【マツダ CX-5 3400km試乗 前編】バランスの良さが魅力のオンロードSUV…井元康一郎

試乗記 国産車
マツダ CX-5 XD L Package
マツダ CX-5 XD L Package 全 14 枚 拡大写真

マツダが2017年2月に発売した中型クロスオーバーSUV『CX-5』の第2世代モデルで、3400kmあまりをツーリングする機会を得たのでリポートする。

CX-5は初代が2012年2月発売という比較的歴史の浅いモデル。ターボディーゼルエンジンや軽量シャシーをはじめとするマツダの新世代環境技術群「SKYACTIVテクノロジー」によって作られた意欲作だった。第2世代はその基本機構を流用しつつ、全般的なリファインを図り、安全装備を充実させたモデルである。

試乗車はターボディーゼルの最上級グレード「XD L Package」で、駆動方式はAWD(4輪駆動)。車両価格は352万6200円と高価だが、安全装備、快適装備が最初から盛られており、オプションはフルセグテレビチューナー、フロアマット、マツダコネクトのカーナビ機能をアクティベートするためのSDカード程度。

試乗ルートは横浜~鹿児島の周遊で、総走行距離は3433.8km。往路は瀬戸内、復路は山陰を経由。山陰および九州内では山岳路も走行した。おおまかな道路の比率は市街地2、郊外路5、高速2、山岳路1。乗車人員は長距離移動時は1名、九州内では最大4名。

◆バランスの良さが魅力

では、インプレッションに入ろう。第2世代CX-5はとんがったクルマづくりの色合いが濃かった初代モデルから一転、ウェルバランスなオンロードSUVへと進化を遂げていた。静粛性、乗り心地、質感、操縦安定性、動力性能、経済性など、クルマの商品性のパラメーターは多々あるが、中型ノンプレミアムSUVのライバルとの相対評価でみると、CX-5は優秀な部分については相当にハイレベル、少々苦手という部分もアベレージは十分に超えるという仕上がりであった。

このバランスの良さは、CX-5を大いに魅力的に感じさせる最大のポイントと言えよう。3400kmあまりドライブするなかで、“ちょっとこれは…”と思うような決定的な不満点はひとつも見当たらなかった。乗り心地はすべてにおいて上質というわけではないが、刻々と変わる路面状況のうち8割がたについては滑らかで、十分に満足のいくもの。静粛性も苦手な路面はあるものの、これまた大半の路面では十分に静か。ターボディーゼルは3月に190ps版へと換装されるが、175ps版でも動力性能は満足のいくところで、短い登坂車線での追い越しや高速道路への流入などフルスロットルをくれてやるシーンでも力感は十分であった。

厳しいコスト制約のもとで作られる量産車ゆえ、探せば欠点もいろいろある。が、CX-5で面白かったのは、ツーリング序盤ではこれはどうなのかな?と思った部分も、距離を重ねるにつれて「まあ、目くじらを立てるほどじゃないか」「この価格帯のモデルでこのくらい出来ていれば御の字だろう」と、次第に気にならなくなっていったことだ。

◆ボルボXC60にも似たキャラクター

初代がハンドリングの質感について非凡なものを持ちながら、アンジュレーション(路面のうねり)を通過するたびに強いゆすられ感に見舞われたり、騒音過大だったりと、走り込むにつれてストレスが増大するような弱点を持っていた。第2世代は秀逸やステアリングインフォメーションやロールの収まりの正確さなど、走りの質感の点では初代よりいささか後退した。

が、他の性能項目を犠牲にしてハンドリング一点豪華主義で行くより、バランスの良さを追求したほうが、マツダの考えるドライブの楽しさの哲学がずっと素直に出るように感じられた。また、疲労蓄積を防ぐドライビングポジションや夜間の視界を確かなものにするアクティブハイビームの素晴らしい性能など、ライバルに優越している要素をより素晴らしいものに感じさせる効果もあるように思えた。

全方位にわたってバランスの取れたクルマづくりという点で、2代目CX-5は昨年日本カー・オブ・ザ・イヤーの大賞を受賞したボルボのプレミアムミッドサイズSUV『XC60』にキャラクターがよく似ている。もちろん価格が6割程度であるぶん性能や質感には大きな差があるが、大きな不満を持つ部分がなく、そのぶん良いところが際立つという点は同じだ。初期品質がいつまで維持されるかはさすがに検証のしようがないが、少なくとも長距離ドライブをやってみたかぎりにおいては、オーナーにとっても良いモノ感は相当長く維持されるのではないかと思われた。

◆優れたオンロード性能

では、個別の性能についてロングドライブ時の印象を交えながら触れていこう。まずはダイナミック性能から。先に、CX-5はハンドリングの質感やクルマの動きの洗練性が一歩後退したと書いたが、それはあくまで質感の話であって、とくにオンロードにおける絶対性能は十分以上に優れている。

もっとも得意とするシーンは1.7トン弱という車両重量を生かした高速道路やバイパスなどのパワークルーズで、旧型とは比較にならないくらいのフラットライドな乗り味であった。シャシーは旧型の改良版だが、運動性能も悪くない。深夜の高速走行時に一度狸が飛び出してきた。周囲にクルマがいなかったこともあってダブルレーンチェンジのような動きで回避したが、そういう急なハンドル操作への許容性はすこぶる高く、安心感は上々だった。

ワインディングロードでもアジリティは十分で、タイトなコーナーをハイスピードで駆け抜けるのもお手のものだ。山口県山口市から津和野を経由して島根県の益田市まで、国道9号線の長大なワインディングロードを走ったが、最低地上高が210mmとかなり高く取られているにもかかわらずぐらついた動きがなく、不安を覚えるようなことはなかった。

動的性能では駆動力を前後輪の駆動力配分を100:0から50:50まで無段階に調節する4輪駆動システム「i-ACTIVE AWD」も良い仕事をした。それがとりわけ明瞭に感じられたのは鋭角コーナーを含むいくつもの厳しい複合コーナーがある大阪東部から奈良に向かう阪奈道路上り線。通過時は路面を水が流れるようなヘビーウェットコンディションだったのだが、タイトコーナーで「そろそろ前輪が滑るかな」と感じるタイミングでちょうど後輪に駆動力がかかりはじめ、鼻先がずいっとコーナー出口に向いてくれるという制御の的確さだった。

その先の名阪国道もやはりヘビーウェット。ハイスピード下で水がたまった路面のわだちを片輪が踏むような場面がしょっちゅうあったが、そういうコンディション下での針路の乱れの抑制はそれほど優れておらず、同クラスのスバル、三菱自動車のSUVに劣るように感じられた。あくまで走りにプライオリティを置いた4輪駆動と言えるだろう。

弱点を挙げるとすれば、先に述べたステアフィールやクルマの動きの洗練性。具体的に言うと、ステアリングから手に伝わる反力と車輪の切れ角のイメージがあまり一致しない傾向があり、フィール自体もややぐにゃつきを伴うもの。クルマの動きもロールからの戻りがビシッと決まる感じではなく、少しよれるような感触があった。その原因は定かではないが、イメージとしては乗り心地や静粛性を改善するためにサスペンションのアッパーマウントラバーやブッシュ類を柔らかくしたが、旧型比で容量が大して変わっていないためその変形幅を早くに使い果たすような感じだった。が、絶対的なパフォーマンスが悪いわけではないので、多くの人にとっては決定的な不満点にはならないだろう。

◆チョイ乗りユーザーにも使いやすくなったディーゼル

パワートレインに話を移す。175ps/420Nm(42.8kgm)を発生する2.2リットルターボディーゼルの動力性能は、こと制限速度の低い日本ではこれ以上必要ないというくらいのレベルであった。パワーウェイトレシオは9.6kg/psと平凡だが、2500rpmから回転上限の5500rpmまでの範囲で150ps以上を発生するというパワーバンドの広さゆえか、短い登坂車線での大型車追い越しなどここ一発の速さがほしい時にも痛痒感を覚えることはまずなかった。欲を言えば、スタートダッシュをより軽やかにするためにもそろそろ1~4速をクロスギアレシオにできる8速ATを積んでほしいところだ。それがあればプレミアム感はもっと増すだろう。

経済性は動力性能、車重、4輪駆動といったスペックを考えれば十分に納得できる水準だった。ただしトップランナーには若干劣る。燃費はエンジンや変速機だけでなく空力性能、駆動系の抵抗などさまざまな要素が絡むので何を改善すればいいかということについては何とも言えないが、もう1割ほど燃費がよくなるとイメージがぐっと良くなるのではないかと思われた。

ツーリング中は一貫して比較的タフな走りを主体としていた。得られたリザルトは燃費計測区間3347.4kmに対して総給油量は205.3リットル、トータル燃費約16.3km/リットルというものであった。シーン別でみると、高速道路や郊外路を主体としたロングツーリング中は16~18km/リットル台、九州内の混雑した市街地と郊外が半々で14km/前後、都市部のみの走行で11km/リットル前後であった。

航続距離だが、もっとも給油スパンが長かったのが熊本中部で給油後、山陰方面から鳥取道を経由して姫路に至った803.2kmが最長。そのさいの航続残表示は55kmであった。4輪駆動モデルの燃料タンク容量は58リットル。燃料パイプぶんを含んで60リットルあまりの燃料が入るとして、単純計算だとアベレージ17km/リットル以上で走れば1000kmは超えられることになる。

が、『アクセラ』『デミオ』と、ロングドライブを試したマツダのターボディーゼル車はいずれもタンク容量マイナス5リットルくらいまでしか燃料を使うことができなかった。アクセラでのツーリング時は残燃料があると思い、航続1000km超を達成しようとして航続残を無視し、結果、真夜中のガソリンスタンド過疎地で燃料切れを起こしてしまった苦い経験もある。

第2世代CX-5の場合も803.2km走行、航続残55kmでの給油量は49.78リットルであったことから、航続残から推計してCX-5もそういう仕様になっているものと考えられる。高速道路をスピードを上げず丁寧に巡航すれば4輪駆動でも1000km達成は可能かもしれないが、一般道も交えて元気に走った今回は“1000kmクラブ”入りには遠く及ばなかった。

ドライブ中に気がついたこととして、排出ガス中の粒子状物質を除去するフィルター、DPFの粉塵処理の制御が、SKYACTIVディーゼルが出始めの頃と比べて大きく変わったことがある。以前は数十キロにわたってダラダラと再生していたのだが、第2世代CX-5は走り方にもよるが、時間にして5分からせいぜい10分、距離にして数kmであっという間に処理が終わるようになった。その間の燃費低下も以前より派手になったので処理効率そのものが上がったわけではないのだろうが、ロングドライブばかりでなくチョイ乗りも結構やるような顧客の使い方への適応性は上がっているのではないかと思われた。

後編では快適性、ユーティリティ、安全装備などについて取り上げる。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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