「ピュアな“魂動”の美しさを壊さずに」マツダ CX-3 改良新型、チーフデザイナーの想い

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マツダ CX-3 改良新型
マツダ CX-3 改良新型 全 24 枚 拡大写真

マツダ『CX-3』がデビュー以来4度目の改良を受け、初めてデザインにも手が入れられた。改良モデルのデザインを指揮したマツダデザイン本部チーフデザイナーの柳澤亮氏に、今回の変更意図やそのポイントについて聞いた。

◆美しさは壊さずに

----:今回初めてデザインに手が入れられましたが、CX-3のデザインは2016年のワールドカーオブザイヤーのデザイン部門において、ベスト3に入るほど評価の高いものです。今回の変更において、最もこだわったことは何でしょうか。

柳澤亮氏(以下敬称略):何が一番かというのは難しいのですが、ひとつは美しさというのはもともとCX-3が持っていた一番重要なポイントなので、それを壊さないようにするということがあります。その上で質を向上させていく、より上質なところにシフトしていくということがポイントであり、こだわったところです。

----:その中でもフロントグリルの変更は大きく印象を変えています。これまで横バーだったものをループ状にして、さらに奥行き感も演出しています。これはどういう考えのもとに変更されたのでしょう。

柳澤:色々なスタディはしましたので、実際にはもっと変更したものも考えていました。例えばパンパー全体や、フロントのボンネットなどの鉄板も含めて変えることもトライしてみたのですが、変に手を入れていくと本来持っている美しさがどんどんスポイルされていってしまったのです。そこで、それはやるべきではない、もともと持っている美しさは壊さないように、ということでこのグリルに落ち着いたわけです。

ラジエーターグリルもこの形に落ち着くまでに、違ったタイプ、例えばメッシュタイプなど検討しました。そうした中でCX-3が持つ伸びやかさを表現していくためには、横バータイプは大事な要素だったのです。ただ横バーをそのまま使うのでは何も変わりませんので、何がこのフロントエンドで大事なのかをもう一度見直しました。

現在マツダは“引き算のデザイン”をしようとしています。それを踏まえ、フロントエンドの様子を再構築しようと考えたのです。その時に何を重要視していくかというとやはり「シグネチャーウィング」がマツダの顔なのですね。もちろんブランドシンボルが一番にあり、その次にシグネチャーウィングとなるのですが、そのシグネチャーウィングをしっかりと強調して見せるためには何が大事か。それはラジエーターグリルの輪郭をしっかり見せる、これが大事だというところに行き着いたのです。

その結果として、横バーは大事だけどそれがメインではなく、シグネチャーがメインで横バーはその中で囲っていくことで輪郭をしっかり見せられる。そうすると遠くから走ってきた時にこの輪郭がしっかり見え、シグネチャーウィングが見える。そうした結果マツダ車だとわかることが大事だというところに行き着きました。

あとは、近くで見た時に精緻な立体感、奥行きのある造形に結びついていくと、お客様が自分のクルマを見た時に、あるいは洗車する時にいいクルマだと思ってもらえるように、ボディも当然美しくディテールにもしっかりと魂を込めるということをやったのです。

◆自分なりの「魂動の目」で見て

----:柳澤さんは現行『デミオ』のチーフデザイナーとして活躍されていました。その柳澤さんが今回の改良モデルのデザインを手掛けると決まった時に、どういうことをしようと考えたのでしょうか。そういった時に改良前のモデルを全否定し、新たに考え始めるということも耳にすることがありますが…

柳澤:もし僕ではなく他のチーフデザイナーが担当したとしてもきっと同じことをしていたと思います。今のマツダのデザインの基本はひとつです。「魂動デザイン」という名のもとに各カテゴリーのクルマを作っていますが、基本は全て魂動デザインの中に入っているのです。ということはCX-3として最初に出した時に、当然その完成形として出しているわけですね。従って、それを否定するということは魂動デザインの否定にも繋がってしまうということです。

もともとCX-3というのはマツダのカーラインナップの中でもピュアに魂動デザインを表現したクルマだと僕は思っています。その結果としてワールドカーオブザイヤーのデザイントップ3に入ったりしているのですから、これはいたずらに壊すべきではない。この美しさをもっとピュアに濾していって、残る美しさみたいなものをもっと引き立てていく、これが大事なのではないかと思いました。

----:それはとても難しいことですね。担当していたから昇華させられる、より美しくさせることが出来るという考え方もあれば、担当していなかったからこそ違う目線で見られるということもあったようにも思います。

柳澤:それはどちらもあると思います。僕は以前デミオを担当していましたので、もう一度デミオをやれといわれたら、時代が変わったことによってもっと出来ることが見えてきたと思います。

それとまた違って今回は他のチーフデザイナーが作った作品ですが、それを僕なりの「魂動の目」で見た時に、もう一度濾していく作業が出来るでしょう。当然完成形ではあるのですが、時代が変わって、3から4年経っているわけですから、そういったことを踏まえた視点で見た時に「もう少しこう出来るよね」といったことが見えてきたのです。

----:それがフロントグリルのデザインでありリアコンビランプであると。

柳澤:そうです。

◆露天風呂のようなインテリア

----:今回大きくインテリアのデザインが変わりました。特にセンターコンソールはエレクトリックパーキングブレーキを採用したことで、大きく変更されています。このデザインになったのは使いやすさを重視したからでしょうか。

柳澤:スタイリングだけを変えるのはインテリアで考えるとあまり意味がありません。やはり、特にインテリアは機能とデザインが一体になっていなければいけないのです。従って、CX-3の場合も機能とスタイリングを一緒に考えました。

CX-3の場合、空間作りとしては人間中心でありたい、そう考えた時に、メーターフードが目の前にあってそこからコンソールに繋がっていくわけですが、今までのクルマだとそのコンソールが一段低いところにあり、どうしても包まれ感が足りなかった。それが今回、エレクトリックパーキングブレーキなどの機能が入りましたので、センターコンソールの高さを出せましたし、幅も広く出来ました。

また、非常に立派なコンソールがセットされたことによってドライバーの包まれる空間がしっかり作れたと思っています。つまり、機能と空間でやりたいことがうまい具合にリンクした結果です。

----:このセグメントですと、横方向の広がり感を重視する傾向があります。その視点ですと、先代はコンソールが低くて横方向に抜けているので広がり感、広々感がありましたが、今回コンソールが高くなったことによって、ちょっと減ってしまったと捉える方もいるかもしれません。

柳澤:そこは考え方かなと思いますが、僕自身は決してスポイルされていないと感じています。ドライバーが座った時に主に目線は前を見ていますよね。前を見た時になんとなく視界に入ってくるエリアはインパネ周りでしょう。そこの部分は横通しにしています。

メーターフードがあって丸いルーバーがあってそこから横にスカッと抜けていく空間はきちんとキープしながら、横通しの広々とした見せ方をしているのです。

その一方で、下半身はしっかりと包み込まれている、ある意味露天風呂みたいなものです。上は開放感、下はお湯に浸かった感じ。そんなイメージです。

----:改良前のクルマでは助手席前にエアコンの吹き出し口が長くとってあり広々感を感じさせていましたが、新型でそれがなくなってしまったのは少し残念にも思います。

柳澤:実際に見ていただけるとわかりますが、2トーンで仕上げています。上は黒のインパネがあり、そこに白ないしはグレーの横のパネルが付いているのです。現行型は確かに黒いスリットでエアコンが繋がっていましたが、基本的には新型でもそこは水平基調をキープしています。

我々は人間中心としてドライバーを重視していますが、助手席に乗る方も大事だと思っています。助手席に座った時に改良前は、確かに横通しの広々感はあったかもしれませんが、今回のポイントは、包まれ感、安心感です。これまであまりなかったソフトパッドはしっかり面積を取り、それがインパネに繋がり、道路に繋がり、目線の彼方に繋がっていくということを表現することによって、安心感に繋げているのです。日本では時速100kmまでですがアウトバーンなどだともっと飛ばしますよね。その時にこの安心感はとても大事なのです。そういう高い速度域で考えた時でも、安心感のあるパネルは大事だと思ってデザインしています。

----:そういう考え方はきっとデミオとは違うのでしょうね。

柳澤:デミオとCX-3の速度域の違い、日常使いを重視するか、もう少しロングレンジ、高い速度域を重視するかという、クルマのキャラクターと使われ方の違いが出ていると思います。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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