インドネシアで本格化する日産と三菱のアライアンス【藤井真治のフォーカス・オン】

インドネシアで日産が三菱のヒットモデルの姉妹車「リヴィナ」発売

ASEAN最大の市場で低迷する日産にとって期待は大きい

今後東南アジア全域で新たな日産、三菱のアライアンスがあるか注目

日産がインドネシアで発表したMPV「リヴィナ」。三菱のヒット車「エクスパンダー」の姉妹車だ
日産がインドネシアで発表したMPV「リヴィナ」。三菱のヒット車「エクスパンダー」の姉妹車だ全 4 枚

2月19日、日産のインドネシア現地法人日産モーター・インドネシアは7人乗り3列シートのMPV『リヴィナ』の新型車発売を発表した。

新型リヴィナは三菱がインドネシアでヒットさせた『エクスパンダー』のボディを基本としており、いわば姉妹車。かねてから言われていた東南アジアでの日産・三菱のアライアンスの本格的な第一弾である。

精彩を欠いていた日産のアジア事業

ダットサン redi-GOダットサン redi-GO
中国では好調な日産も東南アジア地域では少し精彩を欠いている。特にASEAN最大の自動車市場を持つインドネシアでのここ数年の落ち込みは激しいものがあった。

販売は一時トップのトヨタを追う2位グループに肉薄するほどの勢いがあり、ピーク時にはホンダに並ぶ年間7万台近くにまで販売台数が拡大したのだが、それ以降は低落を続け昨年は僅かに1万7000台にまで落ち込んでしまった。政府のローコストカー政策に乗り「DATSUN(ダットサン)」ブランド車に生産・販売リソースを集中投下したことが大きな理由だ。

結果、インド市場向けに開発した「ダットサン」の商品性や品質はインドネシアのユーザーには受け入れられなかった。そればかりか、販売効率追求のため従来の日産ブランド販売店に下級ブランドであるダットサンを併設したため、せっかくはぐくんだ日産ブランドファンをも失うことになってしまった。嫌気がさした大手販売資本の一つは日産/ダットサンの販売権を返上し小売から撤退してしまった。

三菱の躍進

三菱エクスパンダー三菱エクスパンダー
一方インドネシアの三菱。2016年に日産が本社三菱の筆頭株主になる前から商用車を中心とした強いブランドで、さらなる飛躍にむけ新乗用車プロジェクトを進めていた。魅力あるMPVの企画、乗用車の新工場、乗用車専売網の設立を軸とする戦略である。

満を持して2018年に現地生産・発売された3列シートのMPVエクスパンダーは三菱らしい力強い外観と経済性で大ヒットを飛ばした。トヨタのMPVである『アバンザ』のベストセラーカーの地位も脅かし、三菱のインドネシア事業全体の底上げにつなげることに成功した。2018年のインドネシアでの販売台数は14万6000台(アライアンス発表数字。FUSO除き)。三菱にとってインドネシアは日中米での販売をも上回る世界一の販売国となっているのである。

姉妹車戦略は成功するのか?第二弾はあるのか?

インドネシアでは明暗を分けている日産と三菱。今回は三菱が商品戦略で一方的に日産を助けたとも見える。しかしながら、販売網や輸出力などトヨタやホンダに比べ劣勢の三菱にとってみると多額の新工場投資の回収をすすめるためには生産量の確保が必要だ。

世界的にはブランド力が高く量販力のある日産とはwin-win関係が維持されていると思える。また、インドネシア日産の工場で三菱製エンジンも生産されるようで、同国でのトヨタとダイハツのような開発、生産面での協業/分業が今後さらに進むことも考えられる。
インドネシアでの日本車ブランドシェア推移インドネシアでの日本車ブランドシェア推移
この新型リヴィナ。商品力に乏しい日産の販売部隊にとっては巻き返しのための起爆剤としての期待は大きい。ベースとなるデザインは三菱車なのだが、やはり日産らしい顔をしている。フロントグリルはVモーショングリルを基本とした大幅な変更が加えられ、イメージカラーのオレンジ色とうまくマッチングさせ日産ブランドであることを主張している。さすがに日産のエンジニアも意地を見せたようだ。

三菱のエクスパンダーと新たに登場した姉妹車に日産リヴィナ。インドネシアのコア市場である3列シートMPV市場でお互いが食い合うことなく販売が伸ばせるのか?東南アジアで日産・三菱のアライアンス第2弾があるのか?今後の両者の動きに注目したい。

<藤井真治 プロフィール>
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。

《フォーカスオン》

藤井真治

株式会社APスターコンサルティング CEO。35年間自動車メーカーでアジア地域の事業企画やマーケティング業務に従事。インドネシアや香港の現地法人トップの経験も活かし、2013年よりアジア進出企業や事業拡大を目指す日系企業の戦略コンサルティング活動を展開。守備範囲は自動車産業とモビリティの川上から川下まで全ての領域。著書に『アセアンにおける日系企業のダイナミズム』(共著)。現在インドネシアジャカルタ在住で、趣味はスキューバダイビングと山登り。仕事のスタイルは自動車メーカーのカルチャーである「現地現物現実」主義がベース。プライベートライフは 「シン・やんちゃジジイ」を標榜。

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