自動車のシートがどのようにして出来上がるのか…タチエスのシート作りに密着

シート専門メーカー、タチエスのシート作りに密着。工場を取材した
シート専門メーカー、タチエスのシート作りに密着。工場を取材した全 18 枚
◆軽自動車からトラックまで、シートのスペシャリスト「タチエス」

普段何気なく乗っているクルマ。そのシートについて深く考えたことはあまりなかった。縁あって今回、シート専門メーカーであるタチエスのシート作りを見せてもらった。

日本における、自動車シートのメーカーとして最大規模を誇るのは、トヨタ紡織。次いで日本発条、そしてタチエスという順位。独立系のシート専門メーカーのタチエスは、業界第3位、日本市場の14%というシェアを持っている。元々は立川スプリングというバネの会社として発足したもので、今はシート専門のメーカーに移行しているそうだ。

シートのスペシャリストというだけあり、軽自動車から乗用車、スポーツカー、そしてトラックに至るまで、ありとあらゆるシートを製造している。というわけで、シート作りのノウハウという点では特にこだわりを持った技術を有しているのである。

◆手作業で組み立てられることに驚き


今回見せて頂いたのは、トヨタ『ランドクルーザープラド』、および『FJクルーザー』のシート製作工程。自動車用シートは、簡単に言って大きく3つのパーツから構成されている。まずはフレーム。そしてクッションの役割を果たすフォームパッド、それに体に直接触れるトリムカバーの3つである。

まずはフレームの組み立てから始まる。驚いたことにその工程では、たった一人の作業員がクッション部分のフレームと、背もたれ部分のフレームを組み上げていた。全て人間の手による作業工程だ。そこにはコンベアによるラインはない。

そのフレームであるが、驚いたことにプラド用のシートだけで、その仕向け地からグレードなどによって、実に40種類も存在するのだそうだ。だから、次の行程に移行する際に、取り付けるパーツを仕分けして、それらをフレームと合体させる組み立て工程向けにパーツの選別をし、それをトレイに乗せていくのだが、この作業も何とすべて人海戦術。最後の組み立て行程もすべて人間による作業だから、シートの製作はほぼ完全にハンドメイドだということを初めて知った。

また、シート1脚の重さはシートレールがついた状態だとおよそ20kg、本革シートで電動機能が付くと30kgはあるそうで、それを最終工程に持って行く際は作業する人が持ち上げて運ばなくてはならないし、トリムカバーとフォームが一体になったものをフレームに取り付ける際は、相当な力技が必要。そんなわけで製造工程で女性を見かけることは一切なかった。

◆シートに盛り込まれた多彩な技術

グルーアンカーの技術紹介。こちらは従来品。指さしているところに金属がある。
これほどまでに人の手によって作り上げられるシートなのだが、このタチエス昭島工場での生産は、日産1000脚、年間1万2000脚だそうで、全国に散らばるタチエス6工場すべての生産能力は、月産10万脚にのぼるという。

冒頭に技術的なこだわりがあるという話をしたが、そのうちの一つが、一体発泡という技術。これはヘッドレストに使われている技術だそうだが、あらかじめ作られた表皮の中に直接ウレタンを注入して、型の中で発泡させて整形してしまう技術。

もう一つユニークだったのは、トリムカバーをウレタンパッドに部分接着するグルーアンカーという技術。従来は金属がこの部分に必要だったのだが、それを接着で済ませることで、コスト削減と座り心地の向上に寄与するという。ただし、グルーアンカーはまだ製品化されていないという。
フリーエンボス接着だと、ご覧のような柄が自由に作れる。
他にも新たなエンボスの加工方法によって、例えば自分の名前入りのシートが作れたり、オリジナルの柄をエンボスしたシートが作れるなどの、フリーエンボス接着など多彩な技術が次々と生み出されている。

自動車の1部品と行ってしまえばそれまでかもしれないが、これほどまでに自動化されていない手作り感満載で、自動車用シートが作られているとは思いもよらなかった。しかもそれは高級車だろうが、軽自動車だろうが、かかる手間は一緒なのである。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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