【プジョー 308SWディーゼル 3700km試乗】新エンジン+8ATのロングドライブ性能は?[前編]

プジョー308SW HDi GT-Line。安来駅にて記念撮影。
プジョー308SW HDi GT-Line。安来駅にて記念撮影。全 29 枚

プジョーの主力Cセグメントモデル『308』シリーズのターボディーゼルエンジンが昨年末、新鋭ユニットに切り替わった。変わったのは小排気量モデルで、従来の1.6リットル(120ps/300Nm)+6速ATから1.5リットル(130ps/300Nm)+8速ATに。その新エンジンが搭載されたステーションワゴン、『308SW』で3700kmツーリングを行ってみたので、レビューをお届けする。

テストドライブ車両は225mmワイドタイヤを履き、側面の下部にフィレット形状のアンダースカートを装着するなど走りの機能とドレスアップ性を高めたという「GT-Line Blue HDi」。2リットルターボディーゼルの「GT」と異なり、サスペンションはノーマルと同じで、最低地上高も変わらず。オプションのスライディンググラストップが装備されていた。

ドライブルートは東京~鹿児島周遊。往路、復路とも山陰ルートを通った。道路比率は市街地2、郊外路5、高速2、山岳路1。本州内は1名乗車、九州内では1~4名乗車。エアコンAUTO。

では、プジョー308SW GT-Line Blue HDiの長所と短所を5つずつ表記してみよう。

■長所
1. 泣く子も黙る600リットル超の巨大な荷室と、重量物積載にも耐える強固な床板。
2. 改良前に比べて格段に静粛性が上がった。エンジンだけでなく車体の遮音性も秀逸。
3. 5ドアハッチバック版に比べて挙動が落ち着いており、走りの質感が高い。
4. 前車追従クルーズコントロールが新設され、高速クルーズが安楽に。
5. ノンプレミアムでありながら、塗装がプレミアムセグメント並みに美しい。

■短所
1. 絶対性能は旧エンジンに勝るが高回転の切れ味、伸びきり感は旧エンジンのほうが上。
2. せっかく8速もあるのだから下の段はクロスレシオだったらより楽しかったのに。
3. 通常のハッチバックと同様、室内の小物収納スペースが不足気味。
4. 個人的にはシフトレバーはバイワイヤより改良前の機械式のほうが使いやすかった。
5. GTとしてみれは悪くない選択だが、タイヤはもう一段コンフォートでも良かった。

マイノリティになった「ツーリングワゴン」

プジョー308SW HDi GT-Line。鹿児島港にて。プジョー308SW HDi GT-Line。鹿児島港にて。
308SWの総評だが、ツーリングワゴンとしては言うことがないくらい良いクルマだった。何と言っても荷室が広い。リアシートを立てた状態でもVDA方式による計測で610リットルもの容積があり、長期旅行用の70cm級トランクもタテ積みできる。今回の旅はたまたま荷物が多めだったのだが、何の問題もなく積むことができ、リアシートバックを前に倒せばその脇で寝袋にくるまって車中泊することさえ余裕だった。「さすがシャルルドゴール空港とパリを結ぶ空港タクシーで多用されているだけのことはあるなあ」と、あらためて感心させられたことしきりであった。

ハッチバック版に対するアドバンテージもあった。それはクルマの挙動や乗り心地のフラット感、そしてリアシートのスペース。通常版は機敏さは素晴らしい半面、少々ひょこついた動きが多かったのだが、SWはその倍も落ち着いているような感じで、ロングツアラーとしてはこっちのほうが断然好印象だった。同様に、通常版の弱点であった後席の足元空間の狭さも解消しており、荷室の広さとあいまって4人乗車での長期ヴァカンス旅行も余裕であるように思われた。

新鋭の1.5リットルターボディーゼルは、パフォーマンス自体はとてもよかった。最高出力が130psあるので動力性能的に不満はないし、何より旧型1.6リットルターボディーゼルに比べてエンジン音が格段に静かになった。回転感も実に滑らかで、ヌルヌルと回るというフィールであった。半面、排出ガス規制強化の副産物か、高回転での切れ味、伸び切り感は旧型のほうが断然良く、スポーツ性という観点では一歩後退。燃費はトータルで20km/リットル超と、スポーツタイヤを履くにもかかわらず良好だったが、本気のエコランをやった区間のスコアは旧型が新型を大幅に上回った。

日本では長期ヴァカンスの習慣がないため、モノより人を積むことが重要視されがちだ。実際に日本車もミニバンのほうが圧倒多数派で、ステーションワゴンは絶滅危惧種とまでは言わないまでも完全にマイノリティだ。が、農産物がそうであるように、クルマも国際分業で、日本メーカーが作りたがらないようなものがあっても、308SWのようにそれを得意とする国の製品を持ってくればユーザーは何ら困らない。そんな時代になったのだなとあらためて思った次第であった。

新パワートレインの動的パフォーマンスは

ボンネット下には新開発1.5リットルターボディーゼルが収まる。ボンネット下には新開発1.5リットルターボディーゼルが収まる。
では詳細に入っていこう。前編では改良版308の目玉である新1.5リットルターボディーゼル(130ps/300Nm)+8速ATという組み合わせのパワートレインについて述べる。昨年3700kmツーリングを行った308ハッチバックの1.6リットルターボディーゼル(120ps/300Nm)+6速ATからエンジン、変速機がいっぺんに更新された格好だが、この新パワートレインのパフォーマンスは大変良好だった。

排気量1リットルあたりの出力が87psというのはノンプレミアムの実用ディーゼルとしては結構ハイチューンなほうだが、低回転からよく粘り、高速道路やバイパスのクルーズもきわめて低いエンジン回転数でこなした。GPS計測による8速・100km巡航時のエンジン回転数は約1600rpmで、1.6リットル時代のトップギア6速巡航時に比べて10%以上低下したが、その領域で少しスロットルの踏み込みを増すとシフトダウンなしに伸びやかに加速した。新東名でより速い流れに乗ったり、前を塞いでいた大型トラックがどいたときの再加速もノーストレスであった。

一方で、絶対的な動力性能については、少なくとも体感的には旧型に対する明瞭なアドバンテージは感じられず、活発なフィールという点ではむしろ旧型のほうが上回っている印象があった。昨年乗ったハッチバック版よりウェイトが重かったこと、走行抵抗の大きなスポーツタイヤを履いていたといった要因もあろう。が、それだけではなく、8速ATがプレミアムセグメントの多段ATと異なり、低速側のギア比や変速ポイントを加速重視にしているわけではないということが大きいように思われた。

インテリアは基本的にハッチバックと同じ。インテリアは基本的にハッチバックと同じ。
これは新パワートレインの動的パフォーマンスが低いというわけではなく、旧パワートレインがスペックのわりにダイナミックだったと言うべきであろう。同じユニットを積むシトロエン『C4』でツーリングしたときも感じたことだが、とくに中速からレブリミットまでの領域で素晴らしい回転上がりと伸び切り感があり、山岳路ドライビングも楽しくなってしまうようなフィールを持っていた。これに対し、新パワートレインはドライバーの要求するパワーを淡々と出すという感じである。

もう一点、フィールの違いを生んでいる要因として考えられるのは排出ガス規制対応。エンジンの応答性だけをピックアップすれば、エンジンから出てくる生の排出ガスのNOx(窒素酸化物)レベルを気にせず、尿素SCR内に処理液のアドブルーをたらふくブチ込んでやるほうが圧倒有利。新エンジンのまったりとした反応は、エンジンアウトの排出ガスレベルが低下したことの裏返しと言えよう。実測はしていないが、アドブルーの消費率は相応に少なくなっていると推察される。

新エンジンが旧エンジンを圧倒しているファクターは、何と言っても騒音・振動であろう。この点については比較にならないほどの進化を遂げた。もちろんエンジンをかければエンジンの音質などでディーゼルということは一発でわかるのだが、ステアリングへの微振動の伝わりが極小なうえ、速度が上がってくるとロードノイズにかき消されてエンジンノイズが聞こえなくなるくらい。旧型ディーゼルがかなり威勢の良いノック音を奏でていたのとは雲泥の差であった。

市街地での実用燃費が大幅に向上

総走行距離3714.7km。トリップメーターは2000kmで0km表示に戻る仕様だった。総走行距離3714.7km。トリップメーターは2000kmで0km表示に戻る仕様だった。
燃費はおおむね良好。すり切り満タン法による実測値は東京を出発後、京都北方の亀岡までの560km区間が21.5km/リットル、亀岡から山陰経由で福岡北部の直方までの686kmが21.2km/リットル。直方から九州一円をツーリングして鹿児島の薩摩半島南端に達し、その後直方まで戻った1158km区間が18.1km(途中で15リットルドーピング)。直方から山陰道、中仙道、東海道、新東名などを通って神奈川の秦野に達した1002km区間が21.5km/リットル。概して非常に安定的であった。

1.6リットル時代との対比でみると、まず旧型が相当に苦手としていた市街地走行時の燃費は大幅に向上。ライバルのディーゼルAT車とそん色ない数値になった。筆者の経験に照らし合わせても燃費にかなり厳しい鹿児島市街地でも15km/リットルくらいは走ってくれた。燃費を気にして丁寧に走ると東京、神奈川の都市・郊外区間混合では19km/リットル前後まで伸ばせた。

ロングランになると逆に旧型のエコぶりが際立ってくる。普通の5ドアに比べてSWのほうが車重や空力で不利、しかもエコタイヤvsスポーツタイヤといったハンディキャップは多々あったのだが、全区間で昨年の308のスコアを下回った。市街地燃費が向上したことによるストレス軽減は大きいが、エンジン変更を理由に旧エンジン車から買い換えるほどの違いはないだろう。

後編では走り、使い勝手、デザイン、安全システムなどについて述べる。

鹿児島に入行していた大型クルーズ船をバックに記念撮影。クルーズ船、こんなトップヘビーフォルムでよくも外洋航行を安定してこなせるものだ。鹿児島に入行していた大型クルーズ船をバックに記念撮影。クルーズ船、こんなトップヘビーフォルムでよくも外洋航行を安定してこなせるものだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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