小型電動2輪車用エネルギー供給手段のスタンダードを目指す…キムコ 会長インタビュー

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キムコ iONEX ワールドプレミア
キムコ iONEX ワールドプレミア 全 16 枚 拡大写真

台湾のKYMCO(キムコ)は3月23日、都内で「iONEX」をワールドプレミアした。これに合わせ、キムコ会長のアレン・コウ氏も来日。カンファレンス後、インタビューに応じた。

問題解決のためのトータルソリューション

そこでまずiONEX(アイオネックス)とはいったいどういうものなのか、なにを指すものなのかをあらためて尋ねたところ「電動2輪車のトータルソリューションです」とコウ会長。ソリューションとは、問題解決のための手段や回答のこと。これまでの電動スクーター、電動モーターサイクルが抱えていた問題を解決する手段であり、特定の商品を指すものではない、ということだ。

そしてトータルということは、いくつかの要素を複合的に組み合わせてシステムを構築していることを意味する。「車両という概念にスマートフォンのアプリや充電ステーション、ユーザーが借りられる公衆コンセントのネットワークなどといったものを含めたもの、ということになります」とコウ会長は説明する。

それでは、このユニークなシステムのコンセプトはどのようにして生まれ、決められたものなのだろうか。キムコがEVの領域で画期的な技術を生み出そうと模索を始め、プロジェクトが立ち上がったのは2015年のことだという。そして最初に3つの重要な方向性を定義したとのこと。

3つの方向性とは「まずグローバルに展開、適用できる技術でなければならないこと。次に、消費者を中心に置いた技術を開発し、市場ニーズに合致したソリューションでなければいけないということ。そして最後に、電動スクーターがニッチ(隙間)市場ではなく、マス市場に向けた商品となるための技術が必要だと考えました」とコウ会長。

「この3点において革新的なソリューションを作り上げることで、電動スクーターに立ちはだかっていた障壁を克服しようと考えたわけです」と説明する。そしてこうした考えに基づいて生まれたのが、車両に複数の電力供給方法を持たせるというアイデアというわけだ。

◆あくまでも日常で使う乗り物のために

カンファレンスで公開されたiONIX対応スクーターの『Many EV』は、2本の交換式バッテリーを搭載するだけでなくプラグイン充電も可能。さらに交換式バッテリーを装着していない状態でも、車体に内蔵するコアバッテリーで走行することができる。すべてのバッテリーが満充電の状態なら、最大航続距離は95kmになるという。

それでは、その交換式バッテリーはスクーター以外にも搭載できるのだろうか。コウ会長の返答は、条件付きでイエス。「カギとなる概念は、とにかくマス市場向けのソリューションを作り上げることでした。したがってバッテリー単体ではなく、全体のシステムをマスに向けて展開していきたいと考えています」という。そこでバッテリーのボリュームが少しで済むプロダクトへの展開を考えていると続けた。「マキシスクーターやスポーツタイプのモーターサイクル、ATVなど娯楽的なものには展開しません。日常生活の中でコミューターとして使う乗り物です」とのことだ。

ここで気になってくるのが、iONEXは他メーカーにも開放されたオープンソースプラットフォームとなるのかどうか、という点だ。これについては「それぞれの判断で車両に搭載するバッテリーをiONEXの充電ステーションにも合う形状や仕様にするならば、ステーションを使っていただくことができます」とのことだった。

◆ヒントは“テスラ”と”スマートフォン”

そしてなにより重要な要素は「バッテリーを家庭でも充電できる仕組み」だと告げる。その理由として、コウ会長は開発段階でテスラ車のユーザーを調査したときのエピソードを披露してくれた。「多くの人は、毎日充電しなければならないことにユーザーは不満を抱いているのではと考えがちです。ですがインタビューしてみたところ、そうではないことがわかりました」という。

「不満だろうというのは誤解でした。彼らは、ガスステーションへ給油に行かなければいけないという面倒から解放されたことに大きな満足を覚えていたのです。簡単に自宅で充電できると、それは日常生活の一部になる、ということだったのです」。このテスラ車ユーザーのエクスペリエンス(体験)は、大いに参考になったとのこと。「みなさん、毎日スマートフォンを充電していますよね。でもそれは当たり前のことであって、難しいことをしていると考える人はいません」(コウ会長)。

そして「開発段階でもうひとつ、学んだことがあります」と続ける。「いろいろなソリューションを検討しているとき、携帯電話の歴史を紐解いてみたのです。10~15年前の携帯電話の電池は1週間、長ければ10日ほど保ちました。しかし現在のスマートフォンは1日、せいぜい2日です。この事実からわかるのは、バッテリーが1日しか保たなくなったとしても、問題にはなっていないということです」とコウ会長。

iONEXのリチウムイオンバッテリーも車両への搭載数を増やせば航続距離を伸ばし、車両の利便性をアピールすることもできなくはない。しかしむやみにバッテリーを増やすことは車体の重量や体積が大きくなるだけでなく、バッテリーを作らなければならない数も増えて資源を浪費し、製造時の環境負荷も大きくなってしまう。そしてこれらの要因はコストも押し上げることになる。「こう考えると、わたしたちは携帯電話の歴史と同じ道を辿るべきだということになったのです」という。

かつての携帯電話は通話とメッセージ交換が主機能だった。しかしスマートフォンは使われ方が大きく異なる。つまり、iONEXソリューションを採用する電動2輪車は、旧来のスクーターやモーターサイクルを基準にしてスペックを判断するのではなく、新しい移動ツールとして捉え、価値を判断すべきなのだろう。

「新しく、正しいビジネスモデルというのは人々が日々、容易に使えるものにすることである、ということです。スマートフォンのユーザーはバッテリー残量がなくなったら、それぞれの判断でいろいろな充電スポットへ行きます。これと同じような概念でiONEXプロジェクトを進めています」とのことだ。もちろん、モバイルバッテリーを取り出して充電する人も多いだろう。iONEXでそれに相当するのが、内蔵コアバッテリーだと思えばいいわけだ。

◆今後3年のビジョンは…

ちなみにキムコは、今後3年間で10種類の電動2輪車を発表すること、そして20ヶ国で充電ネットワークを構築し、世界中で50万台以上の電動2輪車を販売することを発表している。コウ会長は「iONEXソリューションを搭載する最初のスクーターは、まず台湾で今年半ばに発売します。ですから市場に出回るのは18年下半期と考えてください。日本でも販売する予定です」と補足した。

また他メーカーが電動2輪車にiONEXソリューションを採用することについては、こう説明する。「バッテリーやアプリケーションなどのスペックや仕様は、すでに台湾当局に申請してあります。この情報は一般にも公開されますから、それを見て規格に合致する製品を作れば、iONEXの充電ステーションなどを使うことができます」。

それでは、充電・給電インフラを含むiONEXソリューション全体としては、どんな将来を目指すのだろうか。「もちろん、グローバルスタンダードとなることを目指して努力しています。これを実現するためにカギとなるのは、参加してくれる企業に満足してもらえるプラットフォームを提供することが重要だと考えています」とコウ会長は語っている。

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《古庄 速人》

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