【日産 リーフ 新型 3300km試乗】ツーリングギアとして申し分のないパフォーマンス[前編]

試乗記 国産車
日産リーフで3300kmを走った。写真は鹿児島市の「磯海水浴場」にて。
日産リーフで3300kmを走った。写真は鹿児島市の「磯海水浴場」にて。 全 22 枚 拡大写真

日産自動車のCセグメントコンパクトEV『リーフ』新型で東京~九州を3300kmあまりツーリングする機会を得たので、リポートをお届けする。

昨年秋に発表された第2世代リーフはボディ、シャシー、システムの多くを初代からキャリーオーバーして作られた、いわば超ビッグマイナーチェンジ版だが、メインバッテリー容量が旧型比で10kWh増しの40kWhに大型化、モーター出力も80kWから110kW(150ps)に増強され、EVとしての性能は大幅アップ。ボディ補強によって快適性、操縦性も向上させたという。

試乗車は最上級グレードの「G」。運転支援システム「プロパイロット」、LEDヘッドランプ、レザーインテリアなどを標準装備する豪華仕様である。試乗ルートは東京~鹿児島間で、総走行距離は3338.7km。高速道路は全行程の1割未満で、大半を市街路、郊外路で過ごすドライブとなった。乗車人数は東京から北九州までは1人、九州内では状況によって1~4人。エアコンAUTO。天候はドライから豪雨までさまざま。また、一部区間を除き気温は氷点下~1桁台という低温環境下でのツーリングであった。

試乗を通じて得られたリーフの長所と短所の概要は次のとおり。

■長所
1. ファントゥドライブなクルマに仕上がっている。
2. バッテリー容量アップで充電スポット選びの自由度が大いに高まった。
3. 低重心パッケージを実感させられる素晴らしいハンドリングとフラット感。
4. 高速走行中に横から暴風で煽られても針路を乱されにくい空力性能。
5. 静粛性が高く、パワートレインからの微振動も皆無。

■短所
1. 冬でもバッテリーが熱を持ちやすく充電速度が制限されることが多い。
2. 電池の大容量化に現行ChaDeMo急速充電器の性能が追いついていない。
3. テレマティクスの充電スポット情報に充電器の出力を加えてほしい。
4. 乗り心地にもう一歩“上質感”が欲しい。
5. 根本的改善がなされなかった後席居住性の悪さ。

まずは総評から。現行リーフを駆っての3300kmドライブは非常に楽しく、非常に大変なものであった。走る、曲がる、止まるといったクルマの動的性能は良好で、運転している瞬間のドライビングプレジャーはかなり大きい。とくに優れているのはコーナリングでの身のこなしや高速でのフラットライド感で、走っていて思わずフフンといい気分になってしまうほどだった。

そのフィールは独特だ。指一本ぶんのステアリングの切り増しにぴったり反応するようなキレキレのスポーツハッチのようでも、油圧感たっぷりのサスペンションで滑らかに路面の凹凸を吸収する高級スポーツセダンのようでもない。足のセッティングはどちらかというとヤワヤワの部類に入る。にもかかわらず、ロングドライブや山岳路ドライブのようなタフな走りの受け入れ性は抜群に良い。

それはひとえに床下に重いバッテリーを敷き詰めることによるEV特有の低重心パッケージの恩恵だろう。ヤワヤワの足なのにコーナリング時のロールは小さく、また揺れの集束も素早く、車両や路面のインフォメーションの伝わりもいいという不思議な感覚であった。人間で言えば、普段は存在感は薄いのだが、気がつけばメチャクチャいい人というパターンであろうか。実は旧モデルも同じようなフィールを持っていたのだが、現行リーフはそれがさらに大きくブラッシュアップされているように感じられた。
日産リーフのフロントシート。リラックス感は結構高かった。
室内は明るく居住感も良好。ただし後席の床が高く、着座姿勢がややきつくなるという点は旧型から抜本的な改善がなされなかった。新世代装備である運転支援システム「プロパイロット」は、ライバルに対して優越するという感じではないが、おおむね良く機能した。アクセルペダルのオンオフだけで信号停止を含めた加減速のほとんどをまかなえる「eペダル」は出色の出来で、市街地、郊外路では文字通りほとんどペダル1本で走ることができた。またワインディングロードも道なりに気持ちよく駆け抜けるという感じであれば、2本ペダルよりもむしろリズミカルで爽快ですらあった。

これでEVのウィークポイントである航続距離の短さや充電時間の長さがある程度解消されていれば文句なしだったのだが、こちらのほうは100%充電からの走り出しの航続距離が伸びたこと以外は旧型と大差がなく、超ロングドライブに使うのに十分とは到底言い難いレベルにとどまった。バッテリーの大型化に対するChaDeMo急速充電器の性能不足は顕著。また、リーフのバッテリーパックが冷却システムを持たないためか、急速充電の受け入れ性が思ったほど進化しておらず、30分で充電できる電力量は旧型の30kWh版と大差なかった。30分の急速充電回数は鹿児島までの往路1460kmがのべ15回、復路1550kmがのべ13回(+低速1回+普通1回)にのぼった。

もしEVに関する予備知識がほとんどないカスタマーが「満充電でまず300km。そのあと急速充電1箇所ごとに200kmとして、4回充電すれば1000km行けちゃうんじゃんすごい!!」といったノリでリーフに手を出すと、こんなはずではなかったと不満タラタラになることだろう。が、現時点でのEVの技術水準がこの程度にとどまるということを承知で使うのであれば、冒険心を満たす玩具としてとても面白いと思った。スピード命の新幹線が走る世の中にあえて鈍行で出かける、あるいは飛行機ではなく船旅をしてみるといった感覚である。

何の見返りもなくただ遅いというのでは不満がたまるだけだが、リーフには見返りがちゃんとある。前述のように、現行リーフは爽快無比なドライブフィールを持っている。それに加えてのプラス材料は、日産がEVユーザーに提供している料金定額制充電サービス「日産ゼロエミッションプログラム2」の存在だ。EVでの超ロングドライブは普通のクルマに比べ、間違いなく手間と時間がかかるが、月に2160円払えば、ヒマと冒険心次第でいくらでも走っていいですよと日産が言っているわけである。諸国漫遊好きなカスタマーにとっては、格好の遊びの道具になり得るのではないかと思われた。

◆ツーリングギアとして申し分のないパフォーマンス
日産リーフ
では、細部についてみていこう。

まずは電動パワートレインとシャシーのパフォーマンスについて。総論でも述べたように、そのパフォーマンスはツーリングギアとして申し分ないものだった。ファミリーカーとしてはもちろん、走り重視の高速車のグループに入れてもなお出色の部類に入る。

旧型リーフとの違いとして、主基たる電気モーターの出力が3割増しになったことがクローズアップされているが、絶対的な出力増強よりも大きな違いとして感じられたのはスロットルを踏んだときのパワーの出し方のデザインだった。旧型リーフがパワフルではあるがスロットルを踏んだ時の加速が一本調子であったのに対し、現行リーフは手垢のついた表現を借りれば、まさしく“意のままの加速”だった。

たとえばスロットルの踏み込みを2割から8割に高めようとするとき。踏み込み増加には1秒もかからないのだが、4割、5割…と踏み込みを増やすのに比例してリアルタイムに加速が立ち上がるような感じだ。「もっと踏まなければと思っていたけどこのへんで十分だったか」という見切りもつけやすく、ドライビングにおいて加速しすぎなどのオーバーシュートがほとんどない。

これは内燃機関車とはおよそ異なる、EVだからこそできるチューニングであって、現行リーフになってそれが具現化されたのは非常に好印象だった。ちなみに同じ電気モータードライブでもバッテリー出力を超えたさい、エンジンの発電力がMAXになるまでに結構なタイムラグがあるシリーズハイブリッドともまた別物であった。

このスロットルチューニングの良さはさまざまなシーンで発揮される。短い登坂車線で大型車を一気に追い抜くときも、スロットルを踏み込んだものの加速開始が思ったより遅かった、加速力が思ったより弱かったといったことがなく、常に予測とほぼ合致した加速を得られた。気持ちいいだけでなく安全でもある。こういう加減速マップを作り上げたからこそ、スロットル一本で発進加速から巡航、停止までをこなせるeペダルを違和感のない、ごくナチュラルなものにすることができたというものであろう。

◆Cセグトップクラスのフラット感
日産リーフのサイドビュー。プロポーションはエンジン車とほとんど変わらず。
リニアなパワートレインと協調してリーフの走りを素晴らしいものにしていたのが、ボディ&シャシー側の性能だった。ワインディングロードでの走り、高速道路やバイパスなどでの追い越しに伴うレーンチェンジなど、荷重移動が発生したときの動きは大変に滑らかで、かつ落ち着いたもの。履いているのは何の変哲もないエコタイヤ、ダンロップ「エナセーブ」であったが、タイヤへの依存度は低く、タイトコーナーでも四輪グリップ的な走りに終始。ウェット路でも安定性は高かった。高速クルーズ中にアンジュレーションで車体が上下に揺すられたときの動きも穏やかで、フラット感は内外のCセグメントと比べてもトップクラスであった。

面白いことに、これだけ動的なバランスが素晴らしいのに、路面がざらついたところでのノイズやバイブレーションの処理は凡庸で、段差や路面の損傷部分を踏んだときのサスペンションの動きも大して滑らかではない。ゆえに、チョイ乗りではリーフは単なる大衆車のようにしか感じられない。推察するに、前述の美点は足回りの部品の上等さではなく、床下に重量物のバッテリーパックを積むことによる極端な低重心というパッケージングによるもののようだった。

起き上がり小法師を想像して頂ければわかりやすいが、クルマだろうが船だろうが動くものは重量物が上のほうにあるトップヘビーな状態より重石が底に集中配置されているほうがはるかに安定する。クルマも低重心だとサスペンションを過度に固くしなくてもロールを抑制でき、また揺れの集束についてもショックアブゾーバーへの依存度は低くなる。クルマづくりにおいて、低重心は七難隠すと言われるが、まさにそのとおりだなと思った。

また、見方を変えればEVは電動化部分についてはコストがかかるものの、内燃機関車に比べると重量物をどう配置させるかという制約が弱いぶん、シャシー側ではむしろ低コストで良いクルマを作りやすいとも言える。将来のクルマづくりのバリエーションが楽しみになるところだ。

◆ドライブの新しい楽しさがあるeペダル
日産リーフのインパネまわり。
このツーリングでは、1本足打法のeペダルを積極的に試してみた。eペダルはクルマのスロットルペダルを電車のマスコン(1本のレバーで加速~ブレーキの操作を行う)に見立てたようなもので、スロットルの踏み込みの中間地点に速度維持の均衡ポイントがあり、それより深く踏むと加速、踏み込みを弱めるとモーターの発電抗力で減速する回生ブレーキが働くというものだ。

ブレーキを踏む、踏まないは別にして、eペダルモードに入れたのは全行程のおよそ3分の2に及んだ。実際に使ってみて、eペダルはドライブの新しいロジックとして、とても面白いものに思えた。

横浜の日産グローバル本社を出発してから最初の充電を行った走行距離226km地点まで、一度もブレーキを踏まずに行けるか試してみたが、不意の飛び出しや先行車両の急ブレーキなどがなかったことにも助けられ、簡単に行けてしまった。

スロットルを全閉にしたときの減速度は結構大きく、60km/h走行時にわりと目の前の信号が赤になりそうということでスロットルペダルを戻しても、下手をすると停止線前で停止してしまうほど。高速道路でも新東名110km/h区間をクルーズ中、追い越し車線に大型トラックが不意に割り込んできた時の減速すら簡単にこなせた。

面白いことに、ワインディングロードを気持ちよく走るようなときすらeペダルは有効だった。別に他車と競争をしているわけではないし、公道で常識を著しく逸脱したような走りはそもそもすべきではないので、直線のエンドぎりぎりまで加速してフルブレーキングというような乗り方ではない。直線である程度スピードを乗せた後、コーナーが見えたらタイミングを見計らってスロットル全閉でブレーキをかける。この足1本でのドライビングはとてもリズミカルなもので、2本ペダル、3本ペダルともまた違う楽しさがあった。

なお、1本足でずっとスロットルをコントロールすると足が疲れるのではないかという先入観を抱いていたが、それは杞憂だった。よくよく考えてみればクルーズコントロールを使っている時以外はブレーキ、アクセルのどちらも操作していない時間などごく僅かで、速度調節の延長線上で停止までできてしまったほうが楽に決まっている。

次にプロパイロット。日産は同一車線自動運転技術をうたっているが、これはいささか大げさな宣伝文句で、実態は一般的なアダプティブクルーズ+車線維持アシストという機能にとどまる。車線認識率が他社のシステムに比べて秀でているようにも感じられない。もちろん過信は禁物である。ほか、現行リーフにはハイビーム、ロービームを自動で切り替える装置がついた。ないよりはずっといいが、車両価格やEVというクルマの先進イメージを演出するには、先行車や対向車を避けて照射するフルアクティブハイビームが欲しくなるところだった。

後編では電費、充電、居住感などについて述べる。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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