「世界に飛び立つデザイナーに」大学生がバイク・デザインを体験…二輪デザイン公開講座

「二輪デザイン公開講座」に31名の学生が参加。バイク・デザインの基礎を学んだ。
「二輪デザイン公開講座」に31名の学生が参加。バイク・デザインの基礎を学んだ。全 19 枚

バイクのデザインを、プロの指導で体験する。バイク好きでなくても、デザインを学ぶ若者にとってこれは貴重なチャンスだ。「二輪デザイン公開講座」が今年も開催され、31名の学生がバイク・デザインの基礎に取り組んだ。

主催は公益社団法人・自動車技術会のデザイン部門委員会。中高校生向けの「カーデザイン・コンテスト」と、大学1~2年生を対象とするこの「二輪デザイン公開講座」で、同委員会は未来を担う人材の育成を図っている。

基調講演と「プロ技講座」は一般にも公開

「プロ技講座」でのデジタルスケッチの実演解説。「プロ技講座」でのデジタルスケッチの実演解説。
第7回を迎えた今回の「二輪デザイン公開講座」は8月22~23日、愛知県の名古屋芸術大学で開催された。初日午前中は基調講演と「プロ技講座」があり、ここまでが一般公開だ。午後と2日目は「デザイナー/モデラーの卵 養成講座」で、学生たちが4グループに分かれ、手描きスケッチ、デジタルスケッチ、クレイモデル、カラーリングの4講座をローテーションしながら体験。

講師を務めるのはホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ、そしてGKダイナミクス(ヤマハのバイク・デザインを1950年代から担当)のデザイナー/モデラーたちだ。

基調講演は一條厚氏。「自由人の一條です」と自己紹介したが、GKダイナミクスで長く活躍してきたバイク・デザイン界のレジェンドである。「バイクは危ないです。夏は暑いし、冬は寒い。ほぼ修行です」と逆説的な言葉で笑いを誘いつつ、「合理的に考えるとオートバイには逆風ですが、それにメゲずに新しいものを考えたい」。

基調講演した元GKダイナミクスの一条厚氏。基調講演した元GKダイナミクスの一条厚氏。
さらに、「二輪車はまたがる、クルマは座る。この違いは大きい。またがることで、人とモノが一体になった非日常が味わえる」と一条氏。「バイクは自ら身体を動かして運転するので、自動運転は難しいのではないか。運が悪いと転ぶのが運転だ」と続けた。

バイクのデザインについては「個々の要素から全体を創る。インテグレートしない、カバーデザインをしないのがバイクだ」とした上で、「人間の運動能力を拡張するのが乗り物。だから動態は美しい。力感と張りで生命力のあるデザインが生まれる」。軽妙な語り口で聴衆を惹き込む一条氏。基調講演の1時間はあっという間に過ぎた。

「プロ技講座」ではまず、ワコム製ペンタブレットを使ったデジタルスケッチをホンダのデザイナーが実演。モデリングのパートでは、スズキのモデラーがクレイモデル工具の使い方やデジタルモデルの基礎知識を解説。最後にGKダイナミクスのデザイナーがCMF(カラー・マテリアル&フィニッシュ)の仕事内容を紹介し、その意義や役割を説明した。

「デザイン」という言葉は知っていても、それがどう生まれるのかを知る機会は少ない。学生だけでなく一般参加の大人たちも、「プロ技講座」を熱心に聞き入っていた。

プロの直接指導でデザインに挑む

手描きスケッチ講座の初級者向け教材。手描きスケッチ講座の初級者向け教材。
初日午後からは、いよいよ学生たちが課題に挑む「デザイナー/モデラーの卵 養成講座」だ。デザイン学生とはいえ経験に個人差があることを考慮して、手描きスケッチとデジタルスケッチには初級向けと中級向けのプログラムが用意されている。

手描きスケッチ講座の初級は、円柱などの基本立体の線画にコピックマーカーやパステルで色付けし、立体感を描き出すという基礎からスタート。さらにバイクのサイドビュー・スケッチへと進んでいく。中級はサイドビューからスタートし、斜め前ビューの鉛筆スケッチで線の強弱や勢いの大切さを学んだ。いずれも下絵を線画はあらかじめ用意されているし、お手本を見ながら描くから、短時間で効率よくテクニックを習得できる。

ひとつのグループのなかで学生を初級と中級に分け、それぞれに講師が付いて学生のペースに合わせて指導。「以前は分けずに教えていたが、初心者はどうしても時間がかかるので、経験者が退屈してしまうことがあった」(デザイン部門委員会・委員長のヤマハ田中昭彦氏)とのこと。回を重ねるごとに、指導方法をブラッシュアップしてきたのだ。

デジタルスケッチ講座。デジタルスケッチ講座。
デジタルスケッチ講座はほとんどの学生が初級を選んだ。タブレットにスクーターの下絵が用意されており、講師の説明を聞きながら、1ステップずつスタイラスペンで色付け。中級は各グループ1名だけなので完全な個人指導だ。スポーツバイクの下絵に、カウルの立体構成を意識しながら色を載せていく。

手描きスケッチでもデジタルスケッチでも、講師が強調していたのは質感表現。バイクにはメッキ、樹脂、金属、レザーなど様々な素材が使われている。講師陣からは、「質感の違いを描き分けられるようになることが、バイク・デザイナーの基本」、「バイクのスケッチを描けるようになれば、クルマでもプロダクトでも描ける」といった声が聞かれた。

クレイ講座クレイ講座
クレイモデルの講座では、ホンダ『モンキー』の燃料タンクのモデリングに挑戦。実物のタンクの立体構成を観察し、相貫線(立体と立体が交わるライン)の位置を見出してそこにテープを貼り、テープをガイドにクレイを盛ったり削ったり…。参加学生のほとんどがクレイは初体験だが、学生2人に講師が1人という手厚い体制のおかげで、90分の講習が終わる頃には工具の使い方にも慣れてきた様子だった。

カラーリング講座はヤマハ『セロー』のカウルにステッカーを貼る作業。ステッカー形状はあらかじめ決められているが、くじ引きで選んだテーマ(誰とどこで何をするか、という状況設定)に合わせて色の組み合わせを選定。選んだ色のカッティングシートをプロにNCカッターで切り出してもらい、それを慎重にカウルに貼り付ける。テーマを色でどう表現するかがポイントだ。

将来の糧となるイベント

すべての講座を終え、閉会式で各学生に修了証を授与。学生を代表して、名古屋学芸大学・メディア造形学科2年生の伊藤康佑君が「企業の人としっかり話すのは、なかなかできない経験。主催してくださった皆さんに感謝しています。一生の思い出になるような機会だったので、これを糧に二輪のデザイナーを目指したい」と感想を語った。

デザイン部門委員会の田中委員長は、「学生が皆さん、すごく真剣に、楽しそうにやってくれたのが我々としても嬉しい」と2日間のイベントを振り返りつつ、こう続けた。「二輪デザイン公開講座ではあるけれど、乗り物全般に通じるデザインのいちばんの基本を知ってもらえたと思う。そこを今後の学習に活かしてもらいたい。世界に飛び立つデザイナーとして成長してほしいですね」。

過去の「二輪デザイン公開講座」に参加し、バイクメーカーに就職した実績はすでに少なくないという。また、中高生対象の「カーデザイン・コンテスト」に応募し、今回の講座にも参加したという学生も複数いた。デザイン部門委員会の人材育成活動は着実に成果を上げつつあるようだ。

講座を終えた学生たちの全員集合!講座を終えた学生たちの全員集合!

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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