【日産 GT-R 氷上試乗】全天候型スーパーカーであることを証明する走り…木下隆之

試乗記 国産車
日産 GT-R 雪上試乗
日産 GT-R 雪上試乗 全 6 枚 拡大写真

長野県・女神湖で開催された日産の氷上・雪上試乗会には、実に興味深いモデルが準備されていた。ステージは、日本列島を襲った大寒波で硬く凍った湖である。うっすらと積もった雪を剥ぐと、ツルツルの氷が顔を出す。

『GT-R』の3.8リットルV型6気筒のツインターボが絞り出すパワーは桁外れである。最高出力は570psに達し、最大トルクは637Nm。超低ミュー路では明らかに過剰だろう。重量級ボディはタイヤの強い荷重を与えることに貢献したとしても、暴れ馬と化すはずだ。恐る恐る氷上にマシンを進めたのである。

だが、どこかに期待はあった。世界一過酷なサーキットであるニュルブルクリンクで鍛えられたGT-Rは、全天候型スーパーカーと言われている。あの難攻不落のサーキットでトップタイムを記録したばかりか、場所を変えても圧倒的なパフォーマンスを披露した。実際に僕もニュルブルクリンクでGT-Rを走らせてきたことがある。幸か不幸か、夏の一時期を除けば路面は氷上のように冷えることも少なくない。そこでも圧倒的なパフォーマンスを確認していた。その期待は、氷上でも現実のものとなった。

GT-Rには、嬉しいことに「SAVE」モードが準備されている。そもそもフロント荷重が高いことで優れたトラクション性能が確保されている上に、ヒルスタートアシストが前後トルクをほぼ直結にしたまま加速することが可能だ。しかも、「SAVE」モードが、出力を緩やかに発揮させるのだ。だから、加速タイムを計測するような荒々しいスタートに挑んでも、発進に手こずることはなかった。

右足を床まで踏み込んだままの過激なシフトアップでも、GR6型の電子制御6速マニュアル2ペダルミッションは、ギアが移り変わるたびに姿勢を乱すことも少なかった。制御は緻密だから、タイヤのグリップを常に監視し、適切にコントロールしているのである。どんなに路面のミューが低下しても、最大のトラクションを得ようとする最適な制御が味わえた。ブレーキングも素晴らしい。決して軽量ではないはずのボディを、確実に減速させてくれた。しかも、強く減速しながら旋回するような、ABSにとってはもっと困難な状況でも、前後左右の制動力を適切に振り分けてくれるのだ。基本的には安定度の高いアンダーステアをキープする。一方で、その気になってテールスライドを誘い込もうとしたら、フロントの推進力を弱めながら旋回力を高めてくれた。その時が、ご覧のテールスライドの写真だ。自由自在なのである。

感心したのは、低ミュー路でもタイヤのインフォメーションが確かに伝わってくることだ。装着されていたスタッドレスタイヤの特性にもよるものの、スリップする様子がダイレクトに伝わってくる。前後駆動トルクを自在に配分する4WDだから、ドライバーは積極的にアクセルペダルを踏みつけていればいいはずなのだが、時には氷に足をすくわれる時がある。そんな時でも、スリップ率が手に取るように感じられたことに助けられた。機械的に走らされるのではなく、ドライビングプレジャーも備わっているのである。

スノードライブでGT-Rを走らせて楽しいと感じるなどとは想像もしていなかったけれど、気がつけば与えられた試乗時間を超えてもまだ休む気にはなれず、ついには背中にうっすらと熱い汗が滲むほど走り続けてしまった。それでも一度もコースアウトすることはなかった。それはすなわち、GT-Rが全天候型スーパーカーであることの証明だろう。

《木下隆之》

木下隆之

学生時代からモータースポーツをはじめ、出版社・編集部勤務を経て独立。クルマ好きの感動、思いを読者に伝えようとする。短編小説『ジェイズな奴ら』も上梓。日本・カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。「心躍るモデルに高得点を与えるつもり」。海外レース経験も豊富で、ライフワークとしているニュルブルクリンク24時間レースにおいては、日本人最高位(総合5位)と最多出場記録を更新中。

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