【メルセデスベンツ CLSディーゼル 新型試乗】誰にでも似合うクルマではないが…井元康一郎

あらゆるステージで気持ち良い速度の伸び

感心させられたノイズコントロール

誰にでも似合うクルマではない

メルセデスベンツ CLSディーゼル 新型(CLS220dスポーツ)
メルセデスベンツ CLSディーゼル 新型(CLS220dスポーツ)全 21 枚

2018年7月に日本市場に投入された現行メルセデスベンツ『CLS』は初代から数えて第3世代にあたる。モデル構成は大きく分けて2リットル直列4気筒ターボディーゼル+RWD(後輪駆動)の「220d」と、3リットル直列6気筒ターボガソリン+AWD(4輪駆動)の「450」の2機種。本稿ではディーゼルの220dについて述べる。

あらゆるステージで気持ち良い速度の伸び

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220dに積まれる最高出力143kW(194ps)の2リットル直4ディーゼルは、CLS用としては制限速度の低い日本向けに特別にセットアップされたエンジンで、本国モデルでは同じ2リットル直4でも「300d」と銘打たれた180kW(245ps)が最低ライン。その上には3リットル直列6気筒210kW(286ps)の「350d」、同250kW(340ps)の「400d」が控える。

CLSは4ドアだが、ベースとなった『Eクラス』が正統派のセダンであるのに対し、こちらはクーペフォルムのスペシャリティモデルという位置付け。車重1.8トン台のモデルをたった194psのエンジンで走らせて、果たしてスペシャリティ感が得られるものだろうか…と少々いぶかりながらテストドライブを開始したのだが、驚くことにアンダーパワー感はまったくと言っていいほどなく、スロットルの踏み込みを増すと重量級のボディを羽根のように軽々と加速させた。

発進、中間加速ともまったく痛痒感を覚えることがなかった原動力は「9Gトロニック」と称する9速ATのギアレシオの適切さと変速レスポンスの俊敏さであろう。筆者は2年ほど前に重量2.6トンのボディに3リットルV6ターボディーゼルを組み合わせた巨大なSUV『GLS』で東京~鹿児島を3400kmほどツーリングしたが、パワーウェイトレシオ10kg/psと、動力性能的にはとても期待できなさそうな数値であったにもかかわらず、1速から4速までがクロスレシオの9Gトロニックのおかげで素晴らしい速力を得られたのが印象的であった。

CLS220dもしかりで、停止からの発進加速、高速流入路でのフル加速、箱根ターンパイクで最も勾配のきつい箇所での加速など、あらゆるステージで気持ちよい速度の伸びを味わうことができた。

感心させられたノイズコントロール

タイヤはダンロップ「SPORT MAXX RT2」。サイズは前245/40R19、後275/35R19。タイヤはダンロップ「SPORT MAXX RT2」。サイズは前245/40R19、後275/35R19。
CLS220dでもう一点、感心させられたのはノイズコントロールである。アイドリングストップがきいている停止時から発進する時こそ、エンジン起動のわずかな身震いが発生するが、それ以外のときはほぼ無振動。しかもそのエンジン音が直4とは思えない、みっちしりした爆発感覚の8気筒のようなサウンドなのだ。

いかにベンツとはいえ、直4エンジンの原理を超えて音を良くすることは物理的にできないはず。クランクシャフトの倍速で回るバランスシャフトを使っているか、オーディオのスピーカーから倍音成分を出してサウンドを澄みわたるものにしているかのどちらかであるやに思われた。

燃費はすこぶる良い。箱根ターンパイクを駆け上がる前までは、かなりきつい渋滞があった藤沢市の市街路を通過したにもかかわらず、18.5km/リットルを記録。渋滞に捕まるまでは20km/リットルを超えていた。

乗り心地はきわめて良い。深いアンジュレーション(路面のうねり)や路盤の継ぎ目の段差、舗装の破損が至るところにある湘南海岸の有料道路、西湘バイパスでも素晴らしくフラット。空力特性やシャシーの走行抵抗低減が相当入念に行われているとみえて、滑走感は文字通り抜群であった。

ハンドリングについてはハードな走りを試すシーンはなかったが、前235mm、後275mmという極太のタイヤを履いていることもあって、少々速いスピードでタイトターンに進入しても何事も起こらなかった。それでいて操舵感は確かなものがあり、切り足し、切り戻しに比例するようにロール角がリニアに変化する、スポーティカーのようなフィールを持っていた。

誰にでも似合うクルマではない

助手席側から室内を見る。なまめかしいデザイン。助手席側から室内を見る。なまめかしいデザイン。
インテリアはかなりなまめかしい、妖艶系のデザインと仕立て。その色使いやエアコン吹き出し口のアンビエントイルミネーションなど、見方によってはかなり下品な部類に属するが、憎たらしいことにその下品さが実に板についていて、作為的ないやらしさを感じさせないのだ。こういう演出は耽美主義のアートでファンドシエクルの欧州を風靡したおフランスのお家芸であろうと思っていたが、ドイツにはドイツ流の“悪の華”があるのだなと思わされた。

同日、さらにハイパワーなエンジンとハイテクなAWDシステムを持った直6ガソリンの450にも乗った。そちらは格段にハイパワーであったが、私的な印象としては、この220dで十分。十分に速いし、十分に静かであるし、十分にスペシャリティ的な空気感が漂う。普通のセダンには飽きたがSUVに行く気はないという富裕層のカスタマーにはぴったりだろう。

留意点を挙げるとすれば、誰にでも似合うクルマではないということか。このクルマを悪趣味と紙一重のダンディズムで乗れるような知性、教養を持ち合わせる人はかなり限られている。このクルマが自分に似合うか似合わないか、自分を冷静に見つめてそれでもOKという自信のある人にのみおススメできる。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

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《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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