【川崎大輔の流通大陸】変化するカンボジア市場へ、日系整備「PIT&GO」

アセアンに積極的にトライ、日系整備ビジネス

3層のカンボジア整備プレーヤー

モダンプレーヤー“直営PIT&GO”

課題の残る市場で、他社との差別化を強化

地方の伸びが期待されるカンボジア

PIT&GOの整備工場
PIT&GOの整備工場全 5 枚

カンボジアにおける自動車整備市場について、デンソーインターナショナルアジアの杉浦智之氏、PIT&GO(カンボジア)の日本人責任者である深豊幸氏にはなしを聞いた。

アセアンに積極的にトライ、日系整備ビジネス

杉浦氏(向かって右)と深氏杉浦氏(向かって右)と深氏

デンソーは2014年2月、プノンペンにアセアン初となる直営自動車整備工場「PIT&GO」をオープンした。カンボジアも含め7か国(ミャンマー、インドネシア、タイ、シンガポール、ラオス、カンボジア、マレーシア)に進出をしていた。カンボジアでの1号店は、1996年からあった企業を2013年にPIT&GOに変えローカル資本で運営していた。改めて直営店という形で進出した理由は、積極的に新しい展開やサービス、いろいろなイベントをトライして他国へ展開をしていきたいと考えたためだ。

「人が動くときに合わせて、積極的にイベントを展開しています」(杉浦氏)。更に「今年は年5、6回のイベントを行います。カレンダーニューイヤー、チャイニーズニューイヤー、クメールニューイヤー(4日間)、レイニーシーズン、サマーシーズン、プチュンバン(お盆3日間)、ウォーターフェス(11月下旬3日間)のとき、カンボジア人が帰省などで長距離のドライブがあるだろうという前に(車を)点検をしていただく。イベント内容として、他社はエンジンオイルキャンペーン(20%オフ)などですが、うちでは、予防点検キャンペーンを行います。足回り部品の無料点検、それらの交換部品は10%オフのキャンペーンです。点検は2種類あって、Lift Up Check35(足回りを集中的に点検する)、Health Check 39(日本でいう12か月点検に似た内容)となっています」と語る。

整備工場の中整備工場の中

カンボジアの新車市場ははじまったばかりだ。確かに新車ディーラーの整備サービスに信頼を寄せているユーザーは多い。しかし、メーカーの新車保証期間が終了した後も高価なサービスを継続して利用するかは疑問が残る。同時に、「安かろう悪かろう」のサービスに不満を感じている層もいる。カンボジアではその中間にある市場ターゲットを取り組める大きな可能性が存在する。

3層のカンボジア整備プレーヤー

整備中の中古車整備中の中古車

プノンペン周辺には大小200か所の整備工場があるといわれている。カンボジアにおける自動車整備サービスは、新車ディーラーを筆頭に3層になっている。(1)新車ディーラー、(2)モダン、(3)トラディショナル、である。

一般的にディーラーとは、新車ディーラーに併設されている整備工場をさす。新車販売以降の保証期間内の顧客が対象となっている。正確なデータはないが現地でのヒアリングによれば全体の10%ほどのシェアだ。

路面看板路面看板

モダンとは、外資資本などが出資した設備の充実した工場が主流となる。PIT&GOをはじめ、e-Garage、CAR FRESH、Futaba Garage、K-Fix Automobile、GA Service Centerなどがあげられる。交換するパーツ部品も良いものを使いたい、質の高い修理を望む通常より所得と安全意識の高い中古車ユーザー層がターゲットだ。外資系の整備工場の進出も増え、このようなモダンのシェアが増えてきている。

最後にトラディショナルだが、小規模な家族経営で地元のパパママショップ的な整備・修理工場をさす。プノンペンの街中を車で走ると道の両わきに小さな修理場や道端整備を頻繁にみかける。純正部品ではないものを多く扱うため価格の安いトラディッショナルはまだまだ強い需要がある。80%ほどのシェアを占めており、カンボジア整備市場での重要なプレーヤーとなっている。

モダンプレーヤー“直営PIT&GO”

月間入庫台数は300から350台ほどで設立当初から余り変わらない。カンボジアの直営店のスタッフは合計で16名(日本人マネージャー1名、メカニック8名、サービスアシスタント1名、部品担当1名、デンソー営業1名、バックオフィス4名)。工場内のピット数は4か所だ。

最近サービスの内容が変化してきたという。設立当初は軽メンテナンスが主流で全体の50%以上を超えていた。最近は、軽メンテナンスが全体の30%ほどで、その他は大きめの修理とシフトしてきている。軽メンテナンスとは、オイル、ブレーキパット、ショックアブゾーバーの交換などをさすが、それ以外の修理比率(エンジンオーバーホールなども含め)が増えてきた。そのため台当たりの単価は高くなった。最近では、外資系企業のカンボジア進出に伴い外国人(カンボジア人以外)のお客様も増えてきている。

課題の残る市場で、他社との差別化を強化

当然、まだまだ課題点も残る。オペレーション上の課題としては、政府系や企業が少ない。また平日にも来店を増やす必要などがある。業界全体の課題は、税金であるVAT10%でフェアな競争になっていない。政府による外資系企業のVATの取り立てが厳しい。逆にいえばローカル企業ではVATを逃れているところもある。そのためVATの支払いをしていない企業と比較するとコスト面で不利である。

更に、分業化の意識もワンストップオペレーションの弊害になる。つまり、整備工場に車を持ち込んだとしても、タイヤ、バッテリーなど、各専門店に持ち込む。彼らは、タイヤはタイヤ屋、バッテリーはバッテリー屋で購入するのがもっとも手軽なコストだと考えている。最後に、コスト重視という国民性が根付いていることだ。確かにしっかり高い整備コストの理由がわかる人も出てきた。しかし、コストと質を比べると、コスト重視になっている。質を重視しているPIT&GOが多店舗展開していくのにこの考え方が課題となることは間違いない。

カンボジアにおけるPIT&GOの集客は、口コミが断然多い。リピート率は65%と高い。新規顧客は35%ほどだが、新規であっても親戚や友人などからの紹介が多い。なぜ、顧客はPIT&GOに紹介するのだろうか?

理由の1つが、部品調達にある。つまりデンソーグループとして、部品供給の仕組みを構築している。しっかりしたパーツルートで調達が可能だ。2つ目はメカニックの技術。隣国タイにはデンソーのアジアの地域トレーニングセンターがある。年に6回から7回(1回1週間ほど)、カンボジア人メカニックを研修にいかせ技術の向上を目指している。3つ目は、店舗オペレーション。SOP(Standard Operation Procedure)という独自にオペレーションをマニュアル化している。最後は、店舗マネジメントだ。店舗でデータを分析し強みや課題点を経営にいかすようにしている。データから出てきているカンボジア店舗の情報では土日の来店が多く、プライベート中心となっている。また軽メンテナンスからリピーターとなる顧客が増えていく傾向がある。他社との差別化により更なる整備ビジネスでの競争力をつけていくことが必要になるだろう。

地方の伸びが期待されるカンボジア

杉浦氏は「今後はバッタンバン、シェムリアップ、シアヌークビルなどでの地方市場が興味深い」と指摘する。自由な中古車輸入、不透明な車検制度、技術のないメカニック、公共交通機関の不足による市内の渋滞。多くの課題を抱えているが、地方を含む市場の伸びは期待されている。

深氏は「もともと出来上がった社会ではないので、これから発展していく可能性があります。新しい可能性、つまりこれから何がはやるかわからない。そこがカンボジアの魅力です」と話す。

最近、カンボジアの中古車輸入に新しい変化が起きてきたようだ。カンボジア国内を走る中古車のほとんどがアメリカから輸入された事故車。カンボジアの右ハンドル規制のため左ハンドルの日本車が輸入される。こうした事故車を修理してカンボジア国内で販売している。レクサス『RX』などとてもよく見かける。しかし、最近プノンペンでトヨタ『アルファード』をよく見かけるようになった。これらはハンドルをコンバージョンし左ハンドルにされた日本からの中古車だ。2003年のアルファードで3万ドル前後の値段がついて売られている。

確かにカンボジアではどのようなことが起こるか予測がつかない。今、まさに新たな変化の兆しを感じる。変化が起きている市場には、常に新たなビジネスチャンスが生まれている。カンボジアの消費者も、新しい商品・サービスを求めている。様々な自動車ビジネスの需要もこれから高まっていくことは間違いないだろう。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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