【ミシュランタイヤ勉強会】ノイズテストは日本の太田サイトのみ---重要拠点

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ミシュラングループ唯一の半無響音室
ミシュラングループ唯一の半無響音室 全 7 枚 拡大写真

ミシュランというと、皆さんはどんなイメージをお持ちだろうか。グルメガイドとしてよく知られている『ミシュランガイド』も、ミシュランタイヤが作っている。

『ミシュランガイド』は、もともとは(今も)旅行ガイドで、そこに掲載されている地図は、縮尺が正確なことで定評がある。第2次世界大戦では敵国となるドイツ軍がミシュランマップを複製して使ったという話があるほどだ。タイヤメーカーとしては、誰もがその高性能を認める一流メーカーで、タイヤシェアは現在、世界第2位。

そんなミシュランタイヤが、タイヤ開発において日本と深く関わりがあるのをご存知だろうか。じつは、群馬県太田市にある日本ミシュランタイヤ太田サイトは、フランス、アメリカと並ぶ世界3大研究開発拠点の一つなのだ。去る8月1日に、ミシュランにおける太田サイトの役割と、その研究内容である静粛性に関する勉強会が行われたので報告したい。

太田サイトの重要な役割の一つは、冬路面全般の研究や次世代ウインタータイヤに向けた研究だ。ミシュランのスタッドレスタイヤが日本で開発されているのは、今ではかなり有名な話だ。

それ以外にもう一つ重要な研究が行われている。それが静粛性能の研究だ。静粛性研究に関しては、ミシュラングループをリードして研究開発が行われており、ミシュラングループ唯一の半無響音室の設備も太田サイトにある。

ここには300人のスタッフがおり、そのうち3分の2がエンジニアという、文字どおりの研究機関だ。スタッフのうち85%が日本人で、他にロシア、ベトナム、フィリピン、タイ人のスタッフがいるそうだ。

太田サイトで研究している音とはどんなもんなのだろうか。音は音源が振動することによって伝播する空気の圧力振動だ。音の大きさを音圧として測定され、音圧レベル=dBを用いて示される。人間に聞こえる音圧は0dB(20マイクロPa)~130dB(100Pa)といわれていて、しかも低温と高音は同じ音圧でも中音域より小さく聞こえる傾向にある。そのため騒音レベルは人の聞こえ方に合わせた補正=聴感補正した値で評価されている。

タイヤ騒音は、空気の振動やタイヤの振動、キャビンインパネの振動などの車内騒音と、車外騒音に分類できる。車内騒音は自動車メーカーからの要求や相対評価がされるが、車外騒音は、騒音規制などの絶対評価となる。ちなみに2018年から日本でも騒音規制が施行されることになっている。

車内騒音面で見ると、ノイズ面で不利となる要因はタイヤの低転がり抵抗化や車両の軽量化、ノイズが際立つようになるエンジンの電動化などがあり、タイヤに対する要求は、さらに厳しくなっていくことが予想される。車外騒音については、騒音規制が導入されることもあり、こちらも厳しさを増すことが予想される。

タイヤの騒音発生のメカニズムは、加振系、伝達系、伝播系に分類できる、中でも太鼓の原理で叩いて鳴る加振系と、笛の原理で空気が鳴る気柱共鳴などの伝達系が大半を占める。

太鼓の原理で鳴るパターン加振音の典型的なものは、トレッドブロックのエッジが路面を叩くときの音。例えば、横に揃っていた横溝をずらすことで約9dBのノイズ改善ができ、横溝を斜め溝にすることで約5dB改善するそうだ。

また、ブロックの大きさをランダムに変えるランダムピッチブロック配列は、加振音成分を分散させて白色雑音 (ホワイトノイズ)化する効果があるという。このほか、リブ(ブロック列)を横方向に切り取ったとき、どの部分でも溝とブロックの比率を同じにすると、パターン加振を低減することができるそうだ。

伝達系ノイズである気柱共鳴音は、接地面内のタイヤの溝の中で反響する音で、管楽器と同じ原理で鳴る。気柱共鳴音の高い低いは接地面の長さで変わり、接地面が短いほど高い周波数の音が発生するという。

こんな具合に騒音低減技術開発は、様々なノイズ発生のメカニズムや、低減メカニズムを解き明かし、現象理解に基づいたチューニングの上に成り立っているわけだ。太田サイトは、そうした音のスペシャリストとして、例えば新製品開発プロジェクトの開発プロセスの中では、静粛性の部分の机上検討や、試作確認を受け持っている。

机上検討では、トレッドパターンや内部構造、コンパウンド選定などのモデル作りと、性能到達度や生産効率・コストなどの性能見積もりを繰り返しながら、試作段階へと形を整えていく。この部分では、蓄積したノウハウや解析したデータをもとに、静粛性の低減の道筋を付ける。

試作確認では、金型製作の工程を経てタイヤ試作を行い、出来上がった試作タイヤについて台上試験や車上試験などで性能評価を行う。性能到達度を分析し、改善点などのプランをフィードバックしてタイヤを試作、これを繰り返しながら製品へと完成度を高めていく。この過程で半無響音室でのデータ採取が行われる。採取した音の解析、分析、ノイズ低減の工夫などが新型タイヤに盛り込まれるわけだ。

太田サイトは、ミシュランのすべてのタイヤの「騒音」の部分を受け持っている。たくさんあるミシュランの研究施設の中で、ノイズテストは太田サイトのみで行われている。太田サイトはミシュランのタイヤ開発に深く関わっており、タイヤ開発の3拠点のうちでも重要な位置を占めているわけだ。

皆さんもミシュランタイヤを履いたら、ノイズは日本の太田サイトで行っていたということを思い出してほしい。きっとミシュランタイヤがより身近に感じられると思う。

《斎藤聡》

斎藤聡

特に自動車の運転に関する技術、操縦性に関する分析を得意とする。平たくいうと、クルマを運転することの面白さ、楽しさを多くの人に伝え、共有したいと考えている。そうした視点に立った試乗インプレッション等を雑誌及びWEB媒体に寄稿。クルマと路面との接点であるタイヤにも興味をもっており、タイヤに関する試乗レポートも得意。また、安全運転の啓蒙や普及の重要性を痛感し、各種セーフティドライビングスクールのインストラクターも行っている。

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