「RS4アバント」で氷上を走りまくる…アウディ・アイス・エクスペリエンスにリピーターが殺到する理由

リピーターが多いという「アウディ・アイス・エクスペリエンス・イン・スウェーデン」。RS4アバントで走った
リピーターが多いという「アウディ・アイス・エクスペリエンス・イン・スウェーデン」。RS4アバントで走った全 60 枚写真をすべて見る

ドイツの高級車ブランド・アウディが世界的な取り組みとして展開する体験型イベント「アウディ・ドライビング・エクスペリエンス(ADE)」。そのひとつである「アウディ・アイス・エクスペリエンス・イン・スウェーデン」に参加することが叶った。参加費用40万円(しかも渡航費は別)と高額にも関わらず、世界中から申し込みが殺到、しかも参加者にはリピーターも多いという。なぜそこまで人を惹きつけるのか。その魅力に迫った。

アウディRS4アバントで「走りまくる」エクスペリエンス


ADEは1987年に本国ドイツで始まった歴史ある取り組みで、2001年より日本でも独自プログラムによって開催されている。その内容は多岐にわたり、本格的なレース走行での技術を習得するためのものから、スーパーカー『R8』によるツーリング、安全運転講習に加え、冬季のオフロード走行講習やドリフトのトレーニングなど、カタログに載っているものだけで軽く30を超える。

非アウディオーナーでも参加できるプログラムがほとんどだが、やはり参加者の多くはアウディオーナーだ。そこに金銭的な事情がないとは言い切れないが、リピーターが多いということはそこに病みつきにさせる何かがあることは間違いない。事実、筆者が参加したアイス・エクスペリエンスも参加者の半数近くがリピーターで、初参加者も過去に何かしらのプログラムを体験したことがある人たちだった。

今回のアイス・エクスペリエンス・イン・スウェーデンは、その名の通り北欧スウェーデンを舞台に最新のアウディの走りを体験できるというもの。ストックホルムからさらに北へ、飛行機で約1時間ほどにあるアルビッツヤウルという小さな街に宿とコースが設けられていた。アルビッツヤウルは、北欧の街の多くがそうであるように湖が多い。また寒い時期には平均でマイナス10度を下回るため、湖には分厚い氷が張る。この凍った湖の上こそが、今回のメインコースというわけだ。

用意される車両は、発表されたばかりの“スーパーワゴン”『RS4アバント』。日本での販売価格は1196万円と、まさにスーパーだ。3泊4日のプログラムの中でこのRS4アバントを、文字通り「走らせまくる」ことができる。アウディファンのみならず、クルマ好きには堪らないプログラムだ。

参加者の思いは様々


冒頭に世界中から申し込みが殺到と書いたが、日本法人であるアウディジャパンとしても今回のように団体枠を確保するのが難しいそうで、国単位でのキャンセル待ち状態なのだとか。アウディジャパンとしては2年ぶりの参加だったこともあり、8名の募集枠を設けたところ40万円の参加費用にも関わらず「瞬殺」。最終的に9名が参加することになったという。

参加の目的は様々だ。代々『TT』を乗り継いでいるという女性は、「参加は初めて。日本ではセーフティドライブの講習に参加して、その延長線上で、雪道でも安全運転の技術を学びたくて」と話す。マツダ『ロードスター』でパーティレースなどに参戦しているという男性は、「日本ではサーキットトライアルに参加しました。雪上・氷上で思いっきり走れるなんて、なかなかない機会だと思って。サーキットとの違いを楽しみたい」と話していた。また中には、RS4アバントの購入を検討しているが試乗車が日本のディーラーにはなかったため参加した、という方も。

一方でリピーターの参加者に、なぜ何度も参加するのかを聞くと「まぁ、変態みたいなもんだよね」と笑う。3名の男性は常連であり、顔なじみだという。それぞれ、日本でのプログラムにも定期的に参加しているが「日本じゃ絶対、こんな贅沢なシチュエーションは味わえないからね。おっ、またやるんだ、じゃあ行こうかという感じだよね」と、動機を話す。ちょっとオフ会に参加するか、といった軽いノリだが、いずれも日本では味わえない特別な体験がその動機となっているようだ。

「道の上」を走るため


3泊4日(日本からの移動時間は除く)のプログラムの中で、実際に試乗するのは丸2日と半日。つまり、到着日以外は帰りの飛行機が飛び立つまで、ほぼフル稼働でステアリングを握ることになる。1日目は、座学による1時間ほどの運転講習を受けたら、あとは日が暮れるまでひたすら走る。2日目は、湖に到着するなりそのままコースインし、やはりひたすら走る。文字通りの「走り放題」なのだ。

ただ、筆者も実際に参加するまで誤解していたのは、このアイス・エクスペリエンスはいわゆる「運転講習会」やトレーニングの類ではないということ。今回のインストラクターで、現役レーサーとしてニュル24時間レースなどで活躍するフランク・シュミックラー氏がプレゼンテーションで話してくれたのも、「速く走るための技術」についてではなく、正しい運転姿勢や安定した運転操作、そして雪や氷の上で安全に走行するために重要な「クルマの挙動を意識すること」が主だったものだった。

「雪の上を走る上で大切なのは、クルマのフロント(前輪)に荷重を掛けること。これを意識してください。クルマは前輪の操舵で曲がります。荷重が加わっていなければ、どんな素晴らしい4WDでも曲がることはできません。アクセルを緩めて、フロントに荷重が移ったら、ステアリングを切ります。リアが滑り出す感覚をしっかり意識して。そうすればクルマはオーバーステア(車体がコーナーの内側=曲がりたい方向へ向かう動き)になります。操作はとにかくジェントルに。ジェントルな操作はつまらないかもしれなけど、それが肝心なんです」

コースに出てしばらくはフランクからの無線が飛ぶ。そこでしきりに発していたのが「アンワイド」という言葉だった。日本人にとっては聞き慣れない単語だが、つまり動きが大きくなりすぎている状態(ワイド)なので、より穏やかに、コンパクトにということだ。フランクは言う。「コントロールを失うと、人は急なステアリング操作や、アクセル、ブレーキ操作をおこなってしまう。だけど、それが良い結果をもたらすことはない。そういう時こそジェントルさが必要なんです。とにかく、どんな状況でも『道の上』を走り続けることが最も大事なことですから」。

意識せず身についている運転技術


スウェーデンでは装着が許されているスパイクタイヤを履いたRS4アバントは、氷の上をものともせず走る。最高出力450ps、最大トルク600Nmというスーパーカー並みのスペックながら、雪上・氷上走行においても決して手に余ることなく、誰もがその性能や楽しさを味わうことができる(もちろん限界領域まで、とはいかないが…)。何より、1840kgという車重にも関わらず、また氷上にも関わらず、クルマの挙動がとてもわかりやすかったのが意外だった。どんな道でも、思った通り「普通に走ってくれる」のだ。これがアウディ先進のクワトロ技術の賜物であることは疑いようのない所だろう。

1周約7kmの湖を、およそ6つのエリアで区切ったコースでは、様々なレイアウトを楽しむことができた。低速コーナーが連続するコース、長い直線が続く高速コース、深い轍やより磨かれた滑りやすい路面だらけのコース、などなど。そしてこれらは気温の変化や時間が経つにつれ、次々と違う表情を見せる。やっとスムーズに走るコツを見つけたと思ったら、次の周回にはそれが通用しない、ということもしばしばだ。しかし、そうした試行錯誤を繰り返すうちに、クルマの重心や動き、路面とタイヤとの対話が自然と伝わってくる。コーナーの先にある次のコーナーを読む感覚も身についてくる。始めは恐る恐るだった初参加者の方たちも、1日目が終わる頃には自らタイヤを滑らせて、連続コーナーをドリフトで駆け抜けることもできるようになっていた。

クルマの挙動を操ることができるようになれば、より速く走ることもできる。2日目のプログラムの締めには、2つのコースを使ったタイムアタックもおこなわれた。ここでは2日間で慣れたコースを逆走することに。驚く参加者たちに説明されたのは意外な事実。実はこれまでの順走コースは、ゆるいコーナーの途中でRがきつくなるような“意地悪”な設定だったのだという。これが逆走になれば、コーナーの手前でしっかり速度を落として、加速しながらコーナーを抜ける、いわゆる“スローイン・ファストアウト”が自然におこなえる易しいコースに早変わりというわけだ。あえて難しいコースで試されていたことに再び驚きつつも、意識させずに運転技術を身につけさせる演出に、ニクイなアウディ、と思わずにはいられなかった。参加者たちは、2日間で培った運転技術を発揮し、約6分のタイムアタックコースを駆け抜けた。

買ってでもするべき「体験」


新型『A4セダン』を購入した縁で今回初めてアイス・エクスペリエンスに参加した男性は、プログラムを終えて「とにかく楽しくて、来てよかった。満足です」と終始笑顔だった。購入の下見に来た男性も、「やっぱりRS4は良いですよね。決めました」と話していた。「自分で思い描いた走りまで行けなかったから(満足度は)個人的には70点」と話した常連の男性は、また“次”のリベンジを匂わせていた。「元は取れたかな」と話してくれた男性もいた。それぞれが期待したアイス・エクスペリエンスへの想いは、十分以上に叶えられたということだろう。

アウディといえば、自動運転などの先進技術や、洗練されたスマートなデザイン、クールで知的なブランド、というイメージを持つ人もいるかもしれない。それは間違っていないが、一方でモータースポーツに情熱を注ぎ、ドライブする楽しさを常に追求し続ける、エモーショナルな企業でもある。そんなアウディの世界観の一端を、確実に、五感で味わうことができるのもこのエクスペリエンスの魅力であることは言うまでもない。

繰り返しになるが、このイベントは講習会ではない。その名の通り「エクスペリエンス=体験」そのものだ。知識や技術の習得だけがねらいなら、40万円+旅費を払って、しかも移動に約20時間もかかる最果ての地まで赴くことはしないだろう。「苦労は買ってでもしろ」とはちょっと違うが、他の目的ではまず降り立つことのない地で、極上のクルマで、日本から見れば非現実的な環境で思うままに走り、同志たちとグラスを傾けながら談笑する、そんな体験は「買ってでもするべき」得難いものと言えるのかもしれない。

それが贅沢なものであることに変わりはないが、「機会があれば、もう一回」と思うのも納得できる、少なくとも筆者はそう思えた旅であった。

協力:アウディジャパン

《宮崎壮人》

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