【ルノー トゥインゴGT 3000km試乗】真骨頂はホットハッチ的な「速さ」ではない[後編]

ルノートゥインゴGTは“おもちゃ感”にあふれていた。写真は肥前さが幕末維新博会場にて。
ルノートゥインゴGTは“おもちゃ感”にあふれていた。写真は肥前さが幕末維新博会場にて。全 17 枚

ルノーの欧州Aセグメントミニカー『トゥインゴGT』で横浜~鹿児島を3000kmほどドライブしたので、インプレッションをお届けする。前編ではクルマ全体の性格、シャシー、安全性能などについて触れた。後編ではパワートレイン、ユーティリティなどについて述べる。

トゥインゴGTはホットハッチなのか?

エンジンは排気量0.9リットルの3気筒ターボで、最高出力は80kW(109ps)、最大トルク170Nm(17.3kgm)。今回走らせた個体は手動5段変速機(MT)。カタログラインナップには6速デュアルクラッチ自動変速機もある。

実際に走らせてみると、遅くてイライラするというような感じではなく、足のいいトゥインゴGTを活発に走らせるのに十分な能力はある。が、とくに感動するような加速力を見せるというわけでもなかった。フィール的にも回転が低いところからスムーズにブーストがかかるが、上まで回してもドラマチックにパワー感が盛り上がるわけではなく、ややのっぺりとしている。これはルーテシアなど上位モデルのターボエンジンにも通じるもので、ルノーのフィールの特徴であろう。

昭和世代の筆者がベーシックカーの3気筒ターボと聞いて懐かしくなるのはダイハツ『シャレードGT-ti』。排気量に対してかなり巨大なインタークーラーを装備した1リットル直3DOHCターボは最高出力105psだが、車重がエアコン装備でも800kg程度と非常に軽かったため、フルブーストがかかったときの加速感はいきなり背中を蹴っ飛ばされるようなすごさだった。

トゥインゴGTは重量が1010kgと、シャレードGT-tiに対して200kgほど重いが、エンジンはリッター100馬力どころの騒ぎではないハイチューンだし、最大トルクも17kgmもあるとのことで、そんな懐かしのホットハッチフィールをついつい期待してしまったが、それは空振り気味だった。

できればもうちょっと大きなエンジンを載せられればいいのだろうが、後席後方のエンジンルームを見てみたところ、0.9リットルターボでもわりとぎゅうぎゅう詰めのような感じだったので、これ以上を望むことはちょっと難しそうだった。ルノーの0.9リットルターボエンジンは『ルーテシア』や『カングー』などに広く搭載されている1.2リットルターボと異なり、直噴ではなく古典的なポート噴射。直噴化されればもう少し上乗せできるだろうが、それでも120psあたりが限界であろう。

市街地でもストレスを感じないMT

このようにやや力感の薄いエンジンだが、それでもドライビングが面白く感じられるのは、5段変速のうち1速から3速までが今どきのクルマとしては珍しいくらいにローギヤードで、常識的な速度域でもしょっちゅう変速することになり、それがスポーティに感じられたからであろうか。

レブリミッターが作動する速度は1速が45km/h近辺、2速が72km/h近辺と、きわめて低い。エンジンパワーは限られているが、このクロスレシオを生かせるクイックシフトの技量があればゼロ発進からのスピードの乗りは悪くはない。また、ワインディングを爽快に流す程度でも2-3速のクイックシフトを駆使することになり、これが思いのほかホットなフィールを味わわせてくれる。

市街地ではどうか。楽しんで走るわけでもないのにシフト操作が頻繁だとわずらわしいのではないかと思われるかもしれないが、さにあらず。1速のレシオが低いため、加速時にスロットルの踏み込みを深めるとぽーんと弾かれるような加速Gの高まりを感じられたりと、乗っている間じゅうドライバーの操作に対していちいちクルマが面白い反応をするので、ギアチェンジが面倒くさいという印象は抱かなかった。
ルノートゥインゴGTのMTシフトノブ。ルノートゥインゴGTのMTシフトノブ。
謎仕様なのは、こんなにローギヤードでシフトチェンジ回数も多くなりがちなスペックであるのに、タコメーターが装備されていないこと。ただ、筆者は昔、タコメーターがなかったフォルクスワーゲン『ゴルフIIディーゼル』5速MTに乗っていたことがあり、各ギア段のレブリミットを知っておけばスピードメーターからおおよその回転数を知ることができるという考えを持っているため、別に不満は感じなかった。

デジタルによる数字表示だと少々面倒だが、丸型のアナログメーターなら直感で行ける。トゥインゴGTでのロングランで「タコメーターってこんなになくても大丈夫なのか」と、変な感動を覚えた次第だ。どうしても回転計が必要という人はスマホに専用アプリをインストールすれば、スマホ画面にタコメーターを表示させることができるらしいが、筆者は必要性を感じなかったこともあって試さなかった。

ところでトゥインゴGTにはMTモデルでもエコモードが付いている。エコボタンを押すとブーストが制限され、無駄なガソリンを使わないようにするというものだ。実際に使ってみると、低回転では案外どーんとブーストがかかり、推定3000rpm以上では逆に負圧にはならないまでもほとんどブーストがかからなくなるというようなセッティングで、面白くないわりに燃費節減効果はごく限定的という感じであった。トゥインゴGTの“らしさ”を味わうという観点では、OFFで一向にかまわないだろう。

燃費はお世辞にも良いとは言えないが

次に燃費だが、これはトゥインゴGTのウィークポイントで、Aセグメントミニカーとしてはもう少し頑張ってほしいところであった。ピシピシとしたペースでのロングロラン時の実燃費はアベレージで17.7km/リットル。最も良かったのは山岳路をほとんど走らなかった九州エリアの18.5km/リットル、バッドケースはヘビーウェットコンディション、山岳路、ハイスピードクルーズなどの逆風が多かった山陰回りの下関~京都間の16.8km/リットル。

オンボードコンピュータ上の燃料消費量、および燃費計は精度が良く、実際の給油量との乖離はごく小さかった。市街地燃費は計器上の燃料消費量から推定するに、ベタベタに渋滞していなければ普通に走って14km/リットル前後、遠慮なく踏み込んで12km/リットルといったところ。ちなみにエコランへの堪え性のない筆者が旅の終わりに神奈川西部の早川から横浜まで、西湘バイパスと一般道をわりと真面目にエコランしてみたときの燃費は17.4km/リットルであった。
前205mm、後185mm幅の17インチタイヤを履く。前205mm、後185mm幅の17インチタイヤを履く。
この燃費をどう見るかはユーザーによって分かれるところだろう。絶対値は結構いいペースで走った結果とはいえ、お世辞にも良いとは言えない。エコランを頑張ればロングランで20km/リットルに乗せることも不可能ではなかろうが、かなりペースを落とさないと難しそうだった。要求リサーチオクタン価は95RONで、日本ではプレミアムガソリンを入れなければならないというのもお財布には少々痛い。

ところが筆者の場合、その燃費の悪さが大して気にならなかった。筆者は1kmあたりの走行コストには結構うるさいほうで、今回のような東京~鹿児島をはじめ、ロングツーリングをするときは特段の事情がないかぎり、燃費の良いクルマにしか乗らない。理由はもちろん燃料代がもったいないからだ。それでいてエコランは嫌いで、思う存分に走って燃費が良くないと嫌なのだ。それで燃費が期待外れだったりすると「チッ、燃料ばっかり食いやがってよお」などと悪態を突きたくなる。

トゥインゴGTの燃費は過去に東京~鹿児島間をツーリングしたモデルの中ではメルセデスベンツ『GLS』、マツダ『CX-5』に次ぐ悪さで、自分の性格を考えると本来ならそのことを痛罵したくなってもおかしくないところなのだが、トゥインゴGTの場合、その自分が「ミニカーとしてはちょっとガソリン代が高くついたけど、そんなのお楽しみ代と思えばオッケーオッケー」などという気分でいた。そういう変な魅力があるクルマであるのは確かで、「若い頃、マツダ『RX-7』や初代『レガシィRS』に乗っていた友人たちが燃費が悪いのを自慢していた。当時は変なヤツだと思っていたが、こんな心境だったのかな」などと、とりとめもなく考えたりした次第だった。

ユーティリティとパッケージング

トゥインゴの属する欧州Aセグメントミニカークラスは、とりあえずファーストカーとしても使えるだけの広さがある日本のリッターカーとは異なり、基本的に軽自動車のような位置づけだ。トゥインゴGTも横幅は日本の軽自動車より大きいが、その幅の多くはデザイン性や側面衝突安全などに使われ、室内の横幅は軽自動車と似たり寄ったりだ。前後方向の長さも限定的なため、フルロードは4人+手荷物、ないしは2人+旅行用荷物というところである。

日本の軽自動車のような詰め詰めの設計ではないが、欧州的に合理的な設計はなされているように感じた。リアエンジンルーム上の荷室は深さはないが奥行きはそこそこあり、小さなトランクやボストンバッグなら結構ちゃんと積めるように作られていた。ただ、バックドアの傾斜が強いために67cm超級の大型トランクになると横積みしても上端がバックドアに干渉して閉められなくなる。今回はその大型トランクを持って行ってしまったため、長距離移動中は後席をずっと折り畳んでラゲッジスペースに使っていた。
フロントシート~インパネまわりを俯瞰で。フロントシート~インパネまわりを俯瞰で。
そういう旅でなければ、4名乗車の受け入れ性は室内の狭さのわりにはいい。後席はヒップポジションが高く、シートバック角の適切さとあいまってきちんと良い姿勢で座れるようにレイアウトされ、腰が痛くなったりといったリスクは小さそうだった。また、後席からの眺めも良好で、後席のパセンジャーもドライブを楽しむということにかけては結構良さそうだった。日本の軽自動車規格も本来は欧州のAセグメントくらいであってほしいとあらためて思った次第だった。

乗り心地は欧州Aセグメントミニカーなりのものだが、広さと燃費が命の日本のAセグメントモデルとはおよそフィールが異なるしっかりしたもので、ロングツーリング派にとってはそこそこ行けてるように感じられる。

デザイン小考。トゥインゴのデザインはとてもシンプルでシック。日本車が押しなべてどぎついデザインに行ってしまった中では、このそっけなさがとてもお洒落に見える。フロントビューはヘッドランプ上の銀色の“まぶた”やボンネットにかかる大型のロザンジュ(ルノーの菱形エンブレム)、左右のヘッドランプを連結するブラックアウトグリルなど、現行ルーテシア(欧州名クリオ)以来展開されているルノーのデザイン文法に沿ったものだ。

面白いことにこのフェイス、ゴーン氏がスカウトした中村史郎氏による“デザイン改革”が始まる前の日産の力作で、日本車で初めて欧州カーオブザイヤー大賞を獲った『マーチ(欧州名マイクラ)』の第2世代モデルとイメージが重なる。短いボンネットとヘッドランプの大きさの対比や肩の力が抜けた自然なデザインがそう見せるのかもしれない。マーチのデザインがいかに名作だったかがうかがい知れるところだ。インテリアも奇抜さはまったくないが、シートにGTならではの差し色を配したところがなかなかお洒落だったりする。こういうセンスはいかにもヨーロッパメーカーらしい。
ルノートゥインゴGT。兵庫-岡山県境付近にて。ルノートゥインゴGT。兵庫-岡山県境付近にて。

理由不明な楽しさが湧き上がってくる

まとめに入る。トゥインゴGTは仕様的にはリトルダイナマイト、あるいはホットハッチなどと呼ばれるカテゴリーに区分されそうなクルマだが、実像はそれとおよそ異なっていた。ドライブフィールは素晴らしいが、しゃかりきに速く走るのはこのクルマにとっては副次的な楽しみでしかない。真骨頂はこれを転がしているだけで理由不明な楽しさが湧き上がってくるという“おもちゃ感”だった。

実用性は決して高くはなく、皆に積極的におススメする気は毛頭起こらないが、クルマを運転するのが好きだというカスタマーには「とにかくぜひ一度乗ってみて」とおススメしたくなるモデルだ。

ライバルはAセグメントのホットモデル全般だが、そのなかでも最強のライバルといえばデビュー後10年以上を経てもなお欧州Aセグメント市場で後発のライバルをまったく寄せ付けない強さを誇るフィアット『500』のスポーティ版、「500S」であろう。

ちょっと前まではミニカーセグメントでこうした大人のおもちゃ感を帯びたモデルと言えば、500Sの独壇場だった。そこにトゥインゴGTが強烈な商品力をもって割り込んできたことで、ニッチながらも市場がちょっと盛り上がるのではと期待したくなる。価格は似たようなものである一方、それぞれ異なる方向性のおもちゃ感を持っているので、選ぶのは楽しく、また悩ましそうだ。

フォルクスワーゲンの『up!GTI』もライバルに数えられるだろうが、こちらは生真面目なup!とあえて傍流的クルマづくりを目指したトゥインゴという真逆のキャラを持っているので、500Sほどには競合しないだろう。

日本車のAセグメントはメーカーが単なる安物グルマとしか考えていないこともあって、ライバルらしいライバルは見当たらない。あえて挙げるとすれば、1クラス上のBセグメントスポーツであろう。スズキ『スイフトスポーツ』、あるいは日産『ノートNISMO S』あたりである。ちなみにボディ形状、キャラクターともまったく違うが、いつまでも触っていたい(乗っていたい)おもちゃ感という一点で個人的にいいライバルだと思うのはダイハツ『コペン セロ』である。
ルノートゥインゴGT。有明海にて。ルノートゥインゴGT。有明海にて。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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