。全ての腰掛けの下に、旅客機(国内線)の機内持ち込みサイズ(55cm×40cm×25cm以内)の荷物が収納できるスペースを確保した。

トイレは洋式で、温水洗浄機能付きの便座を採用。電動車椅子で利用できる「ゆったりトイレ」も設けた。車内では無料の公衆無線LAN(Wi-Fi)を提供し、インターネットへの接続環境のほか、編成両端のカメラで撮影した「展望ライブ映像」などの独自コンテンツも配信する。

「GSE」は現在、14両(7両編成2本)が導入される計画。今回完成した1編成目の第70051編成は、2018年3月中旬のダイヤ改正にあわせて営業運転を開始する予定だ。新宿~箱根湯本間を結ぶ特急ロマンスカー『スーパーはこね』『はこね』を中心に運用されるほか、通勤客向けの特急ロマンスカー『モーニングウェイ』『ホームウェイ』でも運用される。2編成目は2018年度の上半期には導入される見込みだ。

「GSE」2編成は老朽化した「LSE」2編成の更新という位置付け。「GSE」の導入が完了すれば「LSE」は姿を消すことになる。星野社長は「(1編成目と2編成目の)工期を少しずらした。そのおかげで良かったのは、『GSE』と『LSE』が併存して走る期間があるということ。その期間は短いが、鉄道ファンの方に喜んで頂けるのではないか」と述べ、少なくとも「GSE」の2編成目が導入されるまでは「LSE」を残す考えを示した。

《草町義和》

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