トラック・バス・商用車に求められる安全性能の考え方---日野自動車試乗会

ドライバーの緊急時に自動停止するバス(セレガ)
ドライバーの緊急時に自動停止するバス(セレガ)全 21 枚

日野自動車は14日、東京都羽村市の羽村工場内のテストコースにて、2019年モデルのトラック・バスに搭載された安全性向上にかかわる新機能のデモンストレーションとメディア向け試乗会を開催した。その中で、同社が商用車における安全性とその社会的責務に対する取り組みも紹介された。

2019年モデルのADAS機能

日野自動車では、安全への究極の願いとして「交通事故死傷者ゼロ」を掲げている。同様なスローガンや目標は多くの自動車メーカーも持っているが、トラックやバスなどの商用車は、車両重量が持つエネルギーや乗客を乗せることから、事故が起きると被害が大きくなりやすい。その社会的責務は大きいとして、運行管理、予防安全、衝突安全という3つのアプローチで事故被害低減を考えている。

その基本的戦略は、課題克服型といえる。商用車や物流における事故を分析し、問題となっている事象への対策、解決策となる機能を考えて実用化していく。たとえば、今回の試乗会でデモしたのは、次の4つの機能だ。

・自動検知式ドライバー異常時対応システム(EDSS)
・ドライバーモニターII
・サイドアラウンドモニターシステム
・前進誤発進抑制機能・低速衝突被害軽減機能・クリアランスソナー

ドライバーの異常を検知し自動停止

このうちEDSSとドライバーモニターIIは、ドライバーの健康状態による事故の対策だ。事業用自動車における事故死者数。2017年で年間300人近くと、死傷者ゼロにはまだ道半ばといえるが、全体的に減少傾向にある。しかし、その中でトラック・バスのドライバーの健康に関する事故件数はむしろ増加傾向にある。

EDSSとドライバーモニターIIは、ドライバーをカメラで監視することで健康状態や運転への集中、脇見、気絶などを検知し、ワーニングや警告音で回復しない場合、最終的にはブレーキをかけて停止まで自動で行うものだ。

EDSSは2018年モデルから同社のバスに搭載されている。このときは、ドライバーの異常を検知すると、光と音で警報を鳴らすが、車を停止させるには乗客か乗務員が緊急停止スイッチを操作する必要がった。2019年モデルでは、警報のあと回復措置・操作が行われないと自動的に緊急停止シーケンスに移行する。

緊急停止は、異常を検知して回復されないと判断した時点で、ホーンを断続的にならし、ハザードランプ、そして減速のブレーキランプを点灯させ、周囲に異常と停止を知らせる。車内は、赤い非常ランプが点滅する。ブレーキは、PCSのような急激な制動力ではなく、徐々に減速する制御になっている。

顔だけでなく上体の動きで異常を検知

現状、トラックにはドライバーモニターIIの設定はあるが、EDSSは搭載されていない。トラックの場合は、ドライバー異常について検知と警報までは行われるが、緊急停止スイッチや自動停止機能はこれからとなる。EDSSについてトラックよりバスを優先させたのは、ドライバーの健康起因による事故はバスのほうが植えているからだという。

ドライバーモニターはIIになって、カメラ性能と認識性能が向上している。以前から赤外線カメラを使い、夜間やサングラス着用などでも顔を認識していたが、マスクで鼻を覆ってしまうと顔認識ができなかった。この問題に対応するため、まずカメラの解像度を上げ、特徴点の抽出精度を向上させた。これにより、顔の輪郭やマスクや他の部分の凹凸から人間の顔をより正しく認識できるようになっている。

また、画像認識のAI(機械学習)も連動して学習を強化している。健康の異常や集中力の低下、居眠り、脇見などの検知パターンも増え、さまざまなシチュエーションでも誤検知を起しにくくした。

交差点や出会い頭の事故をミリ波レーダーで低減

サイドアラウンドモニターシステムは、ミリ波レーダーを2つ、フロントのバンパーコーナーに取り付け、出会いがしらや交差点の右左折時の事故防止に役立つものだ。事業用自動車事故における死亡者は、横断中の対歩行者が32%。出会い頭の衝突事故が11%。事故要因のトップ2となっている。

左右に振られたミリ波レーダーが、接近してくる自動車、バイク、自転車、歩行者を検知する。モニターシステムなので、接近する障害物の検知と警告はするが、ブレーキへの介入制御は行っていない。

死亡事故原因としては、追突も10%と高い比率になっているが、日野自動車の追突事故対策ではすでにPCS(プリクラッシュセーフティ)の導入が進んでいる。同社のPCSはカメラとミリ波レーダーを組み合わせているので、サイドアラウンドモニターシステムと合わせると3つのミリ波レーダーが搭載されることになる。

踏み間違いや誤発進は超音波センサーで検知

近年、新聞などを騒がせている事故に、アクセル・ブレーキの踏み間違いがある。この対策として、日野自動車は小型トラックに超音波センサーを利用した安全機能を搭載した。フロントグリルとバンパーに合計4つの超音波センサーを取り付け、前方の障害物を検知できるようにしている。

これだけなら、乗用車などにあるコーナーセンサーと同じだが、ブレーキやアクセルの制御機構が追加され、前方に障害物がある状態でアクセルの踏み間違えても、トルクカットとブレーキの介入制御が入る。想定しているシチュエーションは、駐車場からバックで出るとき、ギアを誤ってD(前進)に入れてしまってアクセルを踏んだときだ。フロントのセンサーが壁やウィンドウなど障害物を検知していれば、車が飛び出すことはない。

この制御は、10km/h以下の低速走行時も有効になっている。車庫入れや狭い場所で、超音波センサーが衝突の可能性を検知したら、接近警報をならし、衝突が避けられないと判断したらトルクカット(クラッチ切断)とブレーキ操作が行われる。

超音波センサーの状態は、クリアランスセンサーとしてメータパネルにインジケーターが表示される。このインジケーターによって、運転席から見えない障害物もおおよその位置と距離がわかる。

日野自動車は、安全機能の今後の方向性としてヒューマンエラーを低減することを考えている。ドライバーのミスなど人間が原因となる事故は、全体の9割以上とも言われている。この対策には、自動運転技術が有効であるとして、現状のADAS機能を拡張し、自動運転に発展させていく考えだ。

《中尾真二》

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