【トヨタ カムリ 800km試乗】実はライバル不在? トヨタの“良いクルマ”への想い、仕立てと走りに

試乗記 国産車
カムリのフロントビュー。トヨタは「ビューティフルモンスター」を謳っていたが、実物は至ってオーソドックスで好感が持てた。
カムリのフロントビュー。トヨタは「ビューティフルモンスター」を謳っていたが、実物は至ってオーソドックスで好感が持てた。 全 21 枚 拡大写真

トヨタ自動車のミドルクラスセダン『カムリ』で800kmほどツーリングする機会を得たので、インプレッションをお届けする。

カムリはアメリカ市場のミディアムクラスにおけるベストセラーモデル。2017年にデビューした現行モデルは1980年に登場した初代から数えて第10世代にあたる。アメリカでは2.5リットル+8速AT、2.5リットルハイブリッド、3.5リットルV6の3つのパワートレインがあるが、日本ではハイブリッドのみが販売されている。

試乗車は中間グレードの「G」にカーナビなどを追加装備したもの。ドライブは東京を起点とした伊豆箱根周遊と北関東周遊の2回で、総走行距離は832.0km。おおまかな道路比率は市街地3、郊外4、高速2、山岳路1。ドライブコンディションは全行程ドライ。1~2名乗車。エアコンAUTO。

最初にカムリの長所と短所を5つずつ箇条書きにしてみよう。

■長所
1. ミドルクラスとしては抜群に良い燃費。
2. 突き上げ感が強かった旧型から劇的に改善された乗り心地。
3. アメリカ市場向けながら日本での使用にも心を配ったユーティリティの高さ。
4. 低重心化がモロに奏功したシャシーのダイナミック性能の高さと落ち着いた動き。
5. コスト制約のきつさをデザイン上の工夫で上手くカバーしたインテリアの仕立て。

■短所
1. アメリカンミディアムのイメージとは裏腹に直進安定性はそれほど良くない。
2. 絶対的には素晴らしいが左ハンドルモデルに比べると若干負ける疲労軽減。
3. シャシーの素性の良さをイマイチ生かせていない大味なハンドリング。
4. 車線逸脱警報など安全装置がやや過敏。
5. 欲を言えばもうちょい動的質感を高めてほしかった。

トヨタがクルマづくりについて良いと信じることをめいっぱい詰め込んだクルマ、カムリの特質を一言で言い表すならば、これに尽きるだろう。アメリカ市場におけるミディアムクラス、欧州で言うところのDセグメントセダンとして十分に広い室内空間、荷室を持ち、静かで乗り心地が良く、ロングランでも疲れにくく、低燃費によって走行コストも安くてすむ。スタイリングはさして目立つような奇抜さはなく、さりとて景色に埋没してわからなくなるほど薄いキャラクターでもない。耐久性については未知数だが、これまでのトヨタのアメリカ向けモデルの特質から推察するに、最高レベルを狙っていることだろう。

◆セダンに求められる本質を追求した
トヨタ カムリのサイドビュー。全長に対してキャビン長をできるだけ長く取っていることがわかる。
筆者は昨年夏、アメリカでカムリの非ハイブリッドモデル、2.5リットル直4+8速ATの普及版グレードで5000km以上走ってみた。ロサンゼルスから800km先のサンフランシスコ北部、サンラフェルへ。その後、シエラネヴァダ山脈を越えてネヴァダ州、ユタ州、さらにワイオミング州まで1700km以上を1日で走破。皆既日食を見た後、帰りはワイオミング北部の大森林地帯地帯からアイダホ州を抜けてアメリカ横断高速80号線に戻り、サンフランシスコ経由でロサンゼルスに帰着するというハードなドライブだった。

そのドライブを通じて感じた最大のインパクトは疲労感の少なさ。どれだけ連続走行してもクルマから降りるときにすっと立ち上がることができ、5000kmあまりを走り終えても体のどこにも痛み、違和感を感じなかったのだ。サスペンションは柔らかく、アメリカ内陸部によくあるグラベル路を走っても不快感はほとんどなかった。もちろん良路では不満があろうはずがない。

燃費は制限速度80マイル時、実際の流れは90マイル時(約145km/h)くらいというハイスピードクルージングを多分に含んでもなお15km/リットルをゆうに超えた。長距離ドライブ中に多少クルマの中を散らかしても簡単に片付けたり掃除ができるような隙間の作り方、フロアマットの配置になっているのも、アメリカモデルらしさを感じされられたところ。とことん生活密着型のクルマという仕立てだった。

もちろん欠点もあった。ドライビングプレジャーが希薄で運転はやや退屈。とくにワイオミングとアイダホの州境をまたぐ制限速度100km/h強のワインディングロードでは明らかなステアリングインフォメーション不足を感じた。8速ATはせっかく多段なのにローギア側の変速ステップがワイドすぎて、エンジンのポテンシャルを100%引き出すような仕様ではそもそもなかった。直進感は大して良くなく、気を抜くとふらつき気味になりやすかった。

が、これらの欠点を差し引いてもカムリの出来は素晴らしかった。カムリ発表時にトヨタが主張していたようなドラマチックさはほとんど感じなかったが、そもそもカムリはそういうクルマではない。クルマを買うのにあれこれ悩むのが嫌なカスタマーが「これを買っておけば間違いない」というブランドへの信頼性だけでカムリを買っても、快適性、経済性、故障の少なさから中古車になるときの下取り価格の高さまで、後悔するようなことはほとんどないだろう。

最近はクルマづくりの原価上昇というプレッシャーを受けているため、ノンプレミアムの大衆車に妙に色気を加味して付加価値を高めようとする例が増えているが、カムリはそんなムーブメントとは完全に一線を画している。長距離移動を含め、セダンに求められる本質的な機能や性能については妥協を許さず追求。内外装については大衆車の分際を逸脱するような贅沢は一切ないが、デザインの妙で低コストをうまくカバーしていた。それ以外の部分については大胆に切り捨てたという感があった。

もちろんそういうカムリに満足できない層は多数いることだろう。もっと運転に楽しさがあったほうがいい、もっと静的・動的質感が高いクルマがほしい、見目麗しい艶やかな内外装のデザインがほしい等々…。カムリの開発陣はそういうファクターを追い求めるカスタマーにも色目を使うのではなく、どうぞ自分に合ったクルマを買ってくださいというスタンスを守り抜いた。これこそノンプレミアムの矜持というものだろう。

◆トヨタが思い描く「理想のセダン」を90%実現した
トヨタ カムリの前席。仕立ては至って簡素だが、サイズ、クッション圧とも実にしっかりしていた。
さて、日本版カムリであるが、そんなアメリカ版カムリと特性はほとんど似通っている。ドライブフィールはダル。ワインディングを走ってもクルマとの対話性が希薄なため運転はファンではないが、低重心化された新世代プラットフォームのおかげか、安定性は非常に高く、またコーナリングの限界性能にもかなりの余裕があり、安全だ。乗り心地は旧型に比べて劇的に向上した。とくに後席は不整路面での突き上げが大幅に減ったのが印象的で、大多数の人はこれで満足できるだろう。居住性は良く静粛性も高い。

あくまで感覚的なものだが、カムリはトヨタが思い描く理想のセダンの90%くらいを持つクルマだと思った。この上にはフルモデルチェンジされたばかりの『クラウン』があるが、ハッキリ言ってカムリで十分満足できるだろう。クラウン、さらには『レクサスLS』であっても、クルマづくりの哲学はカムリとほとんど変わらないし、人に見せびらかすというファクターを除けば得られる満足度も大差ないのではないかというのが率直な印象だった。

もう少し細かく見ていこう。まずはシャシー性能だが、トヨタの新世代アーキテクチャTNGAによって全面更新された新シャシー&ボディは、ポテンシャル的にはきわめて高いものがあるように感じられた。重心が低く設計されているため、旧型に比べてサスペンションは柔らかいのにロール角は浅め。高速道路で大きめのアンジュレーション(路面のうねり)を通過しても、揺動の収まりは実によかった。

惜しむらくは、そのポテンシャルの高さをクルマの味付けに生かしきるチューニングがいまひとつ決まっていない。それは高速道路での直進感の希薄さと、山岳路でのピリッとしないハンドリング。山岳路ではステアリングフィールのあいまいさを無視して旋回時やブレーキング時にどーんと荷重移動をかけてやると結構いい動きをしていたので基本は悪くないはず。簡単なことではないが、ステアリングの切り足し、切り戻しにロール量がきっちり比例するようなチューニングを頑張れば、ツーリングカーとして3倍素晴らしくなりそうな気がした。
トヨタ カムリ 新型のエンジンルーム。ストラットタワーはパフォーマンスロッドで締結されていた。走行性能向上のためだろう。
次にパワートレイン。2.5リットルの新型エンジンと2モーターハイブリッドシステムを組み合わせたもので、エンジンと電気モーターの最大合成出力は211psであるという。今回のツーリングで印象に残ったのは、スロットル操作に対する反応のナチュラルさと燃費だ。

トヨタの2モーターハイブリッドは、3代目プリウスや旧型カムリくらいまではスロットルの踏み込みと得られる加速力の一致性が悪く、登り勾配で速度が落ちたりクルーズコントロールを使わない巡航時の速度の振れが大きかったりしたのだが、4代目プリウスあたりからそのあたりが急に改善されてきた。カムリはそのプリウスにゆとりをプラスしたような感じで、たとえば発進加速のさい、大排気量のCVT車のようにふわっと軽く目標速度まで到達するというフィールになった。

ツーリング燃費はミディアムクラスセダンとしてはこれまでのチャンピオンであったホンダ『アコードハイブリッド』に並びかけるか少なくとも肉薄する、トップランナーの1車と言える良さだった。ドライブ中、満タン法で3回燃費を計測してみたが、3回とも22km/リットル台であった。

標高差800mの伊豆・箱根ドライブでも平地が主体の北関東ドライブでも同じようなスコアであったことから、ハイブリッドシステムのエネルギーマネジメントはかなりしっかり作り込まれているのではないかと思われた。ちなみにドライブ中はクルマの慣性エネルギーを大事に考えるくらいで省エネ走法はしなかった。エコラン気味に走ればロングランで25km/リットルを超えるのはたやすいことだろう。

ロングツーリングへの適合性は基本的に高い。疲労感は小さく、シートの身体へのフィット感もなかなかだった。乗員の身体の収まりも前後席ともに良い。ただ、興味深いことに、昨年アメリカで乗った左ハンドル仕様に比べると若干落ちるような気がした。原因は定かではないが、アメリカのほうがカムリが得意とする道の比率が高かったことによるものか、さもなくばカムリがもともと左ハンドルを基本に設計されたクルマであることに起因しているかであろう。

インテリアは素材的には大衆車仕立てだが、それが気にならないよう緻密にデザインされている。大衆車の場合、高級感を出そうとして無理をするとかえって貧乏臭く見えたりするものだが、カムリは高級に見せようとするのではなく、アメリカの庶民向け新築集合住宅のような簡素な心地よさを出すためにデザイナーが全力投球したような感じで、飽きが来にくいのではないかと思われた。
カムリの前席を助手席側から見る。ちみつにデザインされ、それでいて暑苦しさのない形状だった。
シートもダブルステッチなどの工法ではなくミシンで袋状に縫った表皮を裏返して縫い目を隠す、モロに大衆車仕様の仕立てだが、シート自体の機能がしっかりしているので、そんな見た目など本質には関係ないと思うカスタマーならまったく気にならないだろう。

運転支援システム「トヨタセーフティセンスP」は、アダプティブクルーズコントロール、車線逸脱防止、ハイ/ロービーム自動切換えヘッドランプなどがパッケージされた、今どきの安全システムとしては中庸的なスペックだが、おおむね妥当に作動した。

ただし、車線逸脱防止機能はスバル「アイサイト」のように車線中央をキープするようアシストするタイプではなく、あくまで危ない時の緊急回避レベルにとどまった。その警報はいちばん感度を低くしても結構シビアで、まだラインを踏むまでには余裕があるだろうというくらいの段階で警報を出す。道幅が狭めの山岳路などではしじゅう鳴ることになるので切りたくなる。ヘッドランプのハイ/ロー自動切換えは便利だが、できれば『プリウスPHV』のように対向車や先行車を避けてハイビーム照射するアクティブハイビームが欲しくなるところ。

◆日本ではライバル不在?
トヨタ カムリのリアビュー。アメリカモデルらしい伸びやかさがある。
まとめに入る。カムリはクルマの車格がどうのこうの、ドライビングの楽しみがどうのこうのといったことに興味はないが、休日にはお気に入りのリゾート地までひとっ飛びで向かうようなライフスタイルを志向するようなカスタマーにはもってこいのクルマだった。300万円台という価格帯は決して安くはないが、ちょっと裕福な人のためのスタンダードになり得るだけのフォースは十分に持っている。

日本でのライバルは内外のノンプレミアムDセグメント全般。本来はホンダのアコードハイブリッドがクルマの性格や走行性能、ハイブリッドパワートレインの経済性などの諸要素がモロにかぶるため最も激しく競合するところなのだろうが、アコードはアメリカではすでにフルモデルチェンジ済みで、今日本で売られているのは旧型。今後の導入についても不透明なところがあるため、さすがに総合力では現行カムリのほうが優位だろう。

ターボディーゼルエンジンを持つマツダ『アテンザ』もいいライバルだが、クルマのキャラクター、ユーザー層の両面であまりかぶらないため、実際にはコンフリクトは大して起きないかもしれない。輸入車のフォルクスワーゲン『パサート』も仕様的には好敵手だが、これもアテンザ同様、クルマの仕様策定や味付けにおいて何を大事にするかという思想がトヨタと結構違うので、お互いにすれ違うような感じであろう。

とどのつまり、カムリを選ぶ決め手になるのはライバルとの比較より、トヨタのクルマづくりの思想と自分の価値観が合うかどうか、セダンというボディタイプのモデルを選ぶかどうかといったことのほうが大きい。クルマ選びで失敗したくない、あるいは走行距離が多く、経済性も含めて安心して10年使い倒せるようなクルマが欲しいというなら、カムリはうってつけの選択肢だ。現在、カムリは月間1000台超と、セダンとしては堅調な販売を記録しているが、必要もないのに高価なSUVや多人数乗車ミニバンを買う人がこれだけたくさんいることを考えると、もうちょっと売れてもいいのではないかとも思うところだった。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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