【川崎大輔の流通大陸】ベトナム自動車タイヤ市場の現状

自動車 ビジネス 海外マーケット
ホーチミン市内の通勤ラッシュ
ホーチミン市内の通勤ラッシュ 全 6 枚 拡大写真

2018年6月にベトナムのホーチミンを訪問。現地で自動車タイヤを生産、販売するYOKOHAMA TIRE VIETNAM INC(以下、ヨコハマタイヤ)のGeneral Directorである中村征希氏、瀬崎祐介氏(Deputy General Director)にベトナムでの自動車タイヤビジネスについて話を聞いた。

◆急成長するベトナムの新車市場

ベトナム自動車工業会(VAMA)によると2017年の新車販売台数は27万2750台。2012年には8万台になった新車市場だが、5年で3倍近くの市場へと回復した。市内の自動車が増え朝晩の交通渋滞が年々激しくなってきている。

「ベトナムの自動車市場ですが、2025年には販売台数80万台の予測もあります。それにより、タイヤ業界は今後8%以上の成長を継続すると見ています」(中村氏)。更に「今までは生産材 トラックなど商用車中心の市場でしたが 昨今の乗用車の販売増で市場は成長していくと見られています」と指摘する。

一方で、2018年年初からの実質輸入の規制が出た。その影響で、これからベトナム国産自動車が増えるか、輸入車が増えるのかは気になるところだ。

◆ベトナムのタイヤ市場について

ベトナムのタイヤ小売店は個人商店という形が中心である。個人商店では、店舗を持っているところもあれば、店舗がなく道端で売っているところもある状況だ。日本にあるオートバックスやイエローハットのような大手流通業者はベトナムでは見かけない。一方、個人商店によっては最近タイヤ販売だけでなく洗車や軽整備(オイル、バッテリー交換)や、カーフィルムなどを複合的に取り扱うところも出始めてきている。

業態としては、各エリアでディストリビューター制をとっている。地方の有力な企業がタイヤのディストリビューターとなり、地方の小売店へ卸販売を行っている。各エリアのディストリビューターは、マルチのタイヤメーカーの取り扱いを行っており、有力な企業の力は一層強まっていく構造となっている。ベトナムで販売していくには彼らに任せるしかない部分が多く残っている。

最近の傾向として、今まで小売り販売店に卸販売を行っていたディストリビューターが、最近は自ら小売りも行うようになってきた。今後はディストリビューターによる小売り化、そして多店舗化が進んでいきそうだ。

ベトナムにおける自動車個人所有の増加もあり、サービスがしっかりしたところで、という流れが起きている。そういった意味で、ベトナムにおけるタイヤ市場には2つの大きな変化が生まれてきている。1つ目には個人商店からの総合カーケアへの拡大、2つ目にはディストリビューターからの小売り多店舗化への進化、これら2系統の可能性が想像できる。

◆輸出工場だけではない、ヨコハマタイヤの強みとは?

現在、ベトナムの工場でタイヤを生産している。しかし生産だけでなく、ベトナム国内でのタイヤの販売も行っている。「生産しているものはラジアルタイヤでなくバイアスタイヤです。輸出用にライトトラックやフォークリフト用タイヤです。ベトナム国内用には2輪やライトトラック用タイヤを作っています」(瀬崎氏)。更に「2年前から輸入事業を開始し、主に乗用車用ラジアルタイヤの販売を開始しました。今後輸出の比率が増えてきますが、輸入事業を拡大してベトナムでのプレゼンスを向上させることが使命です」と語る。

ヨコハマタイヤ(ベトナム)の強みとして、工場と販売の一体(いったい)経営で、技術、商品に強い営業体制が構築できることだ。また、日本式サービスの展開を積極的に行っている。単に看板、インテリア、 機器の支援だけでなく、日本式おもてなし教育を小売り販売店のスタッフにも行っている。瀬崎氏は「(ホーチミンにある)イオンさんや高島屋(たかしまや)さんの人気を見てわかるように、日本式のサービスに興味があるようです。ベトナム人は学ぶのが好きなので、(日本式おもてなし教育に)皆さん熱心に参加しています。」と言う。

ベトナムでビジネスを行っていく課題

ベトナムでビジネスを行うには複雑な現状や、動向をきちんと把握する必要がある。ベトナム国内における法務・税務が不透明で、頻繁に変わるのは大きな課題だ。例えば、2018年1月1日付で出された自動車輸入規制などがある。輸入された自動車の品質管理を新たに義務付ける制令116号を交付し、輸入自動車の品質証明を義務付け、かつ、輸入された車について輸入ロットごとに抜き打ちの検査が必要となった。このような市場に対しては、「マーケットの情報を逐次把握する必要あります。また他(ほか)のプレーヤーの動きを注視したり、自動車メーカーとの連携強化していくことが重要になります」(中村氏)。

また人材の問題もある。信用できるスタッフを採用し、長く勤めてもらうことが必要だ。実際にベトナムでは離職率は非常に高く、仕事を覚えたと思ったらやめてしまうことが多いためだ。中村氏は「駐在員を含め、この国の成長以上に成長しようという強い意志を持つ必要あります。そうでない人はベトナムでのビジネスは難しいかもしれません。好奇心旺盛(おうせい)でと実行力に富み、変化に敏感である必要もあります」と指摘する。

ベトナムで自動車タイヤビジネスを行う魅力とは?

中村氏は「まさにベトナムがモータリゼーション前夜であるということが魅力です。今後の展開としては、小売店の更なる拡大展開を行い顧客を囲い込んでいくこと。また、市場成長以上の成長を持って、工場拡張を行っていくことです」と語る。1億人規模の人口、旺盛(おうせい)な消費需要、地理的な要因、アセアン域内における関税の自由化も大きなベトナムの魅力だ。ベトナムでは個人が車を購入できるようになると、既に大きな人口を持つ市場のため一気に拡大が加速する可能性がある。

また、タイヤ産業の特殊な魅力となるが、ベトナムはゴムの産地として世界で第3位となっており、現地で原材料を調達できるメリットは大きい。

変化が起きる市場には常に新しいビジネスチャンスが生まれる。自動車タイヤビジネスの大きな広がりがそこに存在していることは間違いない。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  2. 最後のフォードエンジン搭載ケータハム、「セブン 310アンコール」発表
  3. 船上で水素を製造できる「エナジー・オブザーバー」が9年間の航海へ
  4. 高機能ヘルメットスタンド、梅雨・湿気から解放する乾燥ファン搭載でMakuake登場
  5. 「三菱っぽくないけどカッコいい」ルノーの兄弟車となる『エクリプス クロス』次期型デザインに反響
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 米国EV市場の課題と消費者意識、充電インフラが最大の懸念…J.D.パワー調査
  2. 低速の自動運転遠隔サポートシステム、日本主導で国際規格が世界初制定
  3. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  4. BYD、認定中古車にも「10年30万km」バッテリーSoH保証適用
  5. 「あれはなんだ?」BYDが“軽EV”を作る気になった会長の一言
ランキングをもっと見る