「国内初であることは確か。世界中の空港を把握できていないから『世界初』とはいえないけど、これまでにない画期的なボーディングブリッジ。この技術を、宮崎から世界へ発信したい」
1日の運航便数47便、日向灘に面した2500m滑走路を持つ、宮崎空港。ここに、国内初の小型機対応ロング旅客搭乗橋(PBB:Passenger Boarding Bridge)が供用を開始した。
開発・製造は、三菱重工交通機器エンジニアリング。宮崎空港ビルは、5年の開発・製造期間を経て導入した小型機対応ロングPBB2基を、12月から本格稼働させる。
階段付き客室乗降ドアの障壁を乗り越えろ

この三菱重工交通機器エンジニアリング製小型機対応ロングPBBの最大の特徴は、ボンバルディアDHC8-400や、同CRJ-200、同CRJ-700などにピタッとボーディングブリッジヘッドが接触できる点。
DHC8-400やCRJ-200、CRJ-700などが、なぜボーディングブリッジを使えず、乗降客は地上を歩いての移動を強いられていたか。それは、このタイプの客室乗降ドアの構造上の理由がある。
DHC8-400などの客室乗降ドアは、床下部分をヒンジとする折りたたみ式ドアで、その内側に階段がついている。この階段が障壁となり、従来のボーディングブリッジは機体にピタッと接続できなかった。
旋回式渡り板というアイデアでクリア

宮崎空港ビル長濱保廣社長は、発表会見で「7年前に、PBBの先端にエスカレーターやエレベーターをつけるなども検討していたが、やっぱり根本的な解決に至らなかった。そこで、5年前に三菱重工に打診した」と振り返る。
こうした条件をクリアするPBB開発に着手した三菱重工交通機器エンジニアリングは、DHC8-400などの客室乗降ドアの階段部分スペースにぴたりと合う旋回式渡り板を開発。PBBヘッド(キャノピー)の下に、旋回式渡り板をつけ、DHC8-400などのステップつきドアの場合は、この旋回式渡り板がくるっと回転して飛び出し、機体の床の高さにあわせて接近する。
「タラップと手すりが物理的な障害で、ブリッジが接触できないという課題はクリアした。が、その次に通常のPBBガイドラインをクリアするというハードルがあった」と語るのは、三菱重工交通機器エンジニアリングの坂本一秀社長。
ボーディングブリッジの傾斜角度基準をクリアしろ

「飛行機の床高さが低くなればなるほど、ボーディングブリッジの傾斜が急になる。この傾斜を決められた範囲内のゆるやかな傾斜におさめようとすると、ブリッジトンネルの距離を長くとらなければならない」(坂本一秀社長)
そこで、全長19~35m・地上高2.2~5mの従来型PBBに対し、新たな小型機対応版は全長29~41m・地上高1.1~4mとロング化を図った。
この小型機対応ロングPBBの登場で、現在宮崎空港で運航されているすべての機材に対応できることに。
南国宮崎のイメージを色濃く出せ

技術的ハードルや審査基準などをクリアした小型機対応ロングPBBに、宮崎空港ビルは次のオーダーを求める。同社の長濱社長は、「かつて宮崎空港は、正面玄関にあるワシントンパームのような南国をイメージさせる植物が、エプロン側にもあった。でも安全面などから撤去がすすみ、どこの空港とも同じような殺風景なエプロンになってしまった。そこで、ふたたび南国宮崎を感じるデザインを、駐機場に採り入れたいと三菱重工に伝えた」と振り返った。
三菱重工交通機器エンジニアリングは、こうしたオーダーにデザインや構造変更で応える。ボーディングブリッジのトンネル部分は、ガラス製にし、骨格をグリーンに着色。ブーゲンビリアの花のデザインをあしらい、「旅客機を降りた瞬間に南国宮崎を感じてもらえるデザインにした」という。
「この小型機対応ロングPBB、明かりが灯ると夜の景観がまたすばらしい。宮崎空港のエプロンをにぎやかにしてくれる大事なアイテムになった。すべてのボーディングブリッジがこれに更新されれば、滑走路を行く旅客機から南国宮崎を感じてもらえるはず」(長濱社長)
目視手動とセンサーで動かす

12月26日、宮崎空港エプロンには、宮崎空港ビル長濱社長や三菱重工交通機器エンジニアリングの坂本社長をはじめ、国土交通省大阪航空局宮崎空港事務所の村田敏満空港長、宮崎県の河野俊嗣知事、全日空宮崎支店の池田晴彦支店長、日本航空宮崎支店の伊藤洋一支店長、ソラシドエアの高橋宏社長らが駆けつけ、小型機対応ロングPBBの供用開始を見届けた。
DHC8-400によるオリエンタルエアブリッジ(ORC)65便が駐機場に到着すると、小型機対応ロングPBBがゆっくりと接近。「操作は手動で、DHC8-400側の階段付きドアに近づくと、センサーが作動し、ぶつからないように近づいていく。ドアとボーディングブリッジがくっつくと、旋回式渡り板の床を跳ね上げて乗客を誘導する」と三菱重工交通機器エンジニアリングのスタッフが教えてくれた。
「これで、雨風の日にも、傘をささずに、濡れずに乗降できる。もちろん車いすにも対応している。この小型機対応ロングPBBが、旅客の移動時間短縮、航空会社の地上業務員の負担軽減などにつながるはず」(長濱社長)
プッシュバック不要、時間短縮とコスト削減へ

世界初ともいえる小型機対応ロングPBBは、旅客や地上スタッフのメリットに加え、旅客機の動きにも変化をもたらす。
これまで出発時に空港ビルから離れる時、プッシュバック(地上車両による推進)が必要だった機材が、この小型機ロングPBBの長さのおかげで、自走で旋回できるようになった。ボーディングブリッジのロング化が、プッシュバックの作業時間やコストも削減できたかたちに。
こうした小型機対応ロングPBBが誕生した背景には、航空業界全体の“小型化”という流れが見えてくる。
運航便の半分が小型機という時代

宮崎空港は、1990年の新ターミナル開業時、国内線乗降客が年間262万人で1日の運航便数が27便。乗降客数ピークは1997年で、346万人。このときは41便が飛び、小型機の割合はわずか7.3%だった。
そして2017年は、1日の運航便数が47便と増加し、小型機の割合は48.9%と、約半数を占める状況にある。このうち、PBBが接続できない小型機が10機あることから、全機材に対応するオールマイティなボーディングブリッジが求められていた。
5基で5億円、民間空港としての純粋な投資事業
最後に、今回の小型機対応ロングPBBのコストについて。長濱社長は、「開発費なども含めてなので、ひとことで一基がいくらとはいえないが、5基で約5億円弱。国からの補助金などはなく、民間空港としての純粋な投資事業」と話していた。
国土交通省大阪航空局宮崎空港事務所の村田空港長は、「東京オリンピック・パラリンピックに向け、地方空港強化やユニバーサルデザインを推進しているなか、この宮崎空港の日本初小型機対応ロングPBBは、航空業界にとっても画期的なこと。日本の地方空港のパイオニア、宮崎空港でなければ整備できなかったと思う。5年間にはいろいろ困難があったとも想像できる。宮崎空港ビルの魂が凝縮されたボーディングブリッジといっていい」と伝えた。
取材協力:三菱重工業