【川崎大輔の流通大陸】ようやく動いたホンダ、ミャンマー初の認定サービス工場

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ミャンマー初のホンダ認定サービス工場、HONDA AUTHORIZED SERVICE SHOP(HASS)の日本人責任者、上野氏にミャンマーでの整備ビジネスの現状について話を聞いた。

◆転換期のミャンマーの自動車市場

ミャンマーを初めて訪問した人はヤンゴンを走る車の渋滞に驚くだろう。走っている車のほとんどが日本車だ。ミャンマーを走る自動車の90%近くが日本からの輸入中古車である。

ミャンマーでは2011年の民政移管の際に完成中古車輸入を解禁した。更に2012年5月には個人に対する中古車輸入の大幅緩和が行われ、これが日本からミャンマーへの中古車輸入が急増する結果となった。2011年の日本からミャンマーへの中古車通関台数は19,621台であったが2015年データでは商用車を含めた日本からの中古車輸入台数は141,066台へと急増。道路インフラがない中、急に車の台数が増えたため交通渋滞が激しくなった。特にヤンゴンの朝夕のラッシュ時はひどい。

理由は、ミャンマーの自動車市場が大都市ヤンゴンへの1極集中型だからだ。自動車保有台数の7割がヤンゴンに集まっているといわれている。政府はヤンゴンでの自動車の急増による渋滞緩和と環境保護を検討。2016年から政府は自動車の輸入を制限し始めた。2018年、ついにミャンマー政府は中古車政策によって、右ハンドル車の輸入が乗用車、商用車、共に禁止とした。実質、日本からの中古車輸出が不可能になった。

◆ミャンマー初のホンダ認定サービス工場

現在、ミャンマーにホンダの販売店ディーラーはない。各社メーカーのディーラーが進出している中では後発組といえよう。しかし、ヤンゴン市内では頻繁にホンダ車を見かける。日本などからの輸入車だが、フィット、インサイト、シビックなどがよく売られている。このような輸入車のアフターサービスをメインとする整備工場が作られた。ヤンゴンのHONDA AUTHORIZED SERVICE SHOP(HASS)は、2016年12月に現地ミャンマー資本100%で設立。整備アフターサービス(Service)と部品供給(Spare Parts)の2S店だ。

敷地は3700平方メートルと広い。大きな敷地内のワークショップは500平方メートル、ワークショップ内には7つのサービスストールがあり全(すべ)てリフトがついている。メカニックは11名、タイから来たメカニックが整備教育も行っている。現在、タイ人のリーダーが2名駐在している。毎月500~600台ほどの入庫があるという。

ミャンマーの自動車市場はミャンマー政府の自動車政策に左右される。毎年のように輸入車に対する税制が頻繁に変わることから自動車ビジネス関係者は頭を悩ましている。しかしこれから中古車から新車へと徐々に移行するのは間違いない。そのようなモータリゼーションの夜明けを感じ、各メーカーともミャンマーに販売店ディーラーを構築しつつある。

スズキは現地組み立て車のミニバン「ERTIGA」,4ドアセダン「CIAZ」の販売とともにミャンマー国内7都市にアフターセールスサービス網を置き、販売好調なようで街で新型スズキ車をよく見かける。

◆安心を感じるサービス工場作り

HASSを訪問するとわかるが、ヤンゴン中心部から少し離れた場所にある。「整備工場の場所確かに重要ですが、それ以上にリピーター顧客の獲得と安心感を持たれる対応が大切です」(上野氏)。具体的にHASSでは、来てくださった顧客は全(すべ)てデータ登録して定期的に連絡し点検時期を伝えている。工場側からコンタクトを取れるきっかけ作りを行っている。一方的なコンタクトではなく、顧客とのコミュニケーションが大切ということもスタッフに伝えていっている。

訪問いただいた顧客にどこを点検したか、顧客の車の点検履歴状況がわかる本(Service Maintenance Booklet)も渡している。上野氏は「あそこに持って行けば必ずすぐにやってくれるから安心だという雰囲気を作っていきたいです」と語る。

ミャンマー整備ビジネスの課題と今後の展望

ミャンマーでは整備工場が1000以上あるといわれているが実態は不明だ。しかし、しっかりした整備ができる整備工場が圧倒的に不足している。上野氏は「整備人材も育っていないためか、ミャンマーで定期点検という考え方がまだ普及していない。壊れてから直すというのが一般的」と指摘する。

整備ビジネスとしては定期的にメンテナンスしてくださる顧客がいることが望ましい。しかしミャンマーでは整備工場などのインフラのないところに、ある時突然自動車だけが入ってきたため、定期点検が根付いていないことが課題といえる。また部品入手が困難であるというのも整備ビジネスにおける課題となっている。「中古車はメーカーによる部品の供給責任がありません。そのためお客様の車は、なんだかわからない部品をつけていることが多いです。それで儲けている人々もいます。変な部品を買わされた人はもっと車の調子が悪くなる場合が多いです」(上野氏)。今後の展望としては、「ミャンマーで車を持っている人々の役に立ちたい、それだけです。車で問題あるのだったらその人たちの問題を解決してあげたい」と上野氏はいう。

ミャンマーは自動車政策が不安定で課題は山積みしている。しかしながら需要が段階的に新車に移る自動車市場の転換点を迎えている。変化が起きている市場には常に新しいビジネスチャンスが生まれる。投資環境が未整備ではあるが、5,000万以上の人口を抱えるミャンマー市場の潜在能力は高い。中長期的な視野でミャンマービジネスを行っていくことは必要だ。また、整備といえば人材育成も急務といえるだろう。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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