AIデマンド乗合交通とMaaSが地域の足を劇的に変える…未来シェア取締役野田五十樹氏[インタビュー]

AIデマンド乗合交通とMaaSが地域の足を劇的に変える…未来シェア取締役野田五十樹氏[インタビュー]
AIデマンド乗合交通とMaaSが地域の足を劇的に変える…未来シェア取締役野田五十樹氏[インタビュー]全 1 枚

「AIデマンド乗合交通」デジタルの力が地域の移動に革命を起こすかもしれない。自動車メーカー各社もベンチャーをつくり実用化しようと動きを見せている。国内でも実証実験などの話が全国各地で耳にするようになった。

デマンド乗合交通の歴史は長い。観光、高齢者の通院やお買い物、子どもの習い事の送迎。タクシーでもバスでもまかなえない地域内の移動手段の確保に、1台のクルマで何人かを拾いながら乗り合わせるデマンド交通は昔から注目されていた。

しかしデマンド乗合交通はどこでも簡単に導入できるサービスではなかった。原則、予約制であるため利用申し込みを一旦締め切らないとルートを確定できない。そのため呼べばすぐ乗れるものではなく、前日の予約などが必要で、乗り手にとっては使いやすいものではなかった。デマンド交通のシステム導入費も高く負担となっていた。そしてバスやタクシーなどの公共交通事業者がサービスを提供する地域では利害調整のために地域公共交通会議の開催が必要となるため、すぐにサービスを開始するわけにはいかない。またデマンド乗合交通を走らせたからといって地域住民が乗るかというと別問題で採算がとれるものでもなかった。

これらのわずらわしいデマンド乗合交通と地域の問題をAIとMaaSの考え方を使うと、数多くの課題が解決する可能性が出てきたのだ。これが進化すれば自動運転車両の導入にもつながるだろう。

AIデマンド交通とMaaSに取組む未来シェア取締役の野田五十樹氏(産業技術総合研究所人工知能研究センター総括研究主幹)に聞いた。

6月19日、20日に東京オリ・パラとCASE・MaaSのキープレイヤーが一堂に会するセミナーが開催されます。詳細はこちらから。

「目的」と「移動」のコストを下げ、スムーズに最適に


---:未来シェアをつくったきっかけは?
野田氏:2001年頃にさかのぼります。人口知能(AI)の研究者で集まってAIを活用してオンデマンド乗合交通の課題をシミュレーションで解決できないかと研究をはじめました。そして「時刻表通りに動いているバスではなく、乗りたいと思ったときに乗れるバスができそうだ」という結果がシミュレーションから分かったのです。その当時はスマートフォンがなく、実サービスの研究も行いませんでした。

スマートフォンの普及とともに2011年頃に再び活動を活発化させました。大学や研究機関に知財や特許がばらばらにあったので活動しやすくするために、2016年に北海道のはこだて未来大学の研究者など中心となり発起人6名で技術ベンチャーの未来シェアを設立しました。NTTドコモやJTBなどの大手企業と組み大規模な実証実験を行っています。

人は「目的」があって「移動」するはずです。その「目的」と「移動」のコストを下げ、スムーズに最適に結びつけたい。SAVS (Smart Access Vehicle Service)というサービスを関係する企業と連携し提供しています。利用者のオンデマンド乗合交通の呼び出し、AIによる最適ルートの計算、ドライバーへの送迎指示。そして未来シェアの特徴であるシミュレータなどを行います。これにより、利用者は事前予約の必要がなく乗りたい時に乗ることができ、運行サイドはAIが自動計算する送迎指示をドライバーが順に追うだけなので、システムに任せるだけでよくなります。

私たちが車両を保有するのではなく、地域のタクシーやバス事業者と協力して、同じ方向に向かう人をうまくコンピューター上でマッチングして、少ない台数でできるだけ多くの人を早く運ぶサービスです。

---:これまでは前日までに事前予約が必要でした。未来シェアの技術を使えば、利用者は乗りたい時に乗れて、割り込んでくる呼び出しを反映して自動的にルートが組みなおされるので運行する側も大変楽になりますね。

JTBやNTTドコモなど、既に数多くの実証実験を行ってきた実績


---具体事例は?
野田氏:2019年3月にJTBと資本業務提携を締結しました。観光目的地とバス停が離れていたり、少ない運行ダイヤで時間が制限されてしまうなどの課題があります。そこで最寄駅や観光拠点から特定のエリアでの目的地までのアクセスも自由に選べるパッケージ化、宿泊、体験、入浴、食事などの予約決済もつなぎ合わせた観光型MaaSを進めるものです。

JTBと旅行パックとして鳥取県境港市、島根県浜田市、静岡県清水港でクルーズ船から降りてきた観光客に対して、1日の乗り放題のチケットを販売してみました。

高齢者の在宅介護支援事業を行う群馬県高崎市のエムダブルエス日高が、施設までの通所者の送迎に(1日あたり約200人)、所有する38台の介護送迎車両を用いて2018年10月から実証を行いました。

2019年2月には静岡市住民を対象とした実証実験を行い、ヴァル研究所の「複合経路検索サービスmixway(ミクスウェイ)」と連携したMaaSシステムを提供しました。

2019年4~6月、9~11月の間にJR東日本、東京急行電鉄、楽天などが、伊豆エリアで観光MaaSアプリ「Izuko(イズコ)」の実証実験を実施しており、下田地域で地元のタクシー会社と協働してAIデマンド乗合交通を走らせています。

その他にも2018年10月に横浜MaaS「AI運行バス」、2018年11月に長野県伊那市、2018年12月に熊本県荒尾市などを数多くの実証を行ってきました。

6月19日、20日に東京オリ・パラとCASE・MaaSのキープレイヤーが一堂に会するセミナーが開催されます。詳細はこちらから。

買い物、通院、子どもの送迎、観光…MaaSの枠組みを使い地域の足の確保が可能に?!


野田氏:私たちが目指しているのは、まさにMaaSです。

---:今後どんなことが可能となりそうでしょうか?
野田氏:乗合交通など関連する規制緩和がどのように進むかで変わります。

通院については、複数の病院が連携してサービスを展開する場合は、交通事業者が運行を担うケースなどが考えられます。病院の診察予約システムと配車システムが連携できれば、病院で長時間待つ必要もなくなるかもしれません。料金負担は病院が負担する場合、患者が負担する場合、自治体が負担する場合などが考えられますが、お金の分配については決めごとをする必要があります。

買い物に関してもスーパーや商店が連携してサービスを展開するケースも考えられます。その場合は広告収入などで賄えるかもしれません。あるショッピングセンターは駅から送迎バスを走らせています。

病院に行って、買い物をして帰りたいというニーズもあるでしょう。その場合は利用料の分配が複雑になるので、定額制のパッケージ料金で提供する方がよいかもしれません。

塾、学校、観光客の送迎なども考えられます。いま考えているのは、女性専用、子ども専用などどのような利用者同士であれば気持ちよく使ってもらえるのかビジネスとしても成立するのか。車両やドライバーの数は限られているので、スイッチ一つで買い物用から送迎用などに用途を変えることができないかなどを考えてみています。

---:なるほど。鉄道駅からの二次交通としてのオンデマンド乗合交通というよりも、鉄道駅を目的地とせず、日常生活に必要な、病院、スーパー、学校などを目的地と自宅などを結び付けてくれるのですね。しかもMaaSの考え方と枠組みを使えば、課題となっていたかかる費用の負担の仕方も非常に柔軟にできるようになります。これは地域にとって移動革命ですね。

野田氏:また既存のバス路線とオンデマンド乗合交通のどちらが有効なのかシミュレーションが可能です。名古屋のつばめタクシーグループで行ったことがあります。タクシーの情報はデジタル化できているため比較的扱いやすいのですが、バスの情報はデジタル化できていなかったりするためシミュレーションしにくい状況が多いです。

---:シミュレーションに必要な情報は限られていると思います。デジタル化しておくことが正確なシミュレーションにもつながりますし、生産性の高い仕組みを構築することが可能となりますね。

野田氏:「スマートモビリティ革命;未来型AI公共交通サービスSAVS」を出版しました。日本社会にどのように役立つ可能性があるのかなどが詳しく説明していますので、ご一読ください。

6月19日、20日に東京オリ・パラとCASE・MaaSのキープレイヤーが一堂に会するセミナーが開催されます。詳細はこちらから。

《楠田悦子》

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